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素直になれない君はⅤ




「片桐君、大丈夫かな……」


「それよりなんでこんなことになってるんだっけ?」


「わかんないよ。なんかいきなり大地先輩が片桐君を誘って……」


「あの三人、何かあるのかな……?」


 そんな二人を傍目に緑は思っていた。

 もともと片桐雫という男を推し量るために同行したこの集まり。

 本来なら今回だけでは何もわかるわけもないと薄々思いながらの動向だった。

 でも、この状況、どこかが普通ではない。

 さっきの光輝の荒ぶり様も、大地が雫の胸ぐらを掴んだことも会話を聞いた限り何かがある。

 きっと片桐雫が自分を偽っている理由に関係があるのだ。

 いざとなれば、今日で雫という人物を推し量ってもいいとさえ緑は思っていた。

 緑には雫を追い詰めるためのカードが揃っているから。


「それにしても、光輝君も何か抱えていたな」


 何度か見てきた光輝はいつかの彼を彷彿とさせた。

 容姿もさながら、どこか外面の良さが彼にそっくりだったから。

 どうしても初めて彼を見た時からそういう偏見を多分に含んでしまっていた。


「緑さんはどっちが勝つと思います!?」


 いつのまにか隣で田中が話題を振ってきていた。


「私かい?んーまぁ私にはサッカーはわからないけど、単純に光輝君と大地君が揃っている方が強そうだけどね」


「やっぱりそうですかね〜」


「片桐君の方が勝つと思うけどね!私は」


 東雲はそんな雫贔屓な意見をいうものの、事実その可能性は低い様に思われる。

 単純に個々人が強いところで多勢に無勢。

 二体一で勝つのはいつだって二人の方だから。


 そして不意に隣に気配がしたと思うと、何者かが近くにまできているのにやっと緑は気づいた。


「あの……もしかして浅野緑さん……ですか?」


「ん?う、うん。そうだけど……」


「うわぁ、やっぱり!」


 緑がそう事実をいうと、目の前の平均的な身長の女の子は目を輝かせていた。


「遠くから綺麗な人がいるなって思ったら、やっぱり浅野さんだったんですね!あの、失礼なのは重々承知なんですけど、写真一緒に撮ってもらっていいですか!?」


 そんな風にして頭を下げる高校生くらいに見せる女子に、少し呆気に取られながらもいつもの様に笑顔を見せる。


「いいよ。ツーショットでいい?」


「お、お願いします!!」



「はい、どうぞ」


「あ、ありがとうございました!あの、これSNSにあげてもいいですか?」


「んー、まぁいっかな。いいよ、あげても」


「ありがとうございます!!家宝にします!!」


 そこまでされても……と緑は内心思いながらも、ネットの方を見やる。

 一人相手にしていたら、また一人また一人と来たものだから結局十人くらいの相手をすることになってしまったものだから、少し時間を食ってしまった。


 すでに決着はついてしまっただろうか。

 そう緑が思いながらネットの向こうを見ていると、そこには多分追加点と思われるゴールを決めた、雫の姿が映されていた。

 でもどこか無機質で、いつもの様な雰囲気を決して感じない。

 彼の本質が現れた様なそんなゴールだった。




「す、すげぇ……」


「まじで俺たちが圧倒してるよ……」


「もう五点は取られた……」



「どう?光輝、大地。まだやる?」


 試合が開始してわずか十分足らず。

 すでに雫のチームは五点を取っていた。

 一方光輝率いるチームは〇点。

 すでに圧倒的だ。


「なぜ、なぜ勝てない」


「そんなの簡単な話だろう」


「なんだ!?」


 光輝はどこかその温厚だった顔を歪ませてまでいう。


「二人でやって、楽しいか?」


 雫は一言そういった。

 ただそれだけ。

 でもそれは何より光輝の心に突き刺さる。

 深く。


「それは……どういう、意味だ」


「俺が言わなきゃわからないか……?」


「あぁ、わからない。わからないよ。二人でやって楽しいか?楽しいよ!楽しくなきゃやってらんないさ!いつだって俺らは二人でやってきた!どんな時も乗り越えてきた!俺たち二人だったから!なのに、なぜ!なぜ負ける!」


「なんだ、またその話か?お前らが勝てない理由はさっき言った通りさ。でも負けた理由を聞いてどうする。勝てなかったことと負けたことは同義ではないぞ。お前らが負けた理由を聞きたがるのは、程のいい言い訳を欲しがっているだけだとなぜ気づかない」


 その言葉に八重歯を剥き出しにする勢いで雫を睨む光輝。

 行動には出ないものの、その思いの強さは大地の比ではないだろう。


「一つお前らは思い違いをしている。俺が強いんじゃない、この瞬間、お前らが弱くなったんだ。今のお前らじゃ誰に勝つこともできない」


「なぜだ!なぜそんなことが言える!」


「俺がお前のことを光輝のことを少なくとも知っているつもりだからだ」


「……知っているだ?ほざけ。何も知らないからあぁなった。何も知らないからあぁさせたんだろうが!」


「…………これすらも否定するか……いや、されてしまうのか」


「何を言っている」


「ーーいや、なんでもない。そういうのなら俺は無知だったんだろうな。お前のことも大地のこともみんなのことも、俺が何も知ってあげられなかったのがいけないんだろうな」


「……あぁ、そうだ!……お前だよ!お前がいたせいだ!お前がいたせいで俺らは崩壊した!お前がいなくなれば俺らは楽しかったし、そうであること自体が最善だった!お前だよ!お前がいたせいでめちゃくちゃになった!お前なんていなければよかった!」


「…………」 


 光輝は嘆く。


 コートは外にある関係上、ここは建物の屋上だ。

 すなわち気候の変化を肌で感じる場所でもある。


 ぽつりぽつりと二、三滴の雨水が垂れたと思うと、一瞬で土砂降りの雨が襲い始めた。

 ゲリラ豪雨だ。


 空は暗転し、強烈に叩きつけてくる様な雨粒が全員を襲っていた。

 まるでどこか光輝の嘆きに反応したかの様な、そんな空模様だった。


「クソッ、クソが」


 光輝のその涙でさえ、雨によって流されていくのだから。


「この、馬鹿やろう」



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