第十景【鳥】
楽しくて笑ってるんじゃないんだよ。
今日も朝からいい天気。ぼくはいつものようにみんなの様子を見に行く。外に出て見上げると、朝だからまだ白っぽい青い空に小さな影。ワシさん、今日も空から見回りしてくれてる。
「おはようー!」
ぼくに気付いて真上でくるりと回ってくれた。引かれた茶色の線が面白くて、ぼくはケラケラ笑う。聞こえたのかな、ワシさんはもう一度回ってくれた。
今日はどこから行こうかな。
翼あるものが住むここでは、みんな自分にできることをしながら暮らしてる。
大空を飛べるワシさんやタカさんは上から見回りしてくれて。
クジャクさんの羽根もハシビロコウさんの怖い顔も、悪い奴らを脅かすためで。
早く飛べるなら連絡係をしたり。お水に潜れるならお魚を取ったり。そんなことができなくても、飛べなくっても、木の実を集めたり虫を取ったり。できることもすることもたくさんある。
得意なことがなくっても、みんなそれぞれできることをしながら一緒に暮らしてる。
どこに行こうか考えて、一番端っこの森から回ることにした。
ゆっくり飛んでると、うしろから走る足音が近付いてくる。
「おはようっ」
ぼくを追い越しながらそう言うのはヒクイドリさん。少し行き過ぎてから止まってくれた。
「おはよう。今日も見回りありがとう」
ヒクイドリさんやダチョウさんはこうして走り回って空から見にくいところを見回ってくれてる。
それに、ヒクイドリさんはみんなの中で一番強いんだって!
「いいってことよ。どうせトレーニングついでだしな」
明るい声にぼくも笑う。
ヒクイドリさん、一緒になって笑ってくれた。
木の実を集めるみんなと話したあとは、真ん中にあるおっきな木のところに行く。
みんなが大好きなこの木。ぼくが何匹いたらぐるりと周りを囲めるのかな。途中の枝にも、上の方にも、いつもみんながとまって休んでるから、いつだって賑やかで。下から見上げると、先っぽの方の葉っぱはおひさまに透けてキラキラしてる。
きれいだなぁって、見上げて。
木の根元には特にちっちゃい子たちが集まってる。
みんなの大きさはバラバラだから、大きくなってもちっちゃいままの子もいるけど。ここにいるのは生まれたばっかりのって意味でちっちゃい子。
そんなちっちゃい子のお世話をするのだって大事な仕事だよね。
「あっ! おにいちゃん」
「わぁい、あそぼー!」
毎日来てるからか、みんな嬉しそうに集まってくれるのがおかしくて。ぼくが笑うとみんなもマネして笑いだして、いつも笑い声の大合唱になっちゃう。
お世話してくれてるニワトリさんやアヒルさん、ぼくが来るとみんな元気になるわねって笑ってる。
ホントにそうなら嬉しいな。
それにね、ぼくだってここでみんなと遊ぶのはとっても楽しいよ。
遊び疲れたちっちゃい子たち、ニワトリさんたちの翼に包んでもらってくぅくぅ寝ちゃった。
まだ起きてるちっちゃい子たちにバイバイして、次は川の方に行く。
川ではよくお魚を取ってるんだけど、今日はいるかな?
