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一ノ瀬綾香の一日Ⅱ



「それにしても、お久しぶりです。この大学にいったのは知ってたんですが、ここ一か月はあんまり時間が取れなくて……」


「そうだったのか。出来れば私ももうちょい早くに会いたかったよ、じゃなくて!それより今裸眼でいるのか!?」


「え、そうですけど……」


「メガネは?」


「それも忘れて」


「あぁ、終わりだ……!」


 彼女はそう言って一人で何かに絶望していた。

 彼女、緑先輩はうちの高校の一つ上の先輩であり、私がここまで変わることが出来たのはひとえにこの人のおかげといっても過言ではない。

 それほどまでに私にとっては偉大な人であり、周りから見ても同じだ。

 なにせ、彼女は高校時代からそのすらっとした高身長と可憐な顔立ちで一躍有名となった読者モデルであるから。今や売れっ子でもある。


 そんな彼女に高校のころからお世話になっているわけだが、はたしてなぜこんなことになっているかわからない。


「なんでそんなこの世の終わりみたいな顔してるんですか」


「だってこのままじゃ、君は、君は、」


「私が?」


「死ぬかもしれないんだよ!?」


「裸眼なだけで!?死ぬんですか、私!?」


「いや、それは比喩だが」


「え」


「え、死ぬわけないだろ」


「いやそうですけど、私緑さんのいうこと緑さんが思う以上に尊敬してるので、多分緑さんの発言全部真に受けますよ?私」


「いつのまに、そんなやばいやつになってたの!?ちょっと怖いよ、この私でさえ」


 どうしよう友達止めようかな、と聞こえてくるのは何かの間違いだろう。


「それより、綾香は覚えてないのか?高校のころのあの惨劇を」


 そういわれても特に思い出すのは担任のかつらがばれたことくらいで、なにか惨劇などあっただろうか。

 そう思って思い当たる節をほかにも探すものの、なにも引っかかることはなかった。


「そんなことありました?」


「あったじゃないかぁ!誤ってメガネを割ってしまったことがきっかけで一日中裸眼で過ごしていた日が!」


「あぁそういえばありましたね」


 特に印象に残っていることでもないし、言われるまで思い出せなかったことであるのは確かだ。

 ただそんな鬼気迫ったように言うことでもあっただろうか。


「そんな大それたことありましたっけ?普通に授業受けたくらいしか覚えてませんけど」


「あぁそうだな。普通に授業を受けてたもんな。うんうん。でもな昼の時間に弁当をひっくり返し、危うく噴水に飛び込みかけ、私を私と認識しないまま一緒にいたと言った、あの衝撃は忘れられないぞ」


