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幕間 ハーヴィーの意思

 私は不思議な感情に囚われている。それは元の世界でなら絶対に考えない感情。


 私の高校生活はシンタロウを中心に動いていた。それが当たり前で、それが幸せだった。

 私はシンタロウを通して世界を見ていた。だけど、シンタロウと離れて見知らぬ異世界を見知らぬ男性と歩いたとき、それは不思議な感情を私に与えた。


 シンタロウには感じたことのない感情。シンタロウは出会ってからずっと優しくてカッコよかった。頭も良いし正義感のある心も持っている。運動神経も学校の中で一、二を争うほどいいのだ。他の女の子たちがシンタロウを好きになる気持ちも凄くわかる。

 

 私もシンタロウのことが大好きなのだ。好きに理由を探すことはできないと思っていたけど。シンタロウは男性として素敵なところをたくさん持っている。

 だからこの感情がなんのか、最初はわからなかった。


 久しぶりに会ったシンタロウは、相変わらずで、天然なところがあったり、人情脆くて彼女よりも親友を優先したり、私の心にいつも通りシンタロウを好きだと思う気持ちもある。


 だけど……私は知ってしまった。優しさは時として罪なのだと。


 あの人は決して優しさを他の人に見せようとしない。むしろ悪だくみをするように、曲がりくねった表現で優しさを人に示すのだ。


「ハーヴィー。どうかしのか?」


 シンタロウの元に戻って来て数日が過ぎる。だけど、私の中でどんどん疑問が湧いてくる。


「ねぇ、シンタロウ。本当に魔王を倒しに行くの?」

「ああ、イマリさんの無念を晴らしたいんだ」


 そう、シンタロウはイマリさんの死を知ってから、昔の優しかったシンタロウならば絶対しなかった。魔王を倒すと口にする。それだけじゃない。シンタロウは魔王を憎み復讐をするために力を求めている。

 

「ねぇ、シンタロウ。私はシンタロウと違う道を進もうと思うの」

「なっ!なにを言ってるんだよ。僕たちは恋人同士なんだ。もう離れるなんてできない」

「ごめんなさい。少し考える時間がほしいの。シンタロウについていくことはできないわ」


 二人の話し合いは平行線を続けた。ハーヴィーは二人では話がまとまらないのでツバサに相談し、ツバサは仲間たちを交えた話し合いを提案した。仲間たちと話し合いを続けていくうちに、ハーヴィーたち以外にも、シンタロウと離れることを決意する者が数名現れた。


「私はハーヴィー様がそうしたのであればそれでいいと思う。もちろん、私もハーヴィー様についていくつもりだ」


 ツバサは私の意見に賛同してくれた。本当はシンタロウについていきたい気持ちもあるだろう。だけど、シンタロウよりも私を選んでくれた。


「私は絶対シン君と一緒じゃなきゃ嫌」


 シズカはシンタロウの腕に自分の腕を巻き付けて離れることを拒否する。


「どうすればいいかわかんないよ。どうしよう?メグちゃん」

「アイはこういうときに自己主張できないからな。でも、私はハーヴィーさんの気持ち分かるかな。最近のマサキ君ってちょっと変だもん。付いていけないなって思ってた」


 仲良しな二人はメグの意見に傾きつつあるようで、ハーヴィー組に入った。


「私はマサキ君に着きます。この世界を救うことが帰る近道だと思うので」


 淡々と状況を見つめて、言葉を発したのは委員長であるクロハナ・サキだ。サキはシズカほど露骨ではないが、マサキの隣に立ち、ハーヴィーたちを非難するような目をする。

 トシはどちらにするか言葉を発していないが、マサキの後ろに立っているので、ハーヴィーたちについていく気はないようだ。


「丁度四人同士別れたみたいね。シンタロウ、一度ここで別れましょう」

「女の子ばかりじゃ危険だよ」


 空気を読まないシンタロウは私達が女性ばかりになったことを口実になかなか離れようとしない。私は我慢の限界がきて、シンタロウに決定的な言葉を告げる。


「もうここは高校じゃないの。いつまでもウジウジキモいわね。あんたなんかいなくてもせいせいするんだから。早くどっかいきなさいよ」

「なっ!」


 私たちは確かに仲の良い恋人である。だが、たまに意見の食い違いがあるとこうして言い合いに発展してしまう。

 ほとんどが私の意見にシンタロウが反論できなくて、そのまま押し切られる。シンタロウはヘソを曲げるとどこかに行ってしまうのだ。


「なんだよ。その態度。俺はお前のことを心配して言ってんだろ。可愛くねぇ」

「はぁ?私以上に完璧な美少女なんて存在しません。そんなこともわかんないなんて、あんたバカじゃない。いい加減自分のキモさに気付いてよって感じなの。わかんないかな?」


 いつも以上に辛辣なハーヴィーの言葉に、反論する言葉も出てこないマサキは顔を赤くして、いつものお決まりのセリフを口にする。


「なら、勝手にしろよ」


 マサキが怒ったときのお決まりのセリフだ。クラスメイトであれば誰もが二人のやりとりを聞いたことがある。


「俺はイマリさんのカタキ打ちのために魔王を倒す。それで元の世界に帰るんだ」

「はいはい。帰れればいいわね。あんたみたいに考えなしで帰れれば苦労しないっての」

「もういい」


 私に背を向けたシンタロウは歩き出す。何度か振り返っていたが、私が舌を出すとさらに怒って見えなくなるまで歩いて行ってしまった。


「本当によかったの?ハーヴィーちゃん」


 ツバサは主の意向に逆らうことはない。メグも空気を読めるので聞いたりしない。だが、唯一私と対等な立場である友人のアイは心配そうに問いかけてきた。


「ええ。これでいいの。それよりアイちゃんはよかったの?」


 アイがシンタロウを好きなことは知っている。だから、シズカのように離れないと思っていた。


「私もね。最近のシンタロウ君はおかしいなって。私たちが離れることで、気づいてくれたらいいなって思って」


 アイもアイなりにシンタロウを想っての行動だったのだ。


「ありがとう」

「それで?ハーヴィーちゃんはどこを目指すの?」

「もちろん魔王の下よ」

「え?「うん?」」


 アイとメグの声が重なる。


「魔王を倒すってことですか?」


 疑問に思ったのはツバサも同じだったようで、ハーヴィーに問いかけた。


「ううん。私は魔王に会ってみたいの。会って話をしてみたい。殺すとか殺されるとかじゃなくて、どうしてイマリさんを殺したのか聞いてみたいの」


 偏屈で変わり者の魔王。それでも優しかった魔王。その魔王がどうしてイマリを殺しのたのか。ハーヴィーは真実を知りたいと思った。


「魔王が答えてくれるのかな?」


 メグは魔王のイメージをしながら、ありえないと首を何度も傾げていた。


「絶対に答えてくれる。私はそう思うの」


 ハーヴィーの中で数日一緒に過ごした魔王のことが思い浮かべられる。そして、ハーヴィーは決意する。もう一度魔王に会おうと……

いつも読んで頂きありがとうございます。


 どうも、いこいにおいでです。


 第一章完結まで読んで頂きありがとうございます。


 第二章に関しては時間をおいて、アイディアがまとまってから投稿したいと思いますので、しばしの猶予を頂きたく思います。


 布石やらなんやらいろいろ回収できるように完結まで書き上げたいと思いますので、次回投稿の際はまた読んで頂ければ嬉しく思います。どうぞこれからもよろしくお願いします。


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