嵐の前の静けさⅢ
後日、紫音はバイトから帰って諸々の連絡や準備を重ねた後、いつもの所定の位置でパソコンを立ち上げた。
ディスコードの画面を映し出すと、そのうちの一人の人と連絡を取る。
そこに表示されたのはミリス、という名前だった。
そして紫音がそのチャットに返答をいくつかすると、通話をつなげようという話になり、紫音にとってみれば初めてのライバー間での生のやり取りとなる。
紫音はそうなるにあたって、いつものように少し深呼吸する。
『明日はよろしくお願いますね』
『いえ、こちらこそよろしくお願いします!コラボも初めてなので色々と勝手がわからないんですが、頑張ります!』
『私もどちらかというと新人なのでまだ全然ですよ。特に私はゲームとかが不得手ですから』
『そうなんですか?でも配信とかではゲームとかはやってるイメージですけど』
『あんまりうまくはないんですよ。それより、本当に明日はいいんですか?私から誘っておいてなんですけど』
『いえいえ、恐縮です……!俺からしたら先輩方はもうすごいなぁとしか思ってませんでしたから!』
『それを言ったら、七々扇さんも凄いですよ。なんて言ったってユナイト史上最速の十万人突破、しかも一週間でなんて伝説ですよ。それに絵以外にも色々なことができるし、本当にすごいなぁって思います』
『ありがとうございます……!俺もミリスさんの可愛いタッチの絵とかは結構好きなんですよ』
『ほんとですか!?七々扇さんみたいな絵の上手い人にそう言ってもらえると結構自信になります……。私ももともと独学で絵を描いてたんですけど、デフォルメ調のものだけが上手くなって、あんまりちゃんとした絵は描けないんですよ……』
『あぁ、それでお絵描きコラボを?』
『そうなんです!私もいろんな絵を自分で描きたいんです!私って結構アニメとか見る方で、自分で二次創作とかしたいんですよ!』
『なるほど。俺も結構アニメ、好きなんで自分で好きなものを描けるっていいですよね〜。俺なんかは最初っからアニメのキャラを練習しながら色々練習したので』
『えっ、七々扇さんも独学なんですか……?なんかここまで上手い人も独学だって聞くと安心します……』
『描きたいものを描くのが一番上達しますしね』
『へぇ〜、あ〜そうそう、そういう話を明日のコラボで聞きたいんですよ。私もそうなんですけど、こういうのって案外視聴者も聞きたいと思うんです』
『そうなんですか?』
『私も結構お絵描き配信するんですけど、なんのソフト使ってるんですか?とか、どんな練習してますか?とか結構聞かれるんですよ』
『確かに俺の時も聞かれましたね……』
『明日のコラボでも教えてもらってもいいですかね?ユナイトにもコトハ先輩とか上手いんですけど、最近とかはちょっと忙しそうなので』
『そういえばライブも近いんですっけ』
『というより来週ですね。ゴールデンウィークの最後の日なので』
『なるほど、なら納得です』
『あ、決して七々扇さんが都合が良かったとかではなくて、あのお絵描き配信でこの人の絵綺麗だなぁって思っただけなんです』
『そんなこと思ってませんよ!……そうだ、どうせなら、ミリスさんの絵も教えてくださいよ。あんまりデフォルト調のキャラクターって書いたことなくて……』
『いいですね!明日はじゃあ互いに教え合う感じでいいですかね?』
『そうですね。そんな感じが良さそうですね』
それから男とミリスは些細な雑談や、明日の配信について話し合うとそろそろ切り上げる時間となった。
この時間から男の配信が始まるという頃だったからでもある。
『では明日はよろしくお願いします、七々扇さん』
『本当に配信の枠は俺の方でいいんですか?』
『お願いします!今は七々扇さんのほうがいいと思うので』
『じゃあ、また後日』
『はい』
そんな会話を皮切りに音声がぷつりと途切れた。
そして紫音は自身の配信の確認をしていつものように配信を始めようとする。
いつものように配信ソフトを起動して、いつものように顔を認識するアプリも起動し、自分がしっかり動いているかも確認する。
いつものように変わらない設定のまま配信を行なっていくが、そこにこれまでとは違う点があった。
ただ一つ、柚月がいないこと。
このことが紫音にとって重大な意味を持つことになるとは誰もが思っていなかった。
『あっ、あっ、聞こえてるかな?じゃ、ユナイト所属七々扇紫音、よろシオン~!』
「よろシオン!」
「よろシオ〜ン」
「対よろ」
「対よろ!」
「よろ」
紫音の配信はいつものように何も変わりなく始まった。
特に音が大きくだとか、BGMが大きいだとか、体動いていないだとか、そんなことはもちろんなかった。
いつものような画面にこれから何かするのだろうワクワク感を感じさせる。
『今日はツイッターでもいった通り、ライバー調査の旅に出ます。俺もライバーになって一週間、そろそろベテランとして君臨していい頃だと思うんだ』
「ん?」
「は」
「は?」
「い つ も の」
『でだ、まぁそんな俺の先人をいく者たちの勇ましき道を辿ってみようというわけだ!今見てくれてる人たちには、他のメンバー知らないよって人もいるかもしれないからその人も一緒に俺と知ってこうぜ?なんでも、魅力がいっぱいあるみたいだからシオラーのみんなに何がおすすめか聞きながら実質同時視聴みたいな感じで』
「お、まじ?」
「涙なしでは語れないことがあったなぁ」
「やっぱ親方は外せないっしょ」
「はいノ、新規です」
「紫音から見始めました!」
「初見です!」
『もしおすすめのがあったらコメントして教えて?っと、その前に確かライバーの情報って非公式wikiにもまとめられてるからそっから見てこっか』
そんな風にして紫音は用意していたブラウザを配信上にも写し、ユナイトのバーチャルライバーに関するページを開く。
その中の上から順番に開いていって、いろんな人の奇抜な配信タイトルや、名言集などがよく目に入る。
特に最初の方からいる人たちは、配信の母数が多いなりにかなりの名言やドラマを残しているのが非公式wikiを見ただけでもわかる。
ちなみにこの非公式wikiはそのままの意味で非公式なファンコミュニティーの作る情報まとめサイト的な位置あいで、主にライバーが行った配信中での出来事や発言をきっかけにいろんなことをいろんな人が書いているのが特徴でもある。
その更新速度はまさに異常で、配信が終わった後に覗くと、すでにその配信での出来事が描かれていたりするのだ。
これだけでもかなりの速度で更新されていることは分かるだろう。
時に響也の迷言を見た時に共感性羞恥を覚えたり、犬猿の仲たるエリカのツンデレエピソードを聞いてドギマギさせられたりしていた。
他にも大型コラボの時とかで生まれたドラマとかも乗っていて、かなり興味がそそられるものだった。
「第四回の月一ユナイテッドとか面白いぞ!」
「アイクラのコラボとかかなり取れ高ある」
「オフコラボにハズレなし!!」
『へぇ〜、いろんなことがあったんだなぁ』
リスナーからもいくつかのおすすめを教えられ、その中から面白そうなものを漁っていく。
特に興味を引いたのは初期組の響也エリカあたりで、二人でのコラボもかなり多い。
他にもブイチューバー間でのゲームの大会で優勝したという聖、というライバーの切り抜きとか、色々なユニットを知る機会になった。
『待って、この早乙女さんって凄くね!?なんでもできるじゃん!?』
そして次に覗いたところには、早乙女華と書かれた女性ライバーが写っていた。
髪はパッツンの黒髪ロングの様相で、格好はかなりのお嬢様といった感じの女子高生だ。
そこの欄にはあらゆる配信でいろいろなことをやってきた経歴が書かれていた。
「お前が言うな」
「華さんはまじでゲーム以外なんでもできる」
「そのかわりゲームが鬼下手」
「まじで歌上手い」
「初めて見た時の身のこなしはすごかったなぁ」
「確か体操やってるらしいね」
『へぇ〜すごいなぁ』
「ある意味紫音に似てる」
そうしてリスナーにお勧めされたものにコメントしながら笑ったり感動してたりすると、すでにかなりの時間が経っているのがわかった。
紫音にとってもまだ全体的に知り得てないことが多かったため、かなりこのユナイトについて知る機会を得たといってもよかった。
そんなこんなで配信の終盤になった頃、紫音は場を占める雰囲気を作る。
そして最後に宣伝と称して、明日のコラボ配信の予定を伝えた。
「おぉミリスたんとコラボか〜」
「キター」
「コラボ楽しみ」
「イケメン化くるか!?」
「すでに待機」
『てなわけで、時間は追って連絡するね!あ、あと大事なことを言い忘れてた』
「お?」
「なんだ?」
「ん?」
『改めて十万人突破ありがとう!多分十万人記念の配信は収益化が通ったらだから結構後になるかもしれないけど、ありがとね!これからもよろしく』
「絶対スパチャする」
「いいねー」
「了解」
「十万人おめでとー」
「本当早いww」
「待ってる」
「カバー配信はいつやるの?」
『あっ、そういえば……歌の配信いつにしよう……』
「絶対忘れてただろ!」
「男に二言はないんだよなぁ?」
「全二十曲待ってます」
『まぁ、そうだな。もうせっかく見てもらってるんだし、記念配信の日に歌い切るまで終われませんってタイトルでやろっか……』
「自分で首絞めてて草」
「約二時間歌いっぱなしw」
「採点機能もつけよーぜw」
『全曲九十点以上取れないと終われませんとか?……いや、まってやっぱなし、今のなし!』
「ほぉ?」
「いいねぇ」
「耐久だぁーーー」
「鬼畜!」
「自分に厳しい、そこに痺れる憧れるぅぅ」
『いや、や、やめ』
「やめるわけないよなぁ?」
「楽しみにしてます!」
「(歌ってなんのだろう……)」
「絢辻カレン」
「絢辻さん」
「絢辻さんの曲」
「ありがとうございます!楽しみにしてます!」
と、そんなやりとりがあって紫音の配信は終わった。




