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告白Ⅱ




「ギロッ」


「なんでそんなに睨んでるんですか……緑さん」


「やっぱりあいつはケダモノだ。今にも綾香のことを……あぁ!考えただけでも悍ましい…」


「だから誤解ですって!私が、その片桐君に、だ、抱きついて……」


 綾香は顔が真っ赤になるほどに紅潮させて言う。


「綾香ぁぁ!うぅ、私のかわいい綾香がこの悪魔によってぇ!許さん!!」


「ちょっとだから違いますってぇぇ!」


 俺に押しかかろうとする浅野さんを綾香は身を呈して守ってくれる。

 前に飲食店に来てくれた時も思ったが、この二人は結構いい関係を築けているらしい。

 俺さえいなければ、という枕詞がつくようだが。


 それから浅野さんの息が途切れるくらいに二人は押し問答を繰り返したのち、俺の罪はジュース一杯で免除されることとなったらしい。

 俺の罪にされていることはご愛嬌ということらしい。

 何がご愛嬌なんだか。


「それでどうだい?体調の方は」


「俺はもう大丈夫だと思います。綾香の弁当ももらったので」


「綾香の弁当!?」


「緑さん!」


 綾香は間髪入れずに浅野さんを押さえつける。

 もう達人さながらの早技。

 どっちも息ぴったりである。


「ごほん。失礼。体調は良くなったならちょっと場所を移そうか。話したいこともあるしね」


「えぇそうですね」


 俺はベッドから出て地に足をつける。

 少し踏ん張りが効かないがおおよそ体力も戻っただろう。


「そうだ、あの一条君とは話さなくて大丈夫かい?あのままこっちに来ちゃったけど」


「あぁ。……光輝とは多分大丈だと思います。あいつのプレーが全部物語ってくれたので」


「そういうものか」



 そして俺らは最寄りのファストフード店に移動した。

 話をするのにこういうところを選ぶあたりいかにも浅野さんって感じがする。

 変にカフェとか物静かなところを選ばれても困ったモンだけど、ラフすぎる場所っていうのも緊張感が働かないな。

 だって後ろからは子供連れの親子がキャッキャとテーブルを囲み、周りにはいかにもな女子高生も連なっている。


 というか、その人たちに見られているように感じるのは気のせいだろうか。

 いや、気のせいじゃない。

 明らかにここのテーブルを見てる。

 多分浅野さんがいるからだろう。

 それほどまでに中高生に人気というわけだ。


 しかも当の本人は綾香と頼む料理を満面の笑みで選ぶ始末。

 全く気にしていないらしい。


 それなりに心の準備を添えてきた俺の努力は一体……。


 

