第四十二景【キャラクター】
愛すべき分身たち。
気付いたら、あたしは一面真っ白な霧の中にいた。
あたしの黒いモフモフの腕と足がなんとか見えるくらい。怖くて足をずりずりしながら進んでくと、少しだけ霧が晴れてきた。
向こうに何か動くものが見えたから近付いてみると、そこには白い格好の男の人。びっくりしてあたしを見てる。
「お客が来るって聞いてないよ?」
「えっ?」
急に何か言われたって思ったら、そのお兄さん、なんでかひとりで喋ってるよ?
「うん……わかったよ」
ひとり頷いたと思ったら、お兄さんの全身が急に黒く変わった。
「お客様ですね。ご案内します」
「お客様?」
あたし、お客様だっけ?
あたしと一緒で白黒変わるお兄さんについていくと、そのうちうっすら道が見えるようになった。
「あとはその道を辿れば着きます」
私はこれで、って黒くなったお兄さんはあたしを置いて元の道を引き返して行っちゃった。
言われた道は緩い登りになってるみたいで。進んでいくと、だんだん霧が晴れてきた。見えてきた大きな白い花の咲く木の下にはベンチがあって、本を持った男の子と赤い風船を持った女の子が座って話してる。
あたしの前からは別の男の子と女の子。
「花言葉は気高さと……」
「正月のこたつ」
「どうして……」
「剥いてるみかんっぽいから」
そんなことを言いながら、あたしの横を通り過ぎていった。
まんまるみかん。あたしも食べたくなっちゃったよ。
道の先には建物がふたつ。やっぱり見たことない場所だよね。
そこで写真を撮ってた男の人と女の人が、右側の建物に入ればいいよって教えてくれた。
ドアを開けようとしたら左の建物から男の子が飛び出してきて、そのまま走って下りてったけど。
なんだかすごく慌ててたよね。どうしたのかな?
建物と建物の間の少し影になってるところにはちっちゃい男の子と女の子がしゃがみ込んでて。どうしたのって聞いたら、探しものしてるんだって。
得意だから手伝おうかって言ってみたけど、大丈夫だって言われちゃった。
ドアを開けるとカランといい音。
「いらっしゃいませ!」
いくつも重なる元気な声。
中はお店みたい。テーブルが四つとカウンター席があって、何人も座ってる。
「こちらにどうぞ」
入って左の奥のテーブルに案内してくれたのは、猫の柄のエプロンをした女の子。お水を取りに戻ったところで、カウンターの横の奥に続いてる廊下の横から顔を出した男の子に呼ばれて。代わりに耳の長い女の子がお水とメニューを持ってきてくれた。
っていうか、なんかさっきから見られてるよね?
あたしの隣のテーブルには、おっきな男の人がふたりと男の子がひとり。端っこの席の男の人の膝の上にいるちっちゃい金色の目の女の子が、ずっとあたしを見てる。
あと、入り口の右側のテーブルには、お姉さんがふたりと女の子がふたり。ちっちゃい方の黒い目の女の子も、じっとあたしを見てるよね。
その隣のテーブルには男の人と女の人。
カウンターの中にはエプロンしてる女の子と男の子。
こぢんまりしたお店なのに。お客さんも店員さんもいっぱいだね。
あたしを見てた金色の目の女の子、男の人の膝の上からぴょんと降りてあたしの方に来た。
「ねぇねぇ、触っていい??」
「何言ってんだよ」
金の目の女の子がそう言った途端、同じテーブルにいた男の子が女の子を引っ張り戻した。
「いきなりそんなこと―――」
「別にいいよ」
「いいのかよ??」
ツッコミ早いよね。
「わぁい!!」
女の子、ぼふんと飛び込んできた。
黒い目の女の子と目が合ったから、おいでおいでってしてみる。その子、向かいに座るよく似たお姉さんがにっこり笑って頷くのを見てから、嬉しそうに走ってきて。
でもまだちょっともじもじしてるから腕を出してみたら、嬉しそうに飛びついてきた。
ちっちゃい女の子ふたりにもぎゅもぎゅされながら、皆は何を食べてるんだろと周りを見てみる。
さっきの男の子と向かいの一番おっきな男の人は、お酒を飲んでるみたい。女の子を膝に乗っけてた男の人の前は、空っぽのお皿とカップがふたつ。見てるあたしに気付いてニッと笑ってくれた。
「ここはなんでも美味いから。好きなモン食えばいい」
「ケーキ美味しいよ〜」
黒い目の女の子の隣にいた子が振り返ってそう言って。
「食べたらわたしにもぎゅってさせて」
だって。
同じテーブルのお姉さんたちの前にもカップとケーキ。
その隣のテーブルの男の人と女の人はクリームソーダとケーキのお皿。
いいなぁ、ケーキ美味しそう。
……でもちょっと待って?
