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キングの条件

 マウンテン族のゴーリキが調べた内容は、一人のモンキー族が反魔王を訴えて他の種族を吸収していった内容が書かれていた。

 報告書には他の種族を吸収した手口や、モンキー族がどのような人物で、自分のことを教祖ビノと呼んでいることが書かれていた。


 その内容を呼んだ俺はある結論に至った。


「マサキたち以外にも動き出した奴がいたみたいだな」


 俺は魔王になるにあたり決意したことがある。この世界に害なす者を俺の手で排除する。ビノはクラス内でも地味なメガネで、運動も勉強もできない冴えない奴だった。

 それなのに自信家とでも言うのか、口癖は「僕は選ばれた存在だ」と言っていた。まぁかかわりたくない奴ではあるが、ここまで大きなことをする奴だとは思っていなかった。


「エリカ、いるかい」

「はい。ここに」

「ゴーリキを呼んでくれないか」

「どうされるのですか?」

「ゴーリキに頼みたいことがあるんだ」

「かしこまりました。すぐに呼んできます」


 ゴーリキに頼んだ用事は、獣人王国のキングであるキングライガーに獣人王国に訪れる許可をもらうということだ。

 獣人王国は他の種族と違い。一つの国として扱われている。そのため、魔王が訪問する際はキングに許可を取らなければならない。だが、獣人の伝手などゴーリキ以外いないのだ。


「かしこまりました。必ず、キングとの繋ぎをつけてきます」


 ゴーリキ自身も伝手はなかったが、同じ獣人として、快く承諾してくれた。ゴーリキには魔王の使者として手紙を渡してある。

 移動にはトキトバシの爺さんにも協力してもらい、早朝に出発したゴーリキは夜の内には答えを持って帰ってきた。


「ただいま戻りました」


 執務室の扉を勢いよく開いてゴーリキが入ってきた。


「どうだった?」

「キングライガーより、魔王陛下の来訪を心より歓迎致すと言葉を預かってまりました」

「そうか、よくやってくれた。ケガはないか?」

「いえ、問題ありません」


 ゴーリキは無事に帰ってきたが、その体は傷つき容易な仕事ではなかったことを物語っている。


「よくやってくれた。向こうからは何か条件はあるか?」

「はい。条件と言うほどではないのですが、近々大武闘大会が開かれるそうなのです。その大武闘大会を観覧してほしいとのことです」

「大武闘大会?」

「はい。大武闘大会とは、獣人王国で開かれる最大規模の祭りであり、獣人王国では大武闘大会で優勝した者が次のキングになるのです」


 ゴーリキの言葉に俺は驚きを禁じ得ない。弱肉強食を信条としているのは知っていたが、まさかキングですら強さで選ばれているとは予想もしなかった。

 しかも、そんな重要な場所に参列することに、意味がないとは思えない。キングの思惑に思案を巡らせながら、疑問を口にする。


「条件はそれだけか?」

「いえ……キングライガーからは、次のキングが決まった際に魔王様と戦ってもらえないかと打診がありました」

「次のキングとの対決が条件?」

「そうです。それが来訪の条件であるとキングから」


 キングライガーに何かしらの思惑があることは明らかだが、この条件をもらうためにゴーリキは頑張ってくれたのだろう。

 ゴーリキの身体や顔についた生々しい傷に応えられる魔王でなければならないと思った。


「いいだろう。その条件を飲もう」

「よろしいのですか?」

「構わない」


 ゴーリキは力強く掌と拳をぶつけて涙を流していた。


「ありがとうございます。我が主はキングにも負けぬと言った言葉が嘘ではないと証明できます」


 おいおい、お前がすでに応じているのと同じじゃねぇか。


「それで?大武闘大会はいつ開かれるんだ?」

「三か月後の火の月に開かれることが決まっております」

「ご苦労であった。此度はゆっくりと休むがいい」

「ありがたきお言葉。大武闘大会には我も同行させて頂きます」

「ああ、そのときは頼む」


 ゴーリキが去った執務室に代わるようにエリカが入ってきた。


「よりよい返事を頂けたようですね」

「ああ、ゴーリキはいい仕事をしてくれた」

「本当にキングと戦うおつもりですか?」


 エリカは、話を聞いていたのだろう。そして、先の戦いでミツナリが死んだことを知っている。心配してくれているのはわかる。

 一度、イマリとの対戦で俺は死んだ。今回はそんなヘマをするわけにはいかない。


「そのつもりだ。だが、今回は一人で戦うわけじゃない。ゴーリキも、そしてフェルも連れていく」

「フェルですか?」

「ああ、あと三か月もあれば、フェルを一人前にするのには丁度いいだろ」

「彼に期待しているのですね」

「ここに来てからあいつは頑張っている。元々賢かったのもあるのだろうが、文字や数字も覚え、歴史や常識も勉強しているそうだ。何よりも、ウルフ族の獣人として恥ずかしくない強さも手に入れつつある。俺の手駒としていい働きをしてくれるだろう」


 俺は椅子から立ち上がり窓の外を見る。


 そこにはちゃんとした食事を取れていなかったことで止まっていた成長期を取り戻すように、身長や肉体が成長していくフェルの姿があった。

 同じ施設から連れて来た獣人の子供も成長しているが、フェルの成長は他の者たちよりも著しい成長速度だった。


「手駒ですか?」


 俺の言葉にエリカが呟く。


「どうした?」

「いえ、魔王様は以前よりも元の魔王様に似てこられましたね」

「そうか?自分じゃわからないが、嬉しいな」

「嬉しいですか?」

「何かおかしいか?」

「いえ、魔王様が嬉しいのであればよいと思います」


 エリカの言葉は歯切れが悪かったが、それ以上の言葉を続けることはなかった。俺はそれ以降三カ月間の間、仕事の合間にフェル指導をするようになった。

 

 それは戦いだけでなく、俺の考えをフェルにも教えていった。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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