 どうやら綾香が持ってきてくれた弁当というのも、昼用というわけではないらしい。

 まぁ中学の頃の俺を知っている身からしたら、たしかに持ってきてくれて助かったとは言えるだろうが。


 何せ俺は結構な大食らいだ。

 ずっと日夜走り回りボールを蹴ったり泳いだりする生活をしていれば仕方もないと言えるだろうが、その分だけ食べてもいた。

 成長して普通の量で満足するかと思えば、まぁそうなることもなく。


 俺が今回こうして倒れてしまったのもそういう面は大きいんだと思う。

 本来の必要なエネルギー分、最近は食事で補えていないから。

 それだけ味のない食事生活は俺の代謝を著しく低下させていた。

 だから最近は朝のジョギングでも息切れすることも多くなって、終いにはこうして倒れてしまったんだろう。


「片桐君はどうする?」


「んー、そうだなぁ。定食でもいただこうかな」


「ん?君さっきまで綾香の弁当食ってなかったか?」


「えぇ食べてましたが」


「まだ食うのか……」


「まぁ久しぶりに」


 そんな時だった。

 どこからともなく良く聞きなれたような声を聞いたのは。


「やぁやぁ、呼ばれて参上!水月ちゃんだよ!」


 俺の背後からおしゃれな格好でやってきたのは水月先輩その人だ。


「やぁ」


「ん!?なぜここに絶壁の奇人が!?」


「殴られたいのか貴様」


「いや、絶壁な胸板だっけ?」


「誰が”緑ってつかみどころないよね、特に胸とか”だ!これでもび、Bはあるんだからな!!」


「そこまでは言ってないって……。ということでこんにちは雫君」


「水月先輩……?」


「あぁそうさ。昨日ぶりだね」


 最近は飲食店のシフトも減らし、時間帯も変わってしまったおかげで水月先輩と会う機会も自然に少なくなっていた。

 だから昨日というのも久しぶりに仕事で一緒したばかりであるから、こうして驚くのも無理ないと言いたい。


「ちょっと午前中は用事があったからこんな形になっちゃったんだ、ごめんよ?綾香、雫君」


「どうせ寝坊だろ?」


「あ?」


「失礼。事実を言ってしまったよ」


「また泣かせてやろうか小娘ぇ」


「私の方が一センチ身長は高いぞ」


「あぁかわいそうに。ヒール履いてやっと一センチなんて……哀れだ。それに貧乳だし」


「あぁ?」


「ちょっと二人とも!場所!場所考えてくださいよぉ!!!」


 テーブルを挟んで言い合う二人をあやす様に収める綾香。

 どうやら浅野さんは水月先輩といる時もあぁなってしまうらしい。

 俺やら水月先輩やら、怒りの対象が多いなぁ、さては沸点が低い……。


 俺のそんな邪な発想を感じ取ったのか、綾香の腕の隙間から浅野さんは鋭い目で俺を睨んだ、気がした。


 ……綾香、がんばれ。



「さて、じゃあ改めて話をしようか片桐君」


「はい」


 話、か。

 俺が聞きたいことも山ほどあるが、浅野さんからする話とは一体なんだろうか。

 まぁするとしたら一つしかないか。


 今回こうして俺を練習試合の場に繰り出したこと。

 それしか。


「まず一言言わせてくれ」


 神妙な趣の顔で浅野さんは俺の方へと視線を向ける。

 席の位置的にも、テーブルを挟んで対角線の位置。

 それなりの距離感がそこには存在していた。

 そんな浅野さんは次第にその首を垂れてこういうのだ。


「すまなかった」


「ん?」


「私の勝手な勘違いで君をこの場に呼んでしまった。どうしても私の考えているような人物であるか確かめなければならないと思ったんだ。見定めなければってね」


「はぁ」


 そういえばその言葉、どこかで聞いた様な気がする。

 あれは、ラウンドツーに行った時か。

 ボウリングをしているときに浅野さんから言われたことだ。


ーー私には見定めることしかできない……


 そうだ、そんなことを言われた気がする。


 あの時の俺は一体なんのことを言っているのか分からなかった。

 でも浅野さんにとっては何か重要なことだったんだ。


「ほら、君ってどうやら綾香の想い人らしいじゃないか。私と綾香は高校からの付き合いだからね。どうしても気になっちゃったんだ。綾香には私の様な目にはあってほしくなかったから」


 俺はそれに少し首を傾げた。

 また浅野さんの言葉に間髪入れずに反応するのは彼女の隣に座る綾香。

 それはもう顔を真っ赤にしてぽんぽんと音が出る様な拳で浅野さんを叩いていた。


 浅野さんもそれにはたまらず「ごめんごめん」というようにして微笑んでいた。


「まぁ平たくいえば、君が本当に綾香にふさわしい人かどうか見定めたかったのさ。その仮面の下にどんな猛獣が潜んでいるか、ね。」


「猛獣って……言ったじゃないですか緑さん。片桐君はそんな人じゃないって」


「過去は違ってももしかしたら綾香同様に変わったのかもしれないだろ?それに、私ならそれを見分けられるって思ったから」


 綾香は口をつぐんだようにして浅野さんの方を見る。

 綾香自身も浅野さんが何を思ってそんなことをしているのかわからないと言った表情だ。

 まるで、自分はそんな人を見たことがあるといった口ぶりなのだから。


 隣に座る水月先輩は話は聞いているようだが相変わらずのマイペースなようで、お冷やを飲んではメニューを見て一人で楽しんでいた。


「だけどどうやら違ったみたいだ」


 浅野さんはどこか当てが外れて悲しそうな、それでも嬉しいと思うように顔を綻ばせる。

 手持ち無沙汰にコーヒーに入れたミルクを混ぜながら。


「君の被っていた仮面の下には綾香から聞いていたような誠実でどこまでもまっすぐなそんな顔があった」


「なぜ、そんなことがわかるんですか。そんな姿すらまやかしかもしれないのに」

 

「わかるよ。あんな姿を見せられちゃね。自分で気づいていなかったのかい?サッカーをしていた時の君は疑いようもない、君の姿を映していたと思うけど」


 ドクンと大きく鼓動を鳴らした気がする。

 あの時はたしかに高揚していた。

 目の前のボールをただ無性に蹴っていたかった。

 周りからどう思われていようとどうでも良くて、周りのこと全てどうでも良くて。

 ただ、光輝と向かうあの最後のフィールドが楽しいと思えた。


「だからすまない。私が勝手にこんなふうにお膳立てしたのも。君を相手に嫌悪感を隠そうとしなかったのも。ひとえに君がどういう人だったのかを知りたかったんだ。でもその甲斐あってか気づくことができた。君ならきっと大丈夫だ」


「緑さん……」


 綾香は浅野さんの方を見ているはずなのにどこか遠くを見つめているようだった。

 まるで何かに思い立ったように。

 


「あっ、緑。そこの押すやつとって」


「……マイペースが過ぎないかお前。ほら」


「ありがとさん」


「ま、そんなわけさ。これからよろしくするかは知らないけどよろしくね?片桐君」


 浅野さんはそういうと軽くウインクをして帰り支度を始めてしまう。


「あれ緑さんコーヒーだけでいいんですか?」


「ちょっと用事があるからね。このいけすかないやつも来たことだし、お役御免とさせてもらうよ」


「本当にな。けぇれけぇれ」


 水月先輩の足らいに鋭い目つきで返すものの、ため息を漏らして席を立つ。


「全く片桐君も大変だな」


「ん?」


「なんでもないよ。じゃあまたね綾香」


 その言葉を残して浅野さんは店を出た。


 結局のところいまいち彼女がどういう意図があったのかよくわからなかった。

 見定めると言ってはいたが、一体俺の何を見定めていたのかさえわからない。


 彼女にも彼女なりの信念があるのだろうが……。

 きっとそれを話すつもりはないんだろう。


 なら俺はひとまず謂れもない嫌悪の目を掻い潜ったと喜べばいいんだろうか。

 別段そうなったところで何が変わったというわけでもないからなんとも反応しづらいばかりだ。

 

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