あたしお金持ってないよね?
どうしようって慌ててると、一番おっきな男の人がどうしたんだって聞いてくれた。
「今日のお代はもらってますから。好きなものをどうぞ」
お金がないって話すと、カウンターの中の男の子がそう言ってくれて。
「いいの?」
「はい。メニューにないものでもお作りしますよ」
隣のエプロンした女の子が、ニコニコしながら答えてくれた。
オススメはシチューだって聞いたから、シチューとケーキを頼んで。なんでか並んで待ってる女の子たちに順番にぎゅっとされてたら、カランとドアベルの音がした。
「パン届けに来ました」
入ってきたのは籠を持った女の子……じゃなくて男の子と、分厚い本を抱えた男の子。
そのうしろから、お揃いの青いワンピースの女の子ふたりも顔を覗かせる。ふたりで抱えてる花束にはいろんな色のお花がたくさん。
「お花の配達です。あとお菓子を受け取りに……」
エプロン姿の女の子三人と男の子ふたりは、籠とお花を受け取ったり、箱をいくつも渡したり。
お店って忙しいね。
「あと、コレ、うちの返却本に混ざってたんですけど。忘れた方いませんか?」
男の子がそう言ってなんだか立派な表紙の本を見せてたけど、自分のだっていう人はいなくって。
隣でも聞いてみるって言って、またふたりで出ていった。
お菓子の箱を受け取った女の子たちが、嬉しそうに帰っていってから暫く。またカランってドアベルが鳴った。
入ってきた女の子、緑の目をまんまるにしてあたしを見てるよ。
にこって笑うと、我に返ったみたい。
もうあたしだって慣れたもんだからね! その子が何を考えてるのかなんてわかってるよ!
いいよって腕を広げると、嬉しそうに抱きついてきた。
「何しに来たんだよ」
カウンターの中の男の子が呆れた声で呟くと、その子はあっと言ってあたしから離れて。
「さっき出たお客さんにも聞いてくるから、この本預かってて」
あの本を残して飛び出して行っちゃった。
「すみません、騒がしくって」
カウンターから出てきた男の子、そういやちょっとさっきの子と似てるかな。そう謝りながら本を手に取った瞬間。
本が勝手に開きながら宙に浮いて、しかもなんか光ってるよ?
『よくぞ我を見つけた』
開いた本のページにそんな字が浮かんできた。
『さあ勇者よ、我ととも……に……?』
なんだろ、字、途切れちゃったよ?
光も収まって。
本はなんだかキョロキョロするみたいに左右に動いてる。
『……なんと……なんと! こんなにも人がっっ!!』
そんな字が浮かんだ途端、なんかまたピカピカしだしたよ!
あぁもうさっきよりも眩しいんだけどって思ってたら。
「鬱陶しいぞ」
「戻りなさいね」
そんな声が聞こえて。気付いたら本はなくなってた。
皆きょとんとしてる中、お姉さんたちふたりだけが、なんだか優雅にお茶を飲んでた。
「お待たせしました!」
耳の長い女の子が料理を持ってきてくれた。
デミグラスっぽいシチューとパンとサラダ、ケーキはフルーツを焼き込んだタルトだね!
とっても美味しそう!
スプーンを持って。やっぱりまずはシチューからだよね。
ゴロゴロお肉とお野菜のシチューじゃなくて、お野菜が溶けちゃうくらいじっくり煮込んだシチュー。
カレーもそうだけど、どっちでも美味しいよね。
きっとお兄ちゃんだったらカレー頼んでるんだろうな。
何気なく思った言葉に、ふっと辺りが暗くなったみたいに感じた。
あたし、ひとりだよね。
周りは皆誰かと話してるのに。
あたしだけ、ひとりだよね。
なんだか急に寂しくなって。スプーンを持つ手、黒から白に変わっちゃって―――。
気付いたら、見慣れた天井だった。
ここってあたしの部屋だよね?
起き上がって、周りを見回して。間違いないって確認して。
部屋を出て隣の部屋の扉を叩くとすぐにお兄ちゃんが出てきてくれた。
「なんで朝から黒いんだよ?」
お兄ちゃん、笑いながら頭を撫でてくれた。
部屋に戻って、ぽふんとベッドに座る。
夢だったのかな。
なんだかもう何があったかぼんやりしてきたけど。
そうだよね。おかしなこと、いっぱいあったもんね。
夢だったんだね。
……夢でもいいから。
美味しそうだったあのシチューとケーキ、食べておけばよかったよ!!
