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報告書 前半

三百名の中から百名を採用した。面接を一か月近くかかった人材採用も、終わってみれば新たな人員の仕事が始まる序章に過ぎない。

 今まで魔王一人で取り仕切っていた書類などの精査を、エリカを中心とした文官で振り分けた。さらに各種族ごとに雇った調査員たちに書類の正当性を確かめてもらう。


 文官と調査隊に分けた人員から、さらに予算委員や文書作成委員など。数字のかける者と文字の書ける者を分けた。


「とりあえず、人事異動は終わったな」

「はい。知りませんでした。人手があると仕事がはかどるのですね」

「何を当たり前のことを言ってるんだ?これでも、まだ機能してない方だ」


 確かに人手が増えたことで、チェックできる量は格段に増えた。だが、まだ仕事を始めたばかりでミスが多く。まだまだ洗礼しなければならないところが多い。

 エリカにも人員が増えたことで、人を使う仕事が増えたはずだ。


「確かにまだまだ効率が悪いところがありますね。それぞれが考え発展していかなければなりません」

「だろ。それに使い辛い奴。向き不向き。性格や環境に馴染めない奴。時が経つにつれてどんどん問題は出てくるさ」

「人を使うのはメリットばかりではないのですね」

「ああ、それらを一つ一つ越えていかなくちゃな」

「大変なものですね。では、その一つ目として、彼の調査報告です」


 エリカが机の上に置いたのは、ゴーリキが初めて行った仕事だ。それは獣人に蔓延る宗教団体の調査をまとめた物だ。ゴーリキが必死に調べたというのは、この書類を見ればよく分かる。


 だが、そこに書かれていた事実に俺は頭が痛くなる思いがした。


ーーーーー


 僕は子供の頃から自分を選ばれた存在だと思っていた。それなのに周囲の人間は僕のことを認めようとしない。父や母ですら、僕を兄のオマケとしてしか見ていないのだ。

 だが、僕はやはり選ばれた存在だった。僕はこの世界に選ばれてやってきたんだ。


「教祖様」


 僕の目の前には犬耳と毛深い顔をした女性が膝を突いてしなだれかかってきた。これはコスプレなんかじゃない。彼女の耳は正真正銘の犬耳であり、顔を覆う毛は彼女の顔から生えているのだ。


「うむ。我のいうことを聞いていれば間違いない」


 そうだ。僕は正しい。僕こそが選ばれた存在なのだ。マサキ?フルヤ?ニイミ?あんな奴らはバカでしかない。ちょっと顔がよくて、運動が出来ようと。賢い人間こそが一番正しいのだ。

 

 賢い人間、それが僕だ。


「おい、ホンダ、ゴウダ」


 僕は二人の強面に声をかける。この二人は元相撲部と元柔道部で運動しかしてこなかったバカだ。それでも昔からの付き合いで仲良くしてやっている。

 だが、今は僕の単なる駒だ。いくら力があろうと使う頭がなければ意味がない。


「ん」

「なんじゃ!」


 ホンダは声を出すのも面倒なのか、太った図体で果物を口に含みながら頷く。ゴウダは逆にデカイ声で返事をする。毛の薄い女性の中でもグラマラスな女性を選んで裸の付き合いをしてやがる。


「俺たちが魔王を倒して、本当の勇者ってことを教えてやるんだ。わかってるんだろうな」

「ん」

「ガハハッハハ。お前のお陰で良い暮らしが出来取るんじゃ。信じとるぞ」


 ホンダは食、ゴウダは色を好んでいる。本能に忠実で扱い奴らだ。しかも、相手をしている女性も同じように本能に忠実で扱いやすい。ここから僕は世界に君臨する王なるのだ。

 

