オーガ族
よう、久しぶりに語るとするか、現魔王ミツナリ・オオカネだ。俺は今から獣人王国の首都コロッセオに向かうため、トキトバシの部屋へと来ている。
だが、今回は他国に入るので、いきなりトキトバシで相手の首都に飛ぶことはできない。面倒な話だが、これもルールという奴だ。こういうところにも配慮と言うべき礼儀がある。
トキトバシ自身は獣人王国の首都に飛ぶことはできるらしいので、帰るときは安心だな。
「獣人王国の国境沿いに馬車を用意してくれてるんだな」
「はい。手配は済んでおります。国境までの案内も務めることでしょう」
今回、エリカは連れて行かない。前回の機械族イマリのこともあるので、随分とついてくるとしつこく言われたが、悪魔族と獣人の仲の悪さは有名なのだ。態々エリカを連れて行って刺激を与える必要はない。
何よりも同じ獣人であるフェルたちが護衛として着いてきてくれるので、そこまでの問題は起きないだろう。
フェルはウルフ族で、ぶっちゃけ狼とか犬的な奴だ。俺に忠誠を誓ってくれているようで、一緒にいるときは尻尾が常にブンブンと振られている。
可愛くて触りたいと思うが、奴にもプライドがあるかもしれないのでここは我慢だ。今度許可をもらって触らせてもらおう。尻尾は触れないが、たまに良くできた時は頭を撫でてやるようにしている。
身長は伸びてきてはいるが、まだまだ俺と変わらないので座っていれとまるで弟に勉強を教えているようで可愛い。
「護衛は25名。内、獣人22名。妖怪族2名、トキトバシとのっぺらぼう。そして、オーガ族のガンテツで問題ありませんでしょうか?」
「ああ、問題ない」
「本当によろしいのでしょうか?一人だけでも悪魔族をお連れになってはいかがですか?」
悪魔族は一人で、戦局を覆すだけの力を持っている。だが、悪魔族を毛嫌いしている獣人王国に悪魔族を連れて行くと言うことは、喧嘩を売っていると思われても仕方なくなってしまう。
「今回に限っては悪魔族を連れて行くことはできない。エリカもわかっているだろう」
「………はい。ご無事を祈っております」
全然納得した顔してませんけどね。リリス師匠のところで分かったことだが、エリカは案外頑固だ。俺が死んだと知ったときは自分も死のうとしたほど忠誠心が高く。蘇ってからは熱い視線で見られていることにも気づいている。
俺はエリカに愛されているのだろう。だが、なぜかその愛が恐い。リリス師匠が言うには「あの子は異常な愛情を持っとるからね。気を付けることだ」と言われた。まだ、俺の知らないエリカがいるということだろう。
どんな恐ろしいモノが出てくるか分からない以上は、保留にさせてもらおう。俺も応じれるとは限らないからな。もちろんエリカは綺麗で申し分ないのだが、なぜか触れてはいけない気もする。
「ああ。じゃあ、行こうか。トキトバシ頼む」
「あいよ」
トキトバシの間にいるエリカ以外の面々が鏡の中へと吸い込まれ、いつの間にか景色は城の中から街へと変わっていた。
「ついたぞい」
「ああ、ありがとう。トキトバシは呼ぶまで休んでいてくれ」
「あいよ」
トキトバシが姿を消すと、代わりに街の者が姿を現した。
「オーガの街へ良くぞいらっしゃいました。魔王様」
「おっおう」
いきなり現れてビビった。オーガ族と言われる赤鬼が挨拶してきた。特徴的な角とノーマルよりも一回り大きな体、そして獣人と同じく肉体強化に魔力やスキルを振り分けられた種族で、かなりの強さを持っているとリリス師匠に教えてもらった。
そんなことよりも俺が注目したのは、他の種族と違って彼らの服は純和風というか、着物や甚平のような服を着ている者が多い。
「ああ、出迎えすまない。此度は獣人王国に入るための馬車を用意してくれたそうだな。手間をかけさせてすまない」
「何をおっしゃいますか、魔王様が世界樹の管理をしてくださるからこそ、我々も安心して暮らしていられるのです。馬車の用意などたやすいことでございます」
目の前にいるオーガは赤い肌をした屈強な青年なのだが、口調は礼儀正しく。粗暴なイメージの鬼とは思えない。顔もイケメンだし。
「オーガ族のガンテツには色々と世話になっている。此度は我の護衛もしてくれるのだ。いつも感謝感謝している」
「ありがたきお言葉、我が兄は無口なれど喜んでいることでしょう」
えっ?君たち兄弟なの?言われてみれば赤い肌一緒だけど。ガンテツはゴツゴツとした強面なのだ。それに対して目の前の青年は、肉体屈強だけど顔イケメンだ。
「兄上。魔王様の護衛ご苦労様です」
「うむ」
後ろに立つガンテツはいるだけで超怖い。まず顔が恐い。低い声が恐い。バッキバキな体が恐い。ダメだ。なんか恐いしか浮かんでこない。
「んんっそれで?貴殿の名前はなんという?」
咳払いで気分を変えて、俺は相手の名前を聞いた。
「はっ、これは魔王様に名も名乗らず申し訳ありません。私はガンテツの弟で、オーガ族の新たな親方となったアカイシと申します」
親方とはオーガ族の代表を意味する。
「そうか、アカイシ。此度は獣人王国の国境までの案内頼んだぞ」
「はっ誠心誠意務めさせて頂きます」
う~ん、真面目なイケメンって、……なんかイヤだ。




