先輩は言った
俺がこんなにも自分に興味がなくなったのはいつだっただろうか。
子供の頃ずっと外で走り回っていたとき?
小学の頃、水泳をやめたとき?もしくはアニメを見始めたとき?
中学の頃、ピアノで多くの賞を取って嫉妬を買ったとき?もしくは…………。
サッカーで周囲の熱意を失わせたとき?
ーーーーーー
「話があるの」
そういうメッセージがラインで届いたのが始まりだった。
こういうのは大抵二つの話に分けられる。
有益か有益じゃないか。
ただ相手をみればそんなこと考えるまでもない。
真っ直ぐで優しいいい変化があった綾香、本人だ。
「話?」
「うん、大事な話」
いつか、まだ再開して間のないとき。
言うてまだ一ヶ月と経ってはいないだろうか。
そんなときに綾香に言われたことがあった。
中学の、あの頃の話。
もしかしたら違うのかもしれないし、もしかしたらそのことを言っているのかもしれない。
ただ俺はこう言うしかない。
「いいよ」
「いいの?」
「あぁ、いつがいい?」
「来週の土日どっちかがいいんだけど、空いてるかな?」
「日付が決まり次第連絡くれれば開けられるよ。バイトもないしね」
「じゃあお願い!……本当にいいの?」
「いいよ、約束はまぁ破らない主義だ」
「ありがとう!日程決まったら連絡するね!」
綾香はキラキラとしているアニメキャラのスタンプでよろしく!と打ってトークが閉じた。
まさかこのときにはあんなことになるとは思いもしなかった。
ただ話をして、それで終わり。
そう思いたかった。
でもそうはならなかったんだ。
時刻は夜。
おおよそこの時間帯はバーチャルライバーの活動時間で、いわゆる俺らに取ってのゴールデンタイムだ。
かくいう俺もその例に漏れず毎週三、四回は配信を行っている。
ユナイトのライブも無事成功を収め、グッズも無事再販が決まり、出演したライバーの知名度もグンと上がったに違いない。
それだけの成功を残したのだ。
そして何故か今現在、そのライブに出ていたライバー、ではなくライブの前菜。
公式生放送でインタビューを務めていた二人組、ヴァストに見事に捕まっていた。
通話やディスコではなく、もちろん生で。
「いやーまさかインタビューに偶然受けた人が紫音君って本当に奇跡だよ」
「俺も映像を見てびっくりしましたけど、本当に紫音さんってそっくりですよね」
「ていうか、本当に紫音君って紫音君なんだね。顔も然り、声も」
出会い頭二人に言われたことでもある。
もちろん二人がそれぞれのキャラである響也と聖さんに似ているなんてことはなく、簡単に言ってしまえばごく自然に溶け込んだありふれた人だった。
聖さんにはそう言われてしまったが、事実俺は普段の声と紫音の声を使い分けてるから多分そういうことを言ったんだろう。
インタビューの時にはもう少し低いってことをわかっていたのだろうし。
まぁ変えてるといっても、「あまりに地声と同じ声にすると君の場合危険だ」って言われたからでもあるから、仕方がない節もある。
なんだか今ではそれが生命線になっている節すらあるからな。
「こんばんは、響也さん、聖さん。それと俺は敬語なしでいいですよ。多分一番年下なので」
「え、そうなの?僕は二十二」
「俺は二十一です、今年で二十二ですね」
「十八です」
「わ、本当に十八歳なんだ!?いやぁ、びっくりだなぁ」
「本当にいいんですか?俺まだコーラぶっかけたことを根に持ってるんじゃないかと、ほんとすみません」
そういえば初めの出会いはそんなものだったな。
なんというか、忘れられない第一印象だ。
「いいですよ、結果的にいい方向に進みましたし。それにどうせなら話しやすい方がいいでしょう」
「それなら、ありがたく……」
「くくく、響也そんなことしてたの?」
「ちが、あれはしかたなかったんだよ」
「へぇ、そうなんだぁ」
「その話のネタができた、みたいな顔やめろ!」
「ごめんよ、はは」
二人はもう何年も一緒にいるかのような雰囲気を醸し出している。
伊達に一年もユニットを組んでないということなんだろう。
「じゃ、そろそろ行こっか」
そんな聖さんの声を聞いて俺らは目的地に向かった。
目的地とは言ってもお店とか飲食店とかそう言ったところじゃない。
というかもうほとんど夜と言える時間。
ご飯はもうすませてしまった。
だから今回向かう先は何故か二人にお呼ばれした、聖さんの家である。
なんでもマンションで、しかも防音室も完備しているらしく、配信環境としてかなりの高水準を持っているらしい。
それに加えていろんな遊び道具があるから、顔の広い聖さんはその家が遊ぶ場所と認識されているということだとか。
本人も満更じゃないところが確信犯でもある。
そして一番の謎、何故俺がこの二人の間に割り込む形で参加することになったか、それは遡ること一日前。
「紫音さん、遊びませんか?」と直球のチャットが飛んできたからだ。
そんなことを言われてしまってはまぁ行かない理由もないわけで、それに快諾した次第である。
そして家につき、一番に感動したことは壁が綺麗ということだ。
さすがマンション。
この一言に尽きる。
まぁ古いとこは古いとこということで。
「ちょっと待ってね、スリッパ持ってくるから」
「ありがとうございます」
「お礼なんて言わなくていいよ、あいつまじで性根が腐ってるから」
「え、それって」
どういうことか、と言おうとしたところでスリッパが差し出される。
「この先がリビングだから先に行っててよ。僕はとりあえずお茶を入れてくるからさ」
「おう」
「あ、はい」
そしてリビングの扉を開く俺。
なぜか響也は俺の後ろで位置してたから必然的に俺が先に行くことになったんだが。
なんだか響也は身構えている様子だった。
「ん?」
というのも束の間。
扉を開けると明らかに引っ掛かってくださいと言わんばかりのテープが貼られていた。
後ろを見てみれば今にも「やれやれ」と言いそうな響也と廊下を横に進んだ扉から顔を覗かす聖さんの姿。
えーっと、どうしろ、と?