今日も何羽かいる中で。遠目からでもそうだってわかる。
葉っぱの緑でも空の青でも水の青でもないけど、その全部の色。
緑で青の身体が川から飛び出す時、きらきらした水しぶきと一緒になって、本当にきれいなんだ。
ぼくのともだち、カワセミくん。
同じカワセミなのに、茶色いぼくとは大違いだよね。
「あ、ワライカワセミくん!」
ぼくに気付いたカワセミくんが嬉しそうに来てくれた。
「今日もありがとうね!」
「カワセミくんも」
そう言うと、カワセミくんはにこにこしながら。
「僕は魚をとるくらいしかできないもん」
って、そんなことを言ってる。
「ぼくはお魚も取れないけど…」
ぼくはお水に飛び込んでお魚を取るのは苦手だから、カワセミくんはすごいって思うんだけど。
カワセミくん、ありがとうって笑ってから。
「でも、ワライカワセミくんにしかできないことがあるでしょ?」
そう言ってくれた。
気付いてくれたのはカワセミくんだった。
すぐに笑っちゃうぼく。
前はただ、ちっちゃい生き物を取りながらウロウロして、出会うみんなと話して笑ってただけだった。
いっつも笑ってばっかりだねって、いっつもみんなに言われてて。
確かにぼくは笑ってばかりで。
ワシさんたちみたいに高い空から見回りもできないし。
クジャクさんたちみたいに脅かせないし。
ヒクイドリさんたちみたいに早く走れないし。
ニワトリさんたちみたいにちっちゃい子たちを翼で包んであげられないし。
カワセミくんみたいに見てるだけで嬉しくなるようなきれいな姿でもない。
こんなぼくって何かできてるのかな。
みんなの役に立ててるのかな。
みんなそんなこと言わないけど、ぼくって何もできないんだって。そう思われてるんじゃないかな。
そんなことを考えちゃって、ひとりでとっても悲しくなった。
とってもとっても悲しくって。その日は一日笑えなくって。お家でずっとしょんぼりしてた。
笑わないでしょんぼりしてたらもっともっと悲しくなって。
もう外に出たくなくなって、次の日もお家にいた。
そしたらその次の日、カワセミくんが来てくれた。
どうしたのって聞いて、どこか怪我したのって心配してくれて。
でもぼくはしょんぼりしてたから、なんでもないよって言うだけで。
そしたらカワセミくんまでしょんぼりした顔になっちゃった。
「ワライカワセミくんがそんな顔してると、なんだか僕まで元気出ないよ」
そう言うカワセミくん、ホントに悲しそうで。
ぼくがいつもみたいに笑わないからカワセミくんにまでこんな顔させちゃったのかなって思うと、ホントに悲しくなって。
全然そんな気分じゃなかったけど。
なんにも楽しくなんかなかったけど。
久し振りに、笑ってみた。
自分でわかるくらいぎこちない笑い方だったけど。
カワセミくん、じっとぼくを見てから。おんなじようにぎこちなく、笑ってくれた。
「やっぱりワライカワセミくんが笑ってると、僕まで嬉しくなるよ」
カワセミくんが笑ってそう言ってくれたから、ぼくも嬉しくなって、泣きながら笑った。
そのうちカワセミくんも笑いながら泣いちゃって。
ふたりで、笑うのも嬉しいのも泣いちゃうのも同じになっちゃうねって、また笑って。
涙がとまった頃には、ホントに嬉しいなって思って笑い合うことができた。
カワセミくんと外に出ると、みんな心配そうに声をかけてくれた。
でもぼくが大丈夫だよって笑うと、みんなすぐ嬉しそうな顔になって。ぼくがそうやって笑ってると楽しくなるよって言ってくれた。
「やっぱりワライカワセミくんが笑ってたら、みんな明るくなるみたい」
一通り回って戻ってきてから、カワセミくんがそんなことを言った。
「昨日、なんだかみんなつまんなそうだったもん」
「そんなことないと思うけど…」
ぼくが笑ったってそんなに変わるわけないと思うのに、カワセミくんは絶対そうだって言い張って。
「すごいね! ワライカワセミくんはみんなを楽しくしてくれるんだよ!」
自分のことみたいに嬉しそうに、そう言ってくれた。
ぼくにはどうしてもそんなふうには思えないけど、すごいなぁって笑ってくれるカワセミくんを見てたら、ちょっぴりそうなのかなって思えてきた。
「カワセミくん…」
こんなぼくでもできること。
こんなぼくにしかできないこと。
ほんのちょっとのことかもしれないけど、それでも。
「ありがとう」
笑ってそう言うと、カワセミくんも嬉しそうに、どういたしましてって返してくれた。
それからはぼくはまた笑うようになった。
ぼくだって毎日いつでも笑いたいわけじゃないけど、そんなときでも頑張って笑う。
ぼくが笑うことでみんなが楽しい気持ちになるなら、ぼくだって頑張れるんだよ。
もちろんみんなは何も知らないけど、それでいいんだ。
みんなが嬉しそうに笑ってくれたら。
ぼくだって、それで幸せなんだから。
予告済みの【鳥】です。
特別な一種についてはまた後日語るとして。今回はざっくりと鳥、です。
全然詳しくはなくて、ただ好きってだけです。
キャラとかじゃない、単なるイラストの鳥も好きです。ひよこはもう別格……。かわいいですよね…。
最近はシマエナガのものも多いですよね。ええ、もちろんかわいいですとも!
昔、某ホールで。早く着きすぎて入口前で待っていたら、窓にぶつかった鳥が落ちてきたことがあります。
どうしたらとうろたえてるうちに起き上がって去っていきましたが。
幅広めの並木道を抜けた先にあるホールなので、映った景色がそのまま続いているように見えたんでしょうね…。