 あのとき、クラスメイトから離れて行動を開始したとき、初めてついた村が獣人の村だった。最初は村に入って食事やら服やらを漁る盗賊のようなことをした。

 だが、獣人どもはホンダとゴウダに吹き飛ばされて負けた瞬間に頭を下げてきた。


「ここまで強い方だったとは知らずに申し訳ありません。ピッグ族とマウンテン族と思われますが、なんと強い。我々は強者に従います」


 どうやら二人を獣人と誤解したようだ。村長であるサルの獣人はそう言って平伏した。俺はそれをいいことに、その村でやりたい放題してやった。

 しかし、村の者は逆らうどころか、酒池肉林の歓迎でもてなしてきたのだ。だが、何事にも裏がある。


 数日後、他の村からイノシシの獣人が村を襲いにきた。村長は俺たちを矢面に立たせてこういったのだ。


「あなたたちほど強ければ奴らも倒せます。どうか我々をお救いください」


 気が大きくなっていたホンダとゴウダはイノシシに挑んでいったが、あっさりと返り討ちにあった。


 襲ってきたイノシシの獣人は強く二人を力で跳ね返して見せた。二人もスキルで強化しているはずなのに、それでも相手の方が上なのだ。


「ブヒヒヒヒヒヒ。この程度のザコしかおらんのか?ならば、この村は俺様イノムー様が支配してくれるぶー」


 イノシシはバカにするように二人を見下ろしていた。


 あんな馬鹿な奴らでも、ここまで来るのに随分と助けられた。僕は体が細くて目も悪い。体力もないし、力もない。だけど、この世界に来て、僕はスキルを手に入れた。


「おい、ブタ」

「あぁ?」


 僕の呼びかけにイノシシの獣人がこちらを見る。なんとも醜悪の顔をしたやつだ。


「お前は本当に不細工でキモイ顔をしているな」

「なんだ?サルの獣人か?それにしても細くて弱そうな奴だ。お前みたいなやつが俺に何を言おうと痛くもないわ」

「そうか、僕が一番強いと言ってもか?」

「あぁ?お前が一番強い?その体でか?ブヒヒヒヒヒヒ。笑わせてくれる」


 イノシシの獣人の後ろにいたイノシシたちまで僕を笑っていた。だから、僕は容赦する必要はないと判断する。決意を込めてメガネを押し上げた。


「そうか、愚か者には罰を与えないとな」


 本能に忠実な奴って言うのは、本当にバカだ。嘲笑う相手を間違えてるんだよ。


「ブヒ?」

「反転」


 俺が使うスキルは反転。相手の能力と自分の能力をソックリ反転させることができる。つまり、僕が弱ければ弱いほど、相手が強ければ強いほどこの力は効力を発揮する。


「なっなんだ?」


 自分の体に力が入らなくなったことに驚いているのだろう。逆に俺はイノシシの力やらスピード。筋力が実感できる。


「死んどけ」


 有り余る力を持ってイノシシを捻り潰した。さらに、従っていたイノシシに視線を向ける。


「まだやるか?」

「「「ブヒーーー!!!」」」


 数名のイノシシたちは一目散に逃げて行った。


「ありがとうございます。ありがとうございます。あなたこそが我々の英雄だ」


 サルの村長は大喜びで僕の周りを飛び回る。ああ、そうだ。僕こそが選ばれた存在なのだ。もっと力を示さなければならない。

 この世界で一番偉いのは誰だ?この世界で一番強いのは誰だ?もちろん僕だ。魔王じゃない。邪魔な奴は排除しなければならない。


「我らが英雄のお名前を聞いてもよろしいでしょうか?」


 戦闘でズレてしまった眼鏡を元の位置に戻す。


「ビノだ。俺のことは教祖ビノと呼ぶがいい」

「教祖ビノ?」

「そうだ。我は英雄ではない。魔王を倒すため立ち上がった神聖な存在だ。我こそ教祖ビノ。魔王を倒す者だ」


 ビノの言い知れぬ言葉にサルの村長は崇めるように平伏する。それに習って同じ種族の者たちはビノを崇めるように膝を突いて頭を下げて行った。 

いつも読んで頂きありがとうございます。

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