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素直になれない君はⅡ


 

 目的地はラウンドツー。

 休日には、中高生がこぞって訪れる場所であり、いろいろなアミューズメント施設が設置されている場所でもある。


 そんな場所の一角。


「わぁ、すご〜い!片桐君またストライクじゃん!」


「これで五本連続!?」


「まったく、君もなかなかやるじゃないか」


 女性陣が意気揚々としている手前、雫を除く男性陣の二人はどこか浮かない顔をしていた。


「くそっ、またあいつばっかり」


「俺だってそれなりにスコアは出してるはずなんだけどなっ!」


 一体雫のなにが特別なのかを思いながらボールを転がした。

 そしてピンが全て倒れる。

 光輝にとってこれが五本中三本目のストライクでもあった。


「光輝先輩もすごい!!私なんて一本も取れなくて……」


「それはしののんが下手なだけでしょ?全部ガーターじゃん!」


「それは言わないでよ!」


 そんな二人を温かい目で見守る雫はその足が光輝の方へと向かっていた。


「すごいですね。二本はスペアでしたけど、他は全部ストライクですし」


 その言葉に一瞬光輝はたじろぐ。

 しかしその様子を悟られまいとしてか、間髪入れずに言葉を返した。


「なんだ?嫌味か?」


「そんなわけないじゃないですか。単純にすごいな、と」


「ふん、ストライクしか取ってないやつには言われたくないね。まぁ、君がそういう人なのは知ってるけど」


「?」


 その光輝の言葉に疑問を浮かべた表情を雫はしていた。

 まるでなにも心当たりがないと思っているような顔に光輝はもちろん、大地もどこか苦虫を噛んだような表情をするしかなかった。


「まぁいい。……それと、俺のことは光輝でいいぞ。こいつは大地」


「あぁはい、光輝さん?」


「敬語もなしでいいよ、気持ち悪いし」


「気持ち悪いですか……?」


「いや、こっちの話。大地もそっちの方がまだ慣れてるだろ?」


「そうだな。敬語なんて使われちゃ鳥肌がとまらねぇよ」


「えぇ、それなら仕方ないけど。……じゃあ光輝、と大地?」


 雫はこれでいいかとでも言うような感じで二人に確認する。



「おーい!大地先輩!次大地先輩の番ですよ!」


「ん?あぁ、いっちょ見せてやりますか!」


「しののんと下位争い頑張ってくださ〜い!」


「それは余計だろ!?」


 一丁前に粋がった大地は田中のその言葉を間に受け、見事ガーターにボールを転がせて見せた。


「あちゃー」


「よし!」


「そこ!聞こえたぞ!仮にも先輩なんだからな!!」


 その問答にどこか微笑ましさを感じながら、いつのまにか雫は緑の隣に座っていた。

 緑はその状況を見計らってか、雫に声をかける。


「私は君のことなんて認めてないんだからね」


「認める……?」


「あぁそうだ。私には見定めることしかできないけど、それくらいならできるつもりだ」


「一体どういうことなんですか……。そんなことされる覚えなんてないつもりなんですが」


 雫は本当になんでもないかのようにして見せる。

 それが緑にとってどうにも耐えがたいものにしか見えないことを知らないで。


「そういうところだよ。そんなに他人を騙して楽しいかい」


 狂騒の中でのなんでもない会話のうちの一言がなぜかこの空間でこだましたように聞こえる。


「次緑さんの番ですよ!おーい」


「あぁ悪い悪い。じゃあいっちょパーフェクト狙いますかね」


「次もストライクお願いします!」



 そうしてボーリングを終えると次は六人で入れる大部屋のカラオケへと足を運んだ一行。

 その中でボーリングの結果に思いを馳せながら皆各々の好きな曲を歌っていた。

 この中でも突出していたのはやはり雫で、その次点に緑がくるような評価であった。

 これは先のボーリングの結果と同じく、この二人は抜きん出ていると言わざるをえないほどだった。


「また、九十点台!テンポも速い曲なのにすごーい!本当に歌上手なんだね」


「一時期ハマっていましたから。歌うのは好きなんです」


「へぇ〜、私も歌うのは好きなはずなんだけど、ぜんぜん上手くならなくて」


「今のままでも十分うまいと思いますよ?」


「でも、せいぜい行けても八十点台だし、あんまり才能ないのかも」


 東雲はどこか目に影を映したように落ち込んだ様子をしてみせた。

 側から見ればひどく落ち込んでいるように見えるものだが、当の本人はそう落ち込んではいない。

 そう見せることが重要なのだ。


「そんなことないだろ。少なくとも俺よりは何倍もうまいだろ?」


 そう言葉にする大地だったが、東雲からしたらそんなことはわかりきっていることである。

 なんて言ったって、この大地。

 カラオケの採点機能が役に立たないほどの音痴の持ち主で、歌い切っても必ず採点結果が出ることなく終わる。

 天性の音感のなさなのだ。

 そんな人物に言われてもどうにも思えないのも仕方ない。


「そんなに点数は重要ですかね?」


「え?」


「俺には先輩が何かに囚われてるように思えますよ?せっかく歌に感情を込められているのに、それが先輩の自信を失わせてるんじゃないんですか?」


「囚われてる?」


 東雲は特にそんな答えなどは求めていなかった。

 しかしなぜかその言葉は東雲の胸にストンとはまる。


「先輩はいい感性を持っているんですから、そのままが一番いいと思いますよ」


 雫のその笑顔がいつも東雲を踊らせる。

 始めはどうも思わなかったことを次第に感情的にさせる。

 どうしても東雲は雫の笑顔に頬を染めるしかない。


「次は私が歌おうか。是非君の意見も聞かせて欲しいな、片桐君?」


「必要ないでしょうあなた」


「いーや、必要だね」


 そして強引にマイクを奪って予約していた曲を整然なたたずまいで歌う。

 緑の声はどこか澄んでいて、よくその声が残る。

 声が特徴的であるのもあるが、それよりも歌い方の技術がかなりある。

 それこそ自分なりのリズムを持っている人の歌い方だ。


 それはどこか雫に通ずるのをこの歌を聞いていた人は感じていた。

 緑はそれを意識したのだ。

 君のその技術など君の特別なものでもなんでもないのだ、と歌で語っているようなそんな思いで。


 しかしそんな思惑など知らない光輝たちにとって、どこか似ていると言ってもただ自分たちのレベルとは違うのがわかるだけのもので、その虚しさと心なしの高揚が胸に宿るだけだった。

 

 そして光輝はその様子にどうしても過去を重ねてしまう。

 なぜまたあいつなのかと。

 どうしてこうなっているのかと。


 その胸の内でどんどん肥大化していく並々ならぬ雫への憎悪は、やがて誰にも知られることはない。

 表面上でただ、微笑んでいるだけでそのうちまではわからないから。


 しかしそんな光輝を密かに覗く緑の影もどこかに見えていた。



「結局、片桐君の最低点が九十五点だっていうのが一番驚きなんだけど!!」


「緑さんも百点とっててすごかったです!歌も上手なんですね!!」


 道中東雲と田中の怒涛の雫と緑への持ち上げもあったが、二人にとってそこまで辛いものでもなく、どちらかというと面白いと言っても良かった。

 ただ光輝は特にその様子を冷めた目で見ているような気がしていた。

 話を振ったり、普段はムードメーカー的な役回りをしている光輝が、どこか受け身で微笑んで相槌するばかりだったから。

 


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