その日、世界が揺れた
亜種族会領で起きた地震は森を焼き、地割れを起こした。山を二つほど大爆発に巻き込み大災害となり、これは、巨大魔石の暴発が原因だと世界各国に知らせが届いた。
調査したのは魔王と悪魔族の元族長二人であったため、真実味が高く。すぐに全世界に義援金が募られた。
一番被害が大きかったゴブリン領とドワーフ領にはボランティアがやってきて、壊れた家の復興などでお祭り騒ぎとなった。
災害現場は魔王ベルハザードの命令により立ち入り禁止区域となり、半径五十メートルは立ち入りを禁じられた。
「まさかこやつがここまでの義理を果たしてくれるとはな」
儀式用に作られた石造りの寝台に寝かされているのは、上半身と頭部をだけを残した漆黒の鎧に身を包んだオオカネ・ミツナリその人であった。
彼の両足は膝から下がなくなっており、左手も肩から失われている。
「伝説の鎧をもってしても、ここまでのダメージを負うか」
「そりゃそうじゃ。マテリアルバーストは英知の結晶。まともに受けてこの程度で済んだこと自体奇跡じゃよ」
寝台を見つめているのは、元魔王ベルハザードと元悪魔族族長リリスであった。
オオカネ・ミツナリに何が起きたのか、それを説明するならば、少し時間を戻さねばならない。
ミツナリと機械族イマリの戦いを知る者は、魔王ベルハザード、悪魔女王リリス、悪魔侯爵バフォメットの三人だけだ。
彼らが見たものは、あまりにも悲しい出来事だった。
機械族のイマリは漆黒の鎧を身に纏ったオオカネ・ミツナリにより、戦闘能力を奪われ、破壊されるだけだった。
しかし、イマリはそもそもどうやって作られたのか。また、どうして地上最強と言われた魔王に対抗できたのか。話は少し遡る。
「やっと目を覚ましたか、M-109。君は寝坊助だな。いいかい、君は僕の作る最高傑作であり、僕が作る最後の作品だ」
それはノーマルの科学者ダッチビだった。M-109が目を覚ました時、ダッチビはその腹に大きな風穴を開けていた。すでに悪魔族の襲撃により命を閉ざそうとしていたのだ。
ダッチビは、精霊族との合同で作り上げた機械族を生み出した親として、悪魔族から最重要人物としてマークされていた。
逃げながらもダッチビは109体の機械族を作り出した。そして、最後にして最高の作品。それがM-109である。
「君の名前はM-109だ。会ってすぐにお別れをしなくてはいけないが、君に伝えておきたいことがある。君は魔の王を倒すために僕の全てを注ぎ込んだ。君の心臓は他の機械族を生み出したマテリアルの欠片ではないんだよ。
君の心臓にはマテリアルそのものが埋め込まれているんだ。そのマテリアルはね。精霊族が千人がかりで命をとして魔力を込めて造りだした賢者の石なんだ。
君の兄妹たち欠片では感情を持つことができなかった。ただ戦うことだけに特化した機械族なんだ。だけど、君だけは意思を持つ機械族なんだよ。だから僕にとって君は最高傑作なんだ」
ダッチビはM-109を絶賛しながら、最高傑作といった言葉を最後に息を引き取った。
生まれたての赤ん坊であるM-109は、魔王を倒すことを使命に部屋を出た。
「M-109ですね。私はあなたの姉。M-101です。あなたに現在何が起きているのかマスターに教えるように言われました」
「マスター?」
「あなたに抱き着いて息を引き取ったその方です」
Mー101はM-109に抱き着くダッチビを抱き上げ、指定されていた穴の中へと埋葬する。
「何をしているの?」
「お墓に埋めているのです」
「どうしてお墓に埋めるの?」
「ノーマルは骨と肉で出来ているので、肉は腐り土の栄養となります。このまま放置すればモンスターの餌となるか、朽ち果て骨だけになります。マスターは土に還ることを望まれた。だから穴に入れるのです」
M-101はダッチビの助手として様々な研究を手伝い。ダッチビからM-100シリーズの姉として指導するようにプログラムされていた。
「私のマスターは?」
「あなたのマスターはこの人ではありません。あなたは異世界からマスターを召喚するのです」
「召喚?」
「そうです。間もなく私達の仲間は全滅します。マスターが作り出した姉妹たちは悪魔族によって全て滅ぼされるのです」
「私は何をすれば?」
「あなたは最果ての地に赴き、異世界から勇者を召喚するのです」
M-101はM-109に使命や自分たちに備わった装備。戦い方などをM-109に教えて行った。最高傑作と言われるだけあり、戦闘面に関してM-109はすぐにM-101を抜き去り、数多の悪魔族を排除した。
「私はここまでですね」
「姉さま」
「ふふ。どうしてでしょうね。私はあなたのように感情はないはずなのに、あなたを一人にすることが心配です。でも、お行きなさい。あなたには使命があります。勇者をそして魔王を倒してください」
M-109はM-101の自爆によって逃げおおせ。さらに他の兄弟たちが連鎖爆破したことで、悪魔族に甚大な被害をもたらした。
機械族にとって自爆は最後の手段であり、マテリアルを燃焼させることで自爆は用意にできるのだ。ただ、欠片だけの自爆とマテリアルそのものの自爆では意味が変わって来る。
欠片の爆発は精々半径50メートル程度に衝撃波を生み出すだけだ。だが、マテリアルそのものの爆発となれば大陸を一つ消滅させるだけの力が込められている。
「マテリアルバースト」
あの日、ミツナリに追い詰められたイマリはマテリアルバースト。つまり自爆を選んだ。本来であれば亜種族会が住む大陸はなくなっていてもおかしくなかった。
だが、焼けたのは森だけで済み。半径百キロに留まった。それもまたミツナリが行った功績であった。