イラスト作 歌川 詩季様 https://mypage.syosetu.com/2287106/
三周年ありがとうございます! ということで。
歴代キャラクターたちに出張ってもらいました。
書くの、ものすごく楽しかった……。
昔は別作品の自キャラ同士で座談会とか書いていました。小池はキャラを掘り下げるのが好きなようで。番外編や二次創作が好きなのも、多分それでかと。
お陰で本編を書いていても、そのうち予定外の行動を取り出すのです。無理にプロットにはめようとすると、動いてくれなくなって。こんなはずじゃなかった、と思いつつプロットを練り直す羽目になります。
多くの子は、元々は自分の一部だったり憧れだったり。
そんな子たちでも、暫くすると手を離れていく。
それがとても嬉しくて。ちょっぴり寂しい。
全部わかったツワモノはいないと思いますので(笑)。キャラ説明です。
大体出てきた順番で! 小池の一言ツッコミ付き!
●妹パンダ『双子のパンダシリーズ』
書きやすいおさつぱん。思考回路が独特なので読んだ人なら腕の描写がなくてもわかった……かな。
●管理人 君(台詞なし)『星の砕石シリーズ』
管理人はわかりやすかったですね。話し相手の「君」もちゃんといました。
●少年 少女『停留所』
日浦様とのコラボ作品です。背後の木もこちらから。ハクモクレンです。
●隼人 悠里『花言葉 君言葉』
ハクモクレンを見ての隼人の新作花言葉。バナナと悩んだ。
●涼 瑞妃『画面越しの恋人』
まだわかる……かな。
●俺『成り行きで拾った〜』
コレわかんないですね(笑)。
●僕 櫻『さがしもの/探しもの』
漢字バージョンのイメージ。
●美遥 陸『菊池美遥は〜』
きくちさん(byコロン様)エプロン!
●ラミエ『レストアシリーズ』
食堂、耳長い、だけでわかるのだろうか……。
●ジェット ダリューン『丘の上シリーズ』
膝に乗せてた方がジェットです。定位置。
●リー アディーリア『レストアシリーズ』
おさつぱん目線なので、他の子は男の人と書かれる年齢にも拘らず、リーは男の子扱い(笑)。
●女神様 ひかり『転生百万人目〜』
女神様は青ジャージ……ではないはず。
●椿 たんぽぽ『空に昇る〜/ただいまの場所』
着物と書ければすぐわかったかな。
●橙也 玲『【ソフトクリーム】/泡沫の夢〜』
クリームソーダ。
●ククル テオ『丘の上シリーズ』
場所描写からわかったかな……。
●ジュゼ ラヴィ『前世で恋人〜』
パンと本、からなんとか……。
●メイリー アリエス『他領の領主に〜』
これは多分わからなかっただろうなぁ。
●伝説の書『成り行きで拾った〜』
わかりやすすぎ(笑)。ちなみに女神様に主人公の手元へと飛ばされました。
●レム『丘の上シリーズ』
丘の上比率が高いのは勘弁してください。
●兄パンダ『双子のパンダシリーズ』
あからさま(笑)。
作品舞台は、冒頭は『星の砕石』あとは『丘の上』ラストは『双子のパンダ』です。
『each other』『この手に触れる確かなものを』『感情の色シリーズ』『トラウマノアジ』は二次創作及び感情特化(?)な作品のため、また『祭りの舞台裏』はどうひっくり返っても菊池と菊地ときくちなので、組み込めませんでした。
やはり長編は思い入れも深く、キャラも自立しているので。『丘の上』と『レストア』はもっと出したかったなぁ、なんて。アリーは抱きついたままになりそう。エリアとはもぐもぐ語で会話が成立しそうです。
イラストは歌川 詩季様より。
初出しおにいぱん!
歌川様、ありがとうございます!
なお、本文の文字数が上限の3499文字であったため、イラストと紹介の文字数分が縛りよりオーバーしてしまっているのはご了承ください……。
後書きまで、とっても自分勝手な作品となってしまいましたが。
お付き合いくださりありがとうございます。
そして四年目もまたよろしくお願い致します!
11/22追記。
冬野様へのツワモノ賞として続編の短編を書きました。
『また会う日まで』
https://book1.adouzi.eu.org/n0689ju/
説明すっ飛ばしの作品ですが、ご了承くださいね。




