報告書 後半
モンキー族の獣人は、僕いう旗印を得たことで勢いづいた。元々獣人は各種族ごとに争いが絶えない。モンキー族はイリムー族と長い年月、争いを続けていた。
そんな折、イノムー族に強力なスキルを持った者が生まれ、モンキー族との抗争に決着を付けようとしていた。
「なら、今は攻め時だな」
それを倒したのが僕というわけだ。モンキー族の村長モエラドは、これを好機と判断してイノムー族を倒すと言ったが、僕は逆にモンキー族のモエラドを利用してイノムー族を吸収した。
「我々がモンキーに屈するなど」
イノムーの村長はクソ爺だったので、首をはねた。さらに、反抗的な態度をやめない男や、醜い女性たちも殺した。
残ったのはイノムー族の中でも綺麗な女性(僕の価値観で)と、気弱なイノムーの子供ばかりとなった。
僕は子供に戦い方を教え、子供たちに僕こそが主であると教え続けた。
「獣人は強い者に従う。お前たちはこれから我が作る世界の信者となるのだ」
「信者?」
イノムーの少女が僕に疑問を口にする。
「そうだ。今日から僕のことを教祖様と崇めるがいい。我が名はビノ。教祖ビノだ。そして、我が作る世界はドラモン教が支配する。我はドラモン教の開祖となる者だ」
ドラモン教と名付けた宗教団体は、丸々と太った猫を神として崇め、魔王や世界樹ではなく獣人至上主義を唱えた団体として、反魔王を訴え立ち上がった。
ビノは子供たちを信者として鍛え続け、他の不足へ襲い掛かった。ホース族、ラビット族、タイガー族、ベアー族、次々と名のある種族を取り込んでいった。
その勢いを止められる者はおらず、彼らは破竹の勢いで領土を広げていった。
「ビノ様、本当に我々の救世主様じゃ」
モエラドは自らも手駒として使われたことも喜んだ。強さだけでなく、その知識にも感服したのだ。そして、自らの孫娘であるミドラをビノの婚約者として差し出した。
ミドラは獣人にしては珍しく肌に生える毛が薄く、ノーマルに近いためモンキー族内ではあまり好まれていなかった。しかし、その見た目は美しくホンダが一番に欲しいといった女性なのだ。
だが、村長の孫娘ということで、これまでモエラドによって守られていた。そんな女性をモエラドの方からビノに差し出すと言い出したのだ。
「いいのか?大切にしていたのだろう」
「あのホンダにはやりとうございませんが、ビノ様の嫁となれるのであれば、我が孫娘も本望でありましょう」
そう言って連れてこられたミドラは確かに美しかった。顔には一切毛が生えておらず、腕や足に生えている毛もまるで服を着ているように整った形をしている。
「ビノ様。私をどうか可愛がってくださいませ」
まだ、15になったばかりという少女は恥ずかしそうに、俺の前に膝を突く。胸はまだまだ発展途上なのかあまり大きくはないが、それがビノには丁度いいと思えた。
「いいだろう。お前を俺の嫁とする」
モンキー族から嫁を得た話を聞きつけた他の種族も、ビノに気に入られたいと、自らの種族から見目麗しい女性を続々と連れてきた。
こうしてビノは大勢の嫁と手勢を手に入れ、更なる快進撃を続けることになる。
そんなドラモン教を獣人王国のキングが黙ってみているはずがない。
「地方の一部ではあるが、別々の種族がまとまりつつあるというのは本当か?」
「まだ、詳細はわかりませんが、決闘場だけでなく、森や山での戦いも負けなしの組織があるようです」
すぐにキングは対抗策を考えるため、各種族の族長を集めた。だが、その会議の場で驚くべきことがおきた。
「我々は強者に与する。キングよ。主はドラモン教の教祖ビノに本当に勝てるのか?主が大武闘大会で優勝したことは認めよう。だが、ここまでドラモン教の教祖は他の族を吸収する際に戦闘での勝利を見せつけてきた。それは我々が教示とする力を示したということだ。主に、あれを倒す力を見せられるのか?」
ヨルノズク族、ハウンド族、ウルフ族、マウンテン族など。様々な族長たちが集まった席で、追及を受けたのはキングの方だったのだ。
「よかろう。ならば力を見せてやる。大武闘大会を開催することをここに宣言する。我を倒せると思うならば、我の前に顔出す機会を与えてやろう。もちろん、ドラモン教の教祖にも参加資格と招待状を送ることをここに約束する」
キングの言葉に族長たちは頷き合った。彼らはキングライガーの強さを疑っているわけではない。ただ、獣人とは強さを問われれば、それに応える義務が生じる。強者は何をしても許され、弱者は全ての事が罰せられるのだ。
この知らせを受けたビノは、頬を釣り上げた。
「獣人の王か、こんなに早く機会が回って来るとはな」
大武闘大会が開かれるのは、招待状が送られてから半年後のことであり、ビノはその間に王国へ通じる種族たちを次々とドラモン教の信者として平伏させていった。
モンキー族から始まった僕の旅は獣人王国の首都であるコロッセオにやってきたことで完遂しようとしていた。
すでにここに来るまでの半年間で獣人の半数近い者たちに反魔王精神を植え付け、ドラモン教が正しい道であると説いてきた。
「教祖ビノ様。我々の家が見えてきましたよ」
獣人王国の首都にも使徒がおり、こうしてビノを迎えるために屋敷まで明け渡してくれたのだ。
「そうだな。外で待機している者たちにも労いの言葉をかけてやってくれ」
ビノは獣人王国の首都に来るにあたり、部隊を三つに分けたのだ。一つはビノと共に首都に顔を出し、正々堂々と戦う者たち。
次にもしも大武闘大会で思惑通りいかなかった場合に備えて控えさせている部隊。彼らは一人の力が全てではないとビノに教え込まれた者たちであり、大部隊で強襲することも問題にしていない。最終的に勝てばいい。そう教え込まれてきたのだ。
最後の部隊は有る不穏分子に対して用意した言わば切り札となる者たちだ。
「それで?首尾はどうなっている?」
「ビノ様の言われた通り、心を同じくする者たちはかなりの数が揃っているようです」
「うむ。ならば問題ないな」
ビノは連れてきていた部隊以外にもある仕掛けをしていた。獣人王国転覆。それが今回の計画であり、また転覆させた獣人王国のあとに君臨するのが自分自身であることも、すでに出来がっているシナリオなのだ。
「予測不能な出来事があるとするならば、あいつの存在だな」
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