いつか夢見た自分Ⅴ
「いや、まじでカッケェ」
「アングル神か?」
「危なっ、くないな」
「このゲーム初見だけど、初級から結構早く見えるんだが」
初級の状態での男の動きはかなりの余裕を持てているからか、結構派手な動きで大袈裟に避けて見せている。
それこそ回転や、ひねりといった大袈裟な技で見せれるから。
「これ、まじでトラッキングすごいな」
「体が反転したり高速で回転してんのに認識してんのかよ!?」
「なんだろ、CGのアニメみたいな」
「めっちゃ細かく書かれたアニメみたいに自然に動いてるな……」
そんなこんなで一番優しい初級を終えたところだが、男は続けて中級へと向かう。
初級に出てきた障害物は大木だけだったが、中級になると、その木にも大きさの差別化が働き始め、速度もまちまちになってくる。
方向は前と横からの二方向なため、これもまた余裕を持ってかわしていく男。
そしてそこで初めて配信の画面に新たなワイプが映り始める。
そこには今そこで動き回っている男の視点が映されていた。
「うわぁ酔うぅぅ」
「小さい表示は助かる」
「回転とかの時の視点ってこうなってるのか……」
「えぇ、回転しててもずっと次の障害物の場所を見てるって案外すごくね?」
「回転はしてるけど余計な揺れが全くないあたりを見ると、まじでちゃんと体幹が鍛えられてる証拠なんだよなぁ」
こういう視点は結構経験したことない人にとっては衝撃的にうつりがちだ。
なんて言ったって普段は地面と空が上と下に確実に存在している世界に生きているのに、こういう体操やアクロバットをする人はそれを容易く覆しているのだから。
バク転だってしたことがある人なんて少ない。
だからそういう人が一体どういう世界を見ているのか、こういう視点を活用することによって知ることができるのだ。
そして難なく中級も終わりを迎えると、男は一旦止まって、周囲を見渡す。
そして男は動き回っているカメラを見つけると、そこのカメラに近づき顔をドアップにして言っていた。
『どう?面白そうでしょ?』
その端正な顔立ちで画面の大部分を押さえ、目を細めた笑顔でそう言い放つ。
「ガチ恋距離助かる」
「助かる!」
「顔がいい」
「近いんん」
「かっこいい!!!」
「確かに面白そうではある」
『じゃあとりあえず超級まではやっちゃおうか』
男はまたもワールドの特定の位置まで戻っていくと、手元で操作をし上級へと移っていく。
「真後ろから同時に来てね?」
「しかも何か手裏剣みたいなのもあるじゃん」
「む、無理ゲー……」
大木に加え、他に手裏剣やクナイといった忍び的な投擲物が飛び交うようになり、よりスピードが増していく。
男の視点から見てみれば、本当に視認しづらいこともわかる。
そのかわり小さいものにはそれ独特の音が鳴るようになっていたりもするのだが、それにしても色々な音が錯綜する中で判断するのは結構至難な技である。
「いや、より動きすごくなってんな」
「もはや手裏剣とかは見てないのかよ……」
「ヤベェ」
そして上級が終わったのが見て取れたところで、男は続いて超級へと手を伸ばしていた。
超級はすでに初めの段階で全然様子が違い、あらゆるところに木々で結ばれた線が張り巡らされ、自由に動けるスペース自体が少なくなっている。
さらには飛んでくるものにまきびしまでもが加えられ、同じ場所で止まっていられなくもなる。
それに加えて男の表現するスペースが少なくなったとも言えるため、なかなか見応えもなくなるかと思いきや、男はその画面を最適化された動きをすることによって美しさを表現して見せた。
それこそまるで周りのものが全部見えているかのような動きだ。
「なんで躱せてるんだ……」
「人間業じゃねぇ」
「もはや全方向から来てるのに」
「もう視点がすごいことになってる……」
リスナーのいうように、男の視点はもはやかなりの速度で動かしているせいで残像としか映っていなかった。
まだVRでは現実のように認識する速度がそこまで早いわけではないから、現実のように首を振っても情報が正確に認識できるわけではないだろうに、それでも素早く視点を動かしている。
そしてその超級をもどこか軽々しい雰囲気のままクリアして見せると、ひと段落といったようにそのコートを翻して男は座る。
「おつかれ!」
「いや、このゲームやり込んでる??」
「もう見えてるとしか思えんw」
「草生やしときます」
『一応テストでやったんだけど、初見でできたのは超級までなんだよね