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先輩は言ったⅡ




「にしても紫音くんって見た目に反して男らしいよね」


「そうですかね?まぁ一応それなりに運動してるので」


「え"、すごいな俺なんて外行くことの方が稀なのに」


 無事扉の難関を拳で突破したのち、俺らは聖さんの配信部屋へと移動した。

 そこであったやりとりはまぁ、特に何かあったわけでもなく二人が呆れあっていたのだけ記憶に残しておく。

 

 そして移動した先で一番に感じたのは環境の差だ。

 PC自体は柚月さんに選んでもらったし問題ない性能を誇るため、そこまで顕色ないと思っていたがどうやらその次元でもないらしい。

 なぜなら全体的にゴツいのだ。


 PCも二つあるし、モニターは三つも横に並んでいる。

 テーブルにはキーボードとマウスが二つずつあるし、どちらも電気屋で柚月さんが太鼓判を押していたものだ。

 それはもう綺麗に整っている。

 どこか簡素な俺の環境とは何もかもが違った。


 しかもそれなりの広さがあるおかげでベッドが置かれているのにもかかわらず、十分に三人が動き回れるほどには大きい。


「それにしても、配信環境ってみんなこれくらいいいものなんですかね?」


 三人でボードゲームを囲んでいる最中俺はそんなことを聞いていた。


「ピンキリだよ。僕は結構こういうPC関連の機材にこだわりがあるから配信のために二つPCを持ってるんだけど、普通に一つだけってのは多いと思うよ?というかそっちの方が圧倒的多数かな。ちなみに少数派は僕の知ってる限りだと、僕と響也とエリーかな」


「エリー?」


「あぁ、エリカだよ。響也の同期のね。結構そう呼ばれてるんだ」


「そうなんですか……」


 よく見てみれば、棚にはいくつものコンシューマーゲーム機や、ソフトの数々、多くのコントローラーが綺麗に並べられており、それだけでも迫力が違う。


「まぁ僕らなんかは特にFPSやってるからっていうのもあるんだけどね」


「聖、そろそろやろうぜー」


「おっけー、紫音君もいい?」


「あ、あぁはい」



「やっぱりこういう初対面の時に親交を深めるならこういうゲームが一番いいと思うんだよね。というわけで、罰ゲームつきでやります!」


「うへぇ。まじ……」


「まじまじちょーまじ。どうせだしアンケとる?」


「アンケ、ですか?」


「ツイッターでね。よくこうやってアンケート取って遊んだりすることが多いんだ、僕ら」


「ほんと、趣味悪いよなお前」


「そう?面白いじゃん」


「リスナーほど残酷なやついないから」


 そういえば、俺が他のライバーのツイッターを見るときは大抵くだらない内容をツイートする人が多かった気がする。

 俺なんてそういうツイッターの使い方が結局のところ中途半端すぎて、放送以外には本当に適当なことしか呟いていない。


 そうしてどうやらツイートしたらしい聖さんはそのスマホを俺たちに見せてくれた。


 内容は「今、響也と紫音君が遊びにきてるんだけど罰ゲーム、何がいいと思う?」という簡素な一文。


 なんだか、俺はいわゆる配信外でのリスナーとの関わりっていうのに疎いらしい。

 どうしても自分を紫音として見せるために配信という枠を取っているから、それ以外の時間で紫音でいようだなんて思ったことすらなかった。


「よし、というわけで始めよう!」


 だからなんだかこういうのは新鮮だ。




「ちょ、待てぇぇぇい!」


「はい、僕の勝ち!!」


「うっそでしょ!?上手くないですか!?聖さん」

 

「伊達に僕が所持者してないからね」


「俺も結構研鑽を積んだはずなのに……」


「ということでルーレットタイム!出た目の数のリプライの罰ゲームでよろしく!二人とも」


「キツいーーじゃあ俺から行くか」


「響也さん……果敢だ……」


「任せろ、俺がこの三番目を引いてコンビニダッシュを決めてやる」


 響也はどこかキメ顔を俺に残し、何もカッコよくないセリフをいい声で言うのだ。

 ちなみにこのコンビニでのパシリ。

 俺らが見ている中で一番優しいものである。


「ん!?響也さんの卑怯者ー!」


「先手必勝ぉ!」


 ルーレットをいち早く回した響也はなんの運命か、見事三番目を引き当てた。


「よしっ!あ、どうせだから俺が帰ってくるまで紫音の罰ゲームはお預けな!」


「そうだね。その間僕らは談笑しているとするよ」


「じゃ、行くぜ」


 勢いよく配信部屋から財布を持って響也はでていった。

 その背中を俺らは見送る。


 にしても、俺にとってこの状況はあまり宜しくはないと思う。

 まぁ初対面で一対一というのがそもそもその状況を作りやすいのに、それ以上に何故か聖さんのどこか俺のことを見る視線が生々しいのだ。

 

「というわけで、響也は行っちゃったわけだけど、どうする?紫音君。質問コーナーでもしちゃう?」


「質問……ですか?」


「そう!ほら、紫音君ってばまだ活動始めて一ヶ月も経ってないでしょ?先輩として何か助言できたらいいかなって」


「なるほど」


 確かに合理的だ。

 というか理想の先輩像そのものみたいな人だな、聖さんって。

 とっつきやすい人だし、声質も相まって温厚に聞こえる。


 となると、さっきまで感じていた視線こそ間違いなんじゃないか、とも思ってしまう。

 というか、普通にいい人だしな。


「そういえば以前見たんですけど、聖さんって毎日配信してるんですよね」


「そうだねー。一日少ない時でも一時間はするかも」


「やっぱり更新頻度って高ければ高いほどいいんですかね」


「うーん、一概には言えないかな」


 聖さんはどこか悩んだように言っていた。

 俺にとってみれば毎日配信し続けるなど、たとえバイトがなくても辛いかもしれない。


「質問に質問で返しちゃって悪いんだけどさ、紫音君って配信ってこと自体をどう思ってる?」

 

「どう……とは?」


「例えば楽しい、だとか、みんなに見られて嬉しいだとかそう言うこと」


 配信すること自体……か。

 配信するってことはあくまで手段で、俺にとっては自分が自分であるための居場所、と答えるのが妥当なのか?

 いや、きっかけはただ友人に勧められて、それでだったからか。

 それまで配信という活動自体の存在を知らなかったんだ。

 だからきっと憧れとかそんな感情は少なくともないって言える。そんな崇高な目的じゃあない。


 なら、


「多分、自分の居場所でありたい……んだと思います」


「なるほど、ね。くくく」


 そう答えると聖さんは笑って見せた。

 

「おかしいですかね?」


「いや、ちょっと不安だったんだけど、拍子抜けしたってのが本音かな」


 え?


「あぁ嫌な気にさせちゃったならごめんね。ただちょっと本当のところでは紫音君が配信っていうのを舐めてるんじゃないかって思ってたんだ。なにせ、こんな短期間で成功させて見せたんだ。こんなのちょれーって思ってるかもって思ってさ」


「俺が本心を言ったかはわかりませんよ?」


「まぁそれならそれでいいよ。僕がどう信じたいかって話だしね。ま、僕は君が嘘ついているとは思わないから問題ない。嘘つきの癖はよく知ってるんだ」


 聖さんは指を唇につけてウインクして見せた。

 何故かこの時だけはそんな様子が本当に画面から出てきた聖のように感じるほどの。


「ま、だから安心したんだ。だって君は紫音君は僕と、いや僕たちと同じような人種だ」


「おな、じ……」


「君は更新頻度が高ければ高いほどいいのかって聞いたね。シンプル言えば答えは人による、だ。需要と供給の関係をそのまま当てはめられるなら、それはもうずっと配信していた方がいいかもね。でもそれじゃあだめだ。だって視聴者が求めるものは、非情にいうなら面白いものだ。どれだけ面白いんだろうって言う色眼鏡がいつもつきまとう。今日は何をするんだろう、今日はどんな面白いことが起こるんだろうっていうのが色眼鏡だ。でもさ、そう考えると毎日配信するって理に叶ってないと思わない?だってずっとその面白さを供給することなんか、一人の人ができる範囲を超えてるんだ。それこそ僕のように一年もやっていたらね」


「でも、聖さんは配信し続けるんですよね」


「あぁそうだ。だからこれは人によるんだ。僕はさっき君に配信をどう思うかって聞いただろう?僕がそれに答えるなら、配信は日常、なんだ。配信を毎日し続けることでそれを見る人が日常を感じてくれることが僕の目標なんだよ。それは決して面白いものではないかもしれない。たしかに僕も面白くあろうとはするさ。でもそれでも瞬間瞬間で見てみれば面白くない、ことの方が多い。それでも見てくれようとするのが、僕のどんな姿でもそれを日常と思ってくれるファンの人たちだ。さっき僕は配信は日常って言ったよね。それも、ファンの人たちが僕を好いていてくれるからそれに答えられるように、せめてそばにいることができればいいと思ってるんだよ」


「なるほど」


「簡単に言えば配信が楽しいからって答えてもいいけどね」


「なんか一気に陳腐に聞こえますね」


「そうじゃなきゃやってけないしね。その中でどう視聴者に答えるかが腕の見せ所だよ。……と言ってもコンテンツとしての面白さはすでに心得ているようだけど」


 たしかに俺はどこか心の中で他人が思う自分を常に自分に投影してきた。

 配信者として求められる、配信者としての自分。

 その他人が俺に求めるもの、それが常に面白さでなくてはならないと思った。

 そうでなければ見てくれないし、そうであれば常に見てくれる。

 それが全てだと思っていた。


 でも、そうか何もそれが全てだってわけじゃないんだ。


「僕は案外、君は配信者に適してると思うけどな」


「そういえば僕たちと同じって」


「あぁ、といっても僕らは配信者としか生きてはいけないだろうけどね。でも君はきっと他のことでもその才能を遺憾無く発揮できる逸材だろう?だからせめてこういう僕らのような奴しかいないところでも、君のような人間と同じなんだって思いたいのさ。配信者、いやバーチャルライバーって閉鎖的だしね。君のような人がどかーんとその壁を破ってくれたらいいなって思ってるんだ」


 他のことでも……か。

 

「おっと、なんかごめんよ。変な方向に話が逸れちゃった。他に何か聞きたいこととかある?」


「そうですね」


 俺がそういった頃だったか、インターホンが鳴り響き、響也が帰ってきた。


「どうやら時間切れみたいだ」


「そうみたいです」


「そうだ、一つ紫音君に言っときたいことがあるんだ」


 すでにマンション内に戻ってきただろう響也を待って聖さんは言う。


「リスナーは案外、君自身を好いているんだよ」







「はいきた。紫音の逆立ち十秒!」


「僕らじゃ当たってもできないけどね」


「これは……楽勝ですね」


「うわぁ、さすが日向の者。俺のような陰キャには到底理解し難い……」


「うぅ、目がぁぁぁあ」


「なんでそんな過剰反応するんですか……」



「じゃあいきますからね」


「うわ生だ」


「まじか、壁使わんくてもできるもんなん……?」



「え、すごいな」


「腹筋がこんなに綺麗に割れてる人初めて見た」


「ちょ、俺が何もできないからって」

 


「え、うそぉ……」


「片手だよ、それ」


「まぁできますし」


「腹筋が」


「いや、なんで惜しがってるんですか!?はい、終わりです」



「腹筋シックスパックの超イケメン……これは有望株」


「バーチャルの世界すら超越する姿……感服。拝んどこ」


「一回叩いておこうか、この二人……」




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