いつか夢見た自分Ⅵ
「いや流石に、な?」
「惜しい、って言えばいいのか?」
「いや惜しいんだろうが、もう何が何だか……」
「ただただ見入ってたんだが」
「よかったぁ、まだ人間だったぁ」
「失敗して喜べばいいんだか、悔しがってあげればいいのか分からん」
「流石に無理だったか」
『ねぇ、さっきの最後見てた?前から手裏剣三つが来てると思ったら、横から大木と背後にまきびし撒かれて、しかも唯一の退路にはすでに次のクナイの軍勢が押し寄せてたんだけど!?』
「いや、分からんて」
「見えても覚えられんし」
「そもそも見えんし」
「ずっとかっこいいなぁって脳死だったぞ?こちとら」
「分からんわボケェ!?」
「あれは一度後ろに避けて大木とクナイの相殺をした時に起こる確定死亡パターンの一つで、手裏剣三つと大木のハメパターン」
「待って、有識者おる……!」
「条件わけわからんくて草」
「とにかくヤベェことをしたのは分かった」
「なるほど、わからん!」
『じゃあ第二ラウンド行きますか』
「体力やばいな」
男は再度挑んだ。
動き的にかなり激しい動きもしているように思えるが、未だその体力の底は知れない。
それから彼は挑んでみたものの、二回目にはまたもや特殊な確死のハメパターンハマったことがコメント欄で発覚していたりした。
男本人はコメント欄の流れが速く、局所局所でしかコメントは読めていなかったものの、そこまで悪い反応はないだろうと言ったものの考え方だった。
コメント欄が男の動きに阿鼻叫喚していることなど、全く思ってもいなかった。
そして三度目の挑戦。
ここで運営のサポート側も時間の都合上、これを最後の挑戦とし、BGMもそれにふさわしい曲調のものへと切り替える。
男自身、その変化を汲み取ってこれが最後であるという意気込みで挑んでいた。
その熱気に視聴者もすでに曝され、次第に困惑の様子より純粋な熱い応援を送るようになっていた。
そしてラストスパートに入ったあたり、くしくも一回目の挑戦と同じパターンに入り込む。
というより、このパターンに入ってしまったのは、一重にこの道が最善であったからこその負け筋なのだ。
しかし、この場面をどこかで男は本能的に処理し始める。
多分この場面をどこかでやったであろうことを本能的には感じ取っていたが、どこの場面かは思い出したわけではない。
ただ過去の経験を体で覚えていた。
確死パターンの手裏剣三つと大木が現れたところで、本来は取らない選択肢を取る。
大木の出現した方向に走り出したのである。
VRとはいえ、現れた障害物に触ることはできないシステム上、この大木の方向に逃げることに何の利もない。
何せそっち側にはフィールドを仕切る線も張り巡らされている。
ただし男はそこの方向に大きく足を踏み込む。
そして体をエビのように反らせるようにして飛び上がった。
その跳躍は直径が二メートルとある大木の上を通り抜け、手裏剣が空を切る。
しかしその先には張り巡らされた線が数本クロスしている。
このままいけば体がいくつものピアノ線のようなものに阻まれるはずだった。
空中で旋回するように体をひねり、その僅かな隙間へと、地面と垂直に着地した。
その場所はフィールド上に張り巡らされた線の唯一のセーフゾーンだった。
そして画面にはクリアという文字がでかでかと映し出される。
テストも含めて僅か挑戦回数四回という異例の回数で鬼畜モードの鬼級を見事クリアして見せた。
それこそ経験者であればあり得ないスピードであることは議論の余地もないほどに。
『よっしゃああああ』
「すげぇぇぇぇぇ」
「まじでクリアしやがった!!」
「嘘だろぉ!?」
「あれ確死パターンじゃないのぉぉ?」
「最後の動きこそ人間やめてたよ……」
「てか人類にこんな動きできんのかよ」
それから少しして男はその息を整えたところでいう。
『はい、というわけでそろそろ終わりも近づいて来たんだけど、本来初配信でやるべきことをまだやってないんだよね』
「切り替えはやっ」
「あ〜」
「あっ」
「ん?」
「あ、そういや決めてないな」
「いろんなタグとか名前……」
『そう!まだ初配信ではあるんだけど、本来この機会に俺のファンになってくれる人の名前とか、放送のハッシュタグとか決めるんだけど、それが終盤になっちゃったせいで時間があんまりないんだよね』
「いやむしろ終盤でよかったかも知れん」
「何か最初に決めてたらギャップがめっちゃあったから……」
「よし、命名式ダア!!」
『ちなみに何か案ある?ファンネームとか』
「よしきた、無難にシオラー!」
「紫民」
「ななおうぎみ」
「シオンず!!」
「僕らの扇」
「七つの大王」
などなどリスナーは色々な案を並べて行き、男の類稀なる動体視力もあって、適宜コメントをしながらどんどんと決まっていった。
時にこれはあり得ない、とか。
男の出した案にそれはないと言われたりだとか。
ファンネームだけでなく、その調子で他の名称も決まっていく。
特にファンマークには結構な議論が芽生え、あれでもない、これでもないと模索しながら男が妥協点を見つけた辺りで決まった。
そして最終的に決まったのが、ファンネームがシオラー、ハッシュタグは二次絵に関するものが七々扇展、生放送に関するものは紫オンライブ、そしてファンマークには紫色の剣のようなかっこいいものにまとまった。
特に紫オンライブはリスナーの天才的な発想ゆえに決められたものでもあった。
そしてそれを決め終わる頃にはそろそろ一時間と経ってしまった。
『じゃあ、そろそろ終わるけど、改めてこれからよろしく!まだ新人だから何も言えないけど、これからもいろんなことをやっていけたらいいなって思ってるから、これからも見てくれると嬉しいな』
「もう最推しです」
「初見ですが好きです!」
「うぅ、浮気したくないのに、体が勝手に、、、」
「シオラー所属になりました!!」
「よろシオン!!」
『なんかもうよろシオンでもう定着してね!?』
「よろシオン〜」
「よろシオン〜〜〜」
『いつのまに……。ま、いっか。じゃあそろそろ終わろうかな。今日の感想はどうせだし今日決まった、紫オンライブでツイートよろしく!』
「了解!」
「見所ありすぎて書ききれんw」
「もうすでに七々扇紫音でトレンド入りしてるけどなw」
「シオラーに任せろ!」
『じゃ、バイバイ〜〜』
「お疲れ様!」
「おつかれ!」
「おつ〜〜」
「おつかれオン」
「もう別人で草」
「おつかれオンw」
「おつかれオン〜〜!!」
そんな空気感で男の初めての配信の枠は閉じられた。
そして、この日が初めて七々扇紫音という名前が轟くことになる一日目であることに、男は全く気付いていなかった。
男は今日も依然とした表情で帰路を辿り、家に戻って、いつものように寝る。
でも、その日の夢は男にとって悪夢であった。




