手駒
俺はトキトバシを呼んで、誰にも見られることなくフェルたち獣人二十三名を城へと連れ帰った。
「誰か?誰かいるか?」
城についたのを確認したところで、俺は誰かいないかと声を上げる。獣人たちはキョロキョロとトキトバシの部屋を見ている。その姿はススと汚れでかなり汚らしく、トキトバシも彼らの様子に嫌そうな顔をしている。
「はい。何用でございましょうか?」
現れたのは顔のない妖怪族だった。メイドの服を着ているので女性?なのだろう。
「君はのっぺらぼうかい?」
「はい。私はのっぺらぼうです。存じ上げて頂き光栄にございます」
「固い挨拶はいいさ。頼みたいことがある」
「はい。私は誰にでもなれます。どのようなお仕事でもお受けしますよ」
のっぺらぼうは自己紹介とばかりにエリカさんやジェシーに姿を変えて見せた。それは顔だけでなく、体型や声色までそっくり同じになるのだ。
「凄いスキルだな」
「ありがとうございます。それでご用とは?」
「あぁ、すまない。この者たちを風呂にいれてやってくれないか?」
「うわっ汚い!」
のっぺらぼうは獣人たちの姿に驚いたようだが、顔がないのでよくわからない。俺も言われてから彼らを見れば、異臭が鼻の中に入ってきた。獣臭い。
灰とゴミに埋もれていたあの場所では匂いなど気にならなかったが、城に移動してきたことで彼らから放たれるが異臭が強調される。
「頼めるか?」
「やりがいがありますね。お任せ下さい」
「フェル。彼女についていけ。まずは身なりを整えろ」
「あんたはいったい何者なんだ?」
「それは後で話す」
黙って状況を見ていたフェルも、俺の言葉に頷いてのっぺらぼうへ近づいていく。のっぺらぼうは袖をまくり上げて、獣人たちを誘導し始めた。
「さぁ、あなたたちいつまでもそんな恰好は許しませんよ。私があなたたちを綺麗してあげます。私の何もない顔のようにね」
のっぺらぼうは振り返って獣人たちを見ている。だが、目も鼻も口もないので、獣人たちからすれば恐怖の言葉に聞こえたのか誰も返事をせず、ただただ何度も頷いていた。
「それと、こいつらがまとめて寝られる部屋も提供してやってほしい」
「かしこまりました」
去り行く背中に声をかければ、のっぺらぼうは声と共に頭を下げた。獣人たちは風呂と言う言葉に嫌そうな顔をしていたが、久しぶりに綺麗になりたい誘惑に勝てなかったか、それとものっぺらぼうが恐かったのか、素直に従っていくようだ。
「魔王様や、なんなんじゃありゃ?最近噂になっとる獣人じゃろう。しかも子供じゃ」
「そうだ」
「どうしてそんな奴らを連れてきたんじゃ?」
俺はフェルと言う人物は、信用に足る人物だと思った。弱肉強食な獣人たちの中で、フェルは子供たちを守るという獣人の常識から外れる行動をとっていた。
それが俺には好感が持てたのだ。強い者に従わない。俺とは正反対の思考を持つフェルがカッコいいと思った。
「獣人の手駒がいる。今はいくらでも人手がほしい。子供ならこれからの教育次第でいくらでも化ける可能性があるからな。何よりも現状で、一番情報がほしいのは獣人についてだ」
「なるほどのう。単なる人助けかと思ったが。あくどいの」
「これは正当な交換条件だ。あいつらには衣食住、さらに仕事を提供する。その代り、あいつらは俺に情報を持ってくる。正当だろ?」
「魔王様は悪魔ババアに教育されたせいか、随分と恐くなったものじゃな。コワヤコワヤ」
トキトバシは恐いと言いながら姿を消してしまった。
「何が恐いのやら。とりあえずはあいつらのことはのっぺらぼうに任せておくとして、シェリーの方はどうなったかな?」
執務室に戻れば、秘書室にはエリカさんもシェリーの姿もなかった。代わりに執務室から見える広場には大勢の人が集まってきていた。
「何が起きてるんだ?」
「魔王様、お戻りになられていたのですね」
俺の気配に気づいたのか、エリカさんが執務室へと入ってきた。
「ああ、今戻った。これはどういうことだ?」
すでに日は暮れかけているというのに城に向かってくる人々は増えるばかりだ。
「魔王様が張り出されたふれが、この騒ぎの原因です」
「ふれ?ふれって人材募集のか?」
「はい。皆、魔王様の下で働きたいと集まってきております。どうやってこの騒ぎを治めるするつもりですか?現在はシェリーとメイドたちで抑えておりますが、そろそろ限界です」
人材募集を出してから時間が経っていないというのに、これだけの人が集まるとはありがたい話だ。
見える範囲で悪魔族や妖怪族などの元魔王の下で働いていた者たちから、精霊族や獣人。さらには海や空に住む者たちの姿も見える。
城の前には数えきれない人が集まってしまい、パニック状態になっていた。
「あぁー魔王様!よかったお戻りになられていたんですね!」
開いている執務室の外からシェリーが大声で俺の帰還を喜ぶ声がする。
「魔王様、こんなに募集が来て、我々だけでは処理しきれません」
泣き言をいいながら、本当に半ベソをかき始める。コロコロと変わるシェリーの顔は見ていて面白い。
「あ~わかったわかった。とりあえず呼んできてほしい奴らがいる」
俺はシェリーに頼んで城に勤める者を二人ほど呼んでもらった。彼らは俺が知る限りで、この場に一番適した能力を持っているのだ。シェリーは三十分ほどで、二人を俺の下に連れて来た。
「魔王様、私たちにご用とはなんでしょうか?」
一人は小柄な少女のようなメイドで名前をヤマビコという。彼女は妖怪族であり、普段から伝達係として働いてくれている。彼女の能力は反射と拡張であり、今の状況に非常に役に立つ。
もう一人も妖怪族で、イッタンモメンという。彼は城の屋根や壁の掃除を担当してくれている掃除屋だ。
「二人に頼みたい仕事があるんだ」
二人は急な呼び出しに対して顔を見合わせていた。
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