「ん?」


「心当たりないって顔だが、あったんだからな!?本当に今度は死ぬかもしれないことが起こる可能性だってあるんだぞ!」


「そんな大袈裟な。ちょっと周りが見えないだけでしょう?」


「これは死んだわ」


 そんな懐かしげな会話を久しぶりに交わしたものだが、先輩はなんだかあまり変わってないな、と思う。

 高校の頃から私に気を使ってくれたし、何かと一緒にいてくれた。

 私が自信を持てるようになってきたのも、一重に彼女の影響でもある。

 だから私は緑さんを尊敬せずにはいられないのだ。


「それより今日はいつまでだい?」


 彼女はおもむろに一番ドア側にある椅子に腰掛け聞いてきた。

 そんなに離れると見えなくなっちゃう。


「あと三コマでお昼までです」


「ん〜じゃあ、せっかくこうして再会できたわけだし、一緒にお昼でもどうだい?」


「いいですけど、先客がいますよ?」


「構わないよ。一緒に水入らずな時間を楽しもうじゃないか」


「いや先客いるって言ってますからね?」


「わかってる、わかってるって」


 私は次の講義に向かうのだが、緑さんはそんな私の周囲を警戒するように見回していた。

 そんなことをされると変に目立ってしまうけど、まぁ今更か。

 なんて言ったって、この大学一の美貌と謳われている二代美女の水月と、緑さん。二人とも普段からこういう視線を浴びているせいで、近くにいる私も慣れっこだ。

 大学一で二代美女というのも少し謎だが、水月が去年ミスコンに出なかったのが原因らしいので二人は優劣つけがたい美女としても有名である。



 そうしてあと三コマを隣の人たちのノートも見せてもらいながら乗り越えると、私は周囲の安全を確保しながら食堂に向かう。

 食堂に着いた頃には、なぜかそこのある一角だけ異様な雰囲気を漂わせているのがわかった。


「うわ、本当に木下さんと浅野さんが一緒にいるっ!」


「本当に綺麗だよね〜」


「いや、それより二人は犬猿の仲だって聞いてるけどなんで一緒の席に座ってるんだ!?」


「な、何か起こるというの!?」


 そんな声が小さいながらも周囲から聞こえてくるため、いやでもこの状況がわかってしまう。

 先に緑さんを向かわせたのは失敗だっただろうか。

 まさか二人に面識があったとは思わなかったから。


 そんなこんなで私は人の波を掻い潜りながら、こっちと思って行けば受け渡し口で、あっちと思って行けば食券売り場。

 なかなか二人のいる場所にたどり着けなかったが、食堂に入って三分。

 やっと二人の座っている席らしきものにつくことができた。


「ごめんなさい、お待たせしました」


「いや、大丈夫だけど、なんでこいつがいるのか知ってる?綾香は」


「私もそこまで待ってないからいいけど、綾香はいつからこいつと知り合いになったのかな……?」


 半信半疑であったが、本当に二人が仲が悪いとは……。

 互いに名前も言わないし……。


「とりあえず、ご飯頼みません?」


 そうして私たちは私を間に挟んだ状態で食券を買いに行き、私がカレーを頼むと美月もカレーを頼み、それを見てなぜか緑さんもカレーを頼んだ。

 

「それにしても綾香?本当に大丈夫だったか?コンタクトだってなかったんだろう?」


 料理を運びがてら水月は口にした。


「本当だよ。大丈夫?どこか怪我してない?」


 それに被せるようにして緑さんも口にする。


「まて、貴様は一体なんだ。いきなりこんなところに現れて私と綾香の食事時間を邪魔しやがって」


「そちらこそなんでこんなところにいるんだい?君は誰とも友達になる気がないと思ってたけど?」


「綾香は別さ。私たちはもう、一種の絆で結ばれているんだからな」


「私だって綾香直々に尊敬していると言われたんだからな?君とは格が違う」


「あ?」


「あ?」


 私を挟んで睨み合っている二人。

 せめて席についてからそういうことはやってほしい。

 だっていつのまにか高身長二人に挟まれた私は、周囲が余計見えなくなって足元が疎かになってしまうから。


 そう思った頃には、私は何かに躓き前方向に転んでしまいそうになる。


「「あぶないっ!」」


 そうして私が目を閉じたのにいつまでもやってこない地面との衝突。

 それに手に持ったカレーが巻きちった音も聞こえてこない。

 恐る恐るモザイクの世界を見ようと目を開けると、私は水月によって支えられていた。


「大丈夫か?綾香」


「大事なくてよかったよ」


 左側にいた水月は自分のカレーのトレイを右手に持ち、私の方に振り返るようにして左手で私を支えてくれた。

 右側にいた緑さんは私の手から飛び出していったトレイを片方の手で持ち、両の手にかなりの重量があるはずのカレーのトレイを載せていた。


「あ、ありがとうございます、二人とも」


「いや、それほどでもないよ」


「こちらこそ。綾香がこうなるのはわかっていたことだからね」


「いや貴様はトレイを持っただけだろう」


「君じゃ取れなかっただろう?私は私のできることをやっただけだよ」


「貴様は口が減らないな」


「君もそうだろう?」


「わ、わかりましたから、とにかく座りましょう!」


 席に戻ってきた私たちはいろいろと話を交わしながら食事をした。

 その中でも彼女らは一つ一つのことで言い合っていて、仲が悪いというより、一周回って仲がいいんじゃないかと思い始めた。

 そのことを二人に言ってみれば一緒にそれはない、とハモって見せたからもうそれは喧嘩するほどというものだろう。

 

 私にとっても二人が仲良くしている姿は微笑ましい。

 水月に至ってはやっと最近調子が戻ってきたから余計にだ。





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