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偶像の形Ⅱ



 そんな風にして互いに推しについて話したりしているうちに時間は過ぎていく。

 そしてまた、違ったものも近づいていることに俺は気づいていた。

 というか本来そっちに注目していたというのに、圭くんは話に夢中になるあまり、生のヴァストの状況をおろそかにしてしまっていたらしい。

 話なんていつでもできるのだから、俺との話なんて片手間でいいというのに。


 ようやく列の様子が変わったことに気づいた圭くんが振り返ると、そこにはディスプレイに映ったヴァストの二人と、そこに迫るカメラの人たちが迫ってきていたのだ。


「かかかかか、片桐さん!あ、ああ、あそこに」


「あぁはいはい。いますね、そこに」


 そんな風に傍目で流していると、ディスプレイを囲む集団から一人の人が出てきて「インタビューとかいいですかね?」と聞いてきた。

 それに隣の圭くんは背筋をピンと立たせて硬直してしまっている。

 俺はその様子に少しのため息をこぼした後、圭くんの手をゆする。


「俺はいいんですけど、圭くんは?」


 俺はナチュラルに圭くん呼びしてしまったのも多分気づいていないまま、圭くんはぶんぶんと首を縦に振っていた。

 どうやら大丈夫らしい。

 ほんとに大丈夫か?とは思うが。


 そして俺は寄ってきた人に「大丈夫です」と伝えた。

 どうやら今インタビューしている人の次、というか最後の人として選ばれたらしい。


 とそこまで考えたところで俺は果たして本当に大丈夫なのだろうかと考えてしまう。

 ていうか俺はライバー側なのになぜこうも偶然にもこっち側の立ち位置になっているのか。

 一応この雫としての姿で響也とは出会っているし、この場にはいないが初配信の時にお世話になった人もいるだろう。

 そんな中で俺がこっち側に出てきていいものかどうか。


 そう思考したはいいもののもう許可してしまったし、そろそろ俺らの目の前にいる人たちのインタビューも終わろうとする時間だ。


「わぁ……ど、ど、どうしよう……。ちゃんと喋れるかな……」


 俺がそんなことを思っているさなか、圭くんはさっきよりがちがちに緊張していた。

 本来の圭くんはそこまでしゃべる人でもないようだったし、確かにこういう場では緊張しがちなのかもしれない。


「圭くんはヴァストの二人が一番って言っていいほど好きなんでしょう?」


 俺はそう問うていた。


「う、うん」


「ならもっとこう、笑ったほうがいいですよ」


「わ、笑う?」


「そうです。俺も最近まではわからなかったんですけど、ある男の子が教えてくれたんですよ。笑顔って自信の表れなんだって。だから緊張だとか、不安におもうことだとか、そんなことがあったときにはこう笑ってあげれば不思議と自信がわいてくるもんです」


 俺はそう言って笑顔を浮かべて見せた。

 果たしてそれに自信なんてあるのかとは決して言わない。

 でも笑顔でいることに悪いことなんてあるはずもないだろう?


――実に勘に触る顔だよ。


 いや、どうなのだろう。

 ないなんてことはないのか?

 もしかしたら浅野さんのように思う人も多いのだろうか。

 だとしたら、どうだというんだ。


「こ、こうですかね?」


 圭くんはどこかひきつった笑みながらも笑顔を浮かべていた。


 こうしてみるとほんとに女の子のような顔をしていると思ってしまうな。

 でもそうじゃない。


「うん。かっこいいですよ」


「そ、そうかな……」


 その真摯に向き合える姿勢が何よりも。


「たった数分なんです。なら緊張しているより、自信もって話したほうが得でしょう?」


「う、うん。なんか片桐さんに言われたらなんだかそんな気がしてきた気がします……」


「緊張してきたら笑ってそのことを思い出せば、少しは緊張もほぐれると思いますよ」


「はい!」


 そうして目の前に当のヴァストの二人が現れ、圭くんは手足をぶるっぶるに震わせていた。

 それだけ推しへの想いもあったのだろう。


 そして圭くんは意を決したように前を向いていた。

 ディスプレイ越しとはいえ、ちゃんと二人のほうを向けているあたり誠実な子なんだなとも思った。


『こんにちは~ちょっといいですか?』


「は、はい!」


『今日はどこからいらっしゃったんですか?』


「東京からです!」


『お……ん?……お兄さんもですか?』


「はいそうです」


 俺に問いかけてくれた響也は少し言葉を詰まらせた後、何もなかったように質問する。

 あの時はスーツ姿だったし、私服の状態じゃあ気づかない可能性にかけていたが、普通にばれてしまったかもしれない。

 先輩にはあまり負担をかけたくなかったが、今の俺にはどうすることもできない。


『お二人はもしかして兄妹とかですかね?』


「い、いえ!現地であってそれでと、友達になりました!」

 

 聖の質問にそんな風に圭くんは答える。

 案外普通に喋れてるじゃないか。


『いいね!僕と響也も最初はぎこちなかったもんね』


『それは言わんでいい!』


『こういう出会いっていうのもいいよね~。じゃあ、お二人の推しを伺ってもいいですか?』


 その聖の質問に圭くんは一瞬の硬直を見せた後。


「ヴァ、ヴァストの二人です!!」


『おぉ。ありがとうございます。だってよ、響也』


『聞いてるって。ありがとう、今回は俺らは出ないけど楽しんでいってくださいね』


「は、はい!!話せただけでもうれしいです!」


『それならよかった』


『そちらのお兄さんは?』


 俺はその様子をどこか傍目から見ていたたが、その質問で一気に現実に引き戻される。

 そして推しと聞かれると特に挙げられる人物もいない。

 しいて言えば目の前にいる響也といってもいいのかもしれないが、どうせだしコラボした相手のほうがいいか。


「俺はミリスさんが推しですね」


『おぉ、やっぱりミリスさんも人気なんですね』


『やっぱり人の数だけ推しもいるよな』


『僕も最近じゃ紫音君は気になるからなぁ』


『今人気絶頂中の人だからな』


 そういう響也の目線がディスプレイ越しでありながらも俺のほうに向いていると感じたのも勘違いではないのだろう。

 先輩から気になるといわれるのはうれしいと思う反面、少しむず痒い感じがしてしまう。

 

『じゃあそろそろ最後の質問いいですかね。今日の意気込みを一言お願いします!』


 聖のその質問で多分考えていなかったからか、少し硬直してしまう圭くん。

 それはもうがちがちになっている。

 本人を前にしているからさっきよりがちがちかもしれない。


 ただどうせ最後だ。

 言い得だろう?


 そう思って俺は圭くんの腕をこつんと触れる。

 横目で俺のほうを恐る恐る覗く圭くんにもわかるように笑顔を見せる。


 それに気づいたように圭くんは一瞬息をのみ、意を決したようにディスプレイの一点を見つめる。

 そして俺と出会って一番の笑顔でこういった。


「今日が一番の日になるように楽しみたいです!」


 と。






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