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亜種族会

 隷従のジャッジメントの空間から出てきた俺の目の前に、エリカさんが心配そうな顔で立っていた。


「おかりなさいませ。尋問は終わられましたか?」

「ああ、この者の罰は終わった。そしてこの者の正体も掴めた」


 元々知っていたけどな。これで、何を聞いても素直に応えなければならなくなった。


「お疲れ様です。魔王様の指示通り、この者の仲間に関しては手を出さないように亜種族会だけでなく、様々な種族に通達を出しました。似顔絵も付けているので見間違うことはないでしょう」


 ハーヴィーを覗く八人はこれにて指名手配犯となったわけだ。


「そうか、ゴブリンたちはどうしている?」

「こちらも魔王様の指示通り、死んだ者、死を望む者たちは丁重に火葬処理したのち埋葬しました。ゴブリンキングにも承諾を頂いております。また、ケガを負った者は治療師がケガを修復しました」


 この世界にも治療師は存在する。もちろん貴重な存在になるので、それなりの金銭を取るらしいが、変わり者の医師というのはどこにでもいる。

 魔王所属の治療師は、金ではなく酒を好む妖怪族なので、好きなだけ酒を飲んでいいと言えば金は要らないというのだ。


「シュセンに労いの言葉を。それと好きなだけ酒をくれてやれ」

「かしこまりました」

「あとは書類整理だな」

「はい。今回はかなりの量になります。亜種族会の代表に挨拶していただき、すぐに城にお戻りください」

「わかった。すまないが、この女の衣装を用意してくれ。顔と頭を隠せるベールのような物も一緒に頼む」

「かしこまりました」


 ハーヴィーは負けたことがショックだったのか、座り込んだまま動こうとしない。エリカさんが用意してくれたのは奴隷が着るような簡易の服と、踊り子のような頭から被るベールだった。

 見た目には俺の奴隷に見えるので、ちょっとどうかと思ったが、その方がハーヴィーも安全かもしれないので、とりあえずそれで過ごすことを承諾した。


「お前の眼で世界を認識しろ」


 俺は亜種族会の幹部が集まる神殿へと赴く。俺の隣にはあら頭からベールで顔を隠し、踊り子の衣装を着たハーヴィーがいた。エリカさんともども俺のお付きということになる。

 亜種族会との会合に立ち合わせたのは、彼らがどんな心境なのか理解させるためだ。


「魔王様、此度は我々の同胞をお救い頂きありがとうございます」


 俺が神殿にある会議室に入ると、待ち構えていたのか亜種族会の幹部五名が立ち上がり、中央にいた精霊女王が頭を下げる。それに続いて幹部たち四名も頭を下げた。

 見知った顔がいるのは、奴がドワーフの代表ということになるのだろう。

 

「ふむ。此度は災難であった」


 俺は魔王らしい口調を心がけて、亜種族会の幹部に話しかけることを選んだ。


「はい。本当に可哀想なことをしてしまいました。彼らの呼びかけに早く応じてあげれば、こんなことにはならなかったのに」

「女王よ。それは違う」


 悲しむ女王に俺はハッキリと違うと否定の言葉を口にする。


「何が違うと言われるのでしょうか、魔王様」

「呼びかけに応じなくてよかったという意味だ。奴らはノーマルではない。異世界人だ」

「なっ!異世界人ですと」


 精霊女王との会話に割り込んできたのは小さな体をした少女だった。


「申し訳ない。会うのは初めてだな」

「これは申し遅れました。わたくしはホビット族のアーシェスと申します。土族の代表をしております。ゴブリンさんたちはわたくしたちの同胞になりますので、助けていただきありがとうございます。

 それと先ほどのお話、わたくしたちは知識を得ることを何よりも喜びと感じております。それはエルフのシンシア殿も同じでしょう?」

「そうですね。初めまして魔王様。私は風族の代表をしております。ハイエルフのシンシアと申します。精霊族は知識を好みます。異世界人の知識に興味がありますね」


 それまで黙って座っていた幹部たちが名乗りと共に異世界人に興味を示した。ハーヴィーの肩が震えたのは見ないでおく。


「興味を持つのは勝手だ。だがな、奴らは異世界人として特別な力を持っている。それ相応の覚悟を持って挑むことだ」


 俺は二人の態度に少し怒りを交えた声で忠告を示す。興味を示していたアーシェスとシンシアが委縮したように黙る。


「申し訳ありません。魔王様」


 二人に代わり精霊女王が頭を下げるが、俺は精霊女王を一瞥しただけでそのまま話を続けた。


「こちらから手を出さなければ危害を加えることはないだろう。虎の尾を踏むかどうか決めるのはお前たちだ」


 俺は怒りを込めたままで亜種族会の幹部に言葉を吐き捨てる。これは死んだゴブリンたちへの配慮が欠ける怒りだ。


「ガハハハハ。だから言うたであろう。今回の魔王様は一味違うとな」


 最初から黙って座っていたバイエルンが大きな声で笑う。


「主らの負けじゃ。ワシがいった通りじゃろ。亜種族会は魔王様を認める。それでよいな?女王よ」


 バイエルンの言葉に三人の精霊族が顔色を変える。


「私は初めから認めていますよ。アーシェス、シンシア。あなたたちはどうですか?」

「わたくしの負けですね。魔王様、申し訳ありません。試すような物言いをしてしまいました」

「私も申し訳ありません、魔王様。魔王様の人柄を知るためゴブリンたちの事を差し置いて、興味などという言葉を使いました」


 顔色を変えた三人は次々と訳の分からないことをいう。


「魔王様、意味がわからんと言う顔じゃな。ならばワシから説明しよう。魔王を就任したことはどの種族も認めていることじゃ。じゃがな、認めるのと納得するのとでは違う。前魔王様はその力によって世界を支配した。じゃが、新魔王様は何も成してはおらぬ。前魔王様が認めたというだけじゃ。じゃからワシらだけでなく様々な種族が魔王様の行動に納得するかまだ決めかねておるのよ」


 なるほど、この地方巡業にはそういう意味が込められていたのか。他の種族に顔を合わせをして、世界を知るだけでなく。それぞれの種族に俺を認めさせる。

 そして、俺は亜種族会の幹部に認められたということか。


「あまり気分のいい者ではないな」

「申し訳ありません、魔王様。ですが、我々も魔王様の人柄が知りたかったのです」


 それまで黙っていた最後の人が口を開いた。深くフードを被っていて顔も見えていなかったが、どうやら男性のようなでジェル状の手でフードを取れば、水の塊でできた男性が姿を現す。


「我は水族の代表、スライム族のハイネと申します。亜種族会は知識を好むと共に臆病な性質をしております。ですので、新しいものを疑い警戒する。此度のことも我らなりの納得するための儀式なのです。どうか寛大なお心でお受けいただければありがたく思います」


 スライムがしゃべっているのはどうにも不思議な光景だ。だが、彼らも人なのだろう。俺は深く息を吐く。


「ならば貴様らは俺を認めるでいいのだな?」


 俺の言葉で全員が立ち上がる。


「光族代表、フェアリークイーンがここに宣言いたします。亜種族会は今日より魔王様の配下となり、この身この心全てを魔王様の従者となることを宣言します」

「受けよう」


 俺はこうして亜種族会に認められた。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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