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偽らざる思い


 それから一週間。

 俺は未だに聖さんの言う配信のあり方について、頭から離れることがなかった。


 いつものように配信をして、いつものようにコメントを読んで、いつものように過ごしていた。

 でもそこに付きまとうのは聖さんの言葉で、そして柚月さんの言葉もそうだ。 

 

 いったい何が正しくて何がダメなのか。

 そもそもそういう次元の話なのかどうか。

 それすらも思考力とともに考えられなくなっていた。


 俺って何だろうって、ただ漠然と思うだけ。

 特に一人でいるときは、いつか俺が空っぽだった時をよく思い出す。

 俺がこれまでしてきたことは何なんだろうってずっと思っていた、高三のころそのままの俺だ。


 そういえば今になって思えば、みんな変わろうとしていた。

 綾香なんて特にそうだ。

 中学のころなんかと見違えるほどだ。

 それも根っこの部分はずっと同じ変わらない信念を持ったままに強い人になっていた。

 俺なんかとは違う。


 俺が数か月前と変わったことといえばなんだろう。

 一つは一人でいる時間が減ったってことか。

 顕著に交流関係が増えていった。

 一つは考える以上に何かすることが増えていったこと。

 配信なんかは、予想以上に時間を食う。


 でもその変化もすべて、俺が俺を演出した結果。

 俺という仮面を被って手に入れた仮初の変化だ。


 それでいいと思って、それが最善なんだって思って、それを享受していた。

 でも水月先輩に、綾香に、柚月さんに、浅野さんに、まるでそんなの間違っているんだって言われているようだった。

 みんなの思う俺をいくら演出したところで、それは間違っているって、そう。


 そんな風に感じること自体、もう俺はみんなの思う俺ではいられてなどいないんだ。

 そう思えば思うほど、どんどん自分を見失っていく。


 結局のところ、何も変わっていないんだ。

 

 



 そして今日という日は、この前綾香と約束したその日。

 綾香が「話がある」と連絡をかけてきてくれてから一週間とちょっとが経った土曜の日である。


 ただ、それより気になることが一つ俺にはあった。

 日程が決まったら連絡を入れてくれたのはいいんだが、その時になんの脈絡もなく「ごめんね」と送られたのだ。

 それが俺にはよくわからないまま、トークは終わっていた。

 だから何故あの時謝っていたのかが分からなかった。


 今、現れた彼女らを見るまでは。


「浅野さん……」


 読者モデルで絶賛人気沸騰中だとかいう、浅野緑。

 そういえば綾香と同じ大学と言っていたな。


 俺からしたら会いたくない人物の一人だ。

 俺を毛嫌いしているかと思えば、俺が七々扇紫音であることを知っているときた。

 あれ以来数度の連絡を適当に返すのみで、そこまでの接点を作っていなかったのだが、よりによってこんな形で再開するなんて。


 となれば、もう話は簡単で謝った理由だって想像に易い。


「ほんっとにごめん!大学で緑さんに追及されちゃって」

 

「やぁ、二週間ぶりかな?片桐君」


「お元気そうで何よりです」

 

 どうやらこの間のようにいきなり追及してくるようではないらしい。

 いきなり問い詰められてもはぐらかすぐらいしかないんだが、なにぶんこの人はどこか確信めいたようだからいくらはぐらかしても意味がなかった。

 

「あ、でも大事な話があるっていうのはこれとは別件だよ?緑さんはちょっと別の件で用があるみたい」


「そうなんだ」


「だから片桐君が良ければ緑さんの話も聞いてほしいなぁなんて」


 綾香はどこか俺の顔をうかがったようにそう言った。

 綾香から見ても浅野さんが俺のことを毛嫌いしていることはわかってるんだろう。


「いいよ。一度ちゃんと話さないととは思っていたから」


 綾香はそれに首を傾げるがそれも仕方ない。

 多分浅野さんは俺たちが以前会ったことは伝えていないだろうから。

 

 俺にしてもずっとこのままではいつかそう遅くないうちに変な形で収まりかねない。

 せっかくの機会が訪れたともなればそれにあやかるしかないだろう。


「それはありがたいね。今日のために色々と仕込んだ甲斐があるってもんだよ」


「仕組む……?」


「あぁ。きっと君にとっていいものになるに違いない」


「はぁ、そうなんですか」


「じゃあ行こうか、人を待たせてるんだ」


 人を待たせている?

 一体何が起こるっていうんだ。

 綾香に向き直ってみても首を振るばかり。

 何も知らないらしい。


「こんな朝早くになったのも、緑さんからの提案なの。なんのためかはわからないけど、危険なことじゃないと思うから安心して?」


 俺はそれに「あぁ」と生返事で返すものの、綾香は「私のはもうちょっとしたら」とどこか遠くを見つめている。

 どうやらイベントは目白押しのようだ。




 そうしてやってきたのはとあるサッカー場。

 数多のユニフォームに身を包んだ人が各々の練習をしている場所だった。


「緑さん……?」


 やはり綾香も知らなかったというように声を漏らしていた。

 かくいう俺もなぜこんな場所に来させられたのか、全く意味がわからなかった。


「まぁ、ちょっと待っててよ」


 スマホを取り出し連絡をし出した浅野さん。

 それに数十秒とたたないうちにやってきたのは記憶に新しい人影。

 それも二つ。


「大地、光輝……」


「えっ、えっ?知り合い?」


「まぁちょっとね」


 いつの日か劇的とは言えない再会を果たした二人だった。

 俺は浅野さんに「どういうことか」という視線を送るものの彼女は目を瞑る。

 答える気はないらしい。


「来い」


 短く光輝はそういうと、瞬く間に背を向けて歩いていく。

 きっと俺が呼ばれているのだろう。


「これが私が君を呼んだ理由だよ」


「こういうの、お節介って言うんですよ」


「いいさ、どうせ今回だけだ」


「今回だけ、ですか」


「ほら、呼んでるぞ?」


「ーーいいでしょう。今回だけ、ですから」


 よくわからない。

 なぜこうも良くないことが連続して起こるのか。

 なぜこんなにも激情の渦に飲まれるのか。


 俺が進めば後ろからは一体どういうことなのか、と浅野さんに問いかける綾香の声が響いていた。

 それを問いたいのは俺だって同じだ。

 彼女だってこの二人とそう接点があるわけでもなかったはず。

 というより、前の機会が初対面だったはずだ。


 なのになぜ。


 とはいえ、二人の様子を見ればただ話をするだけでは終わりそうもない。

 浅野さんは今回だけ、と言った。

 なら今回だけは成り行きに任せよう。

 いつだってそれでよかった試しなど一度でさえなかったのに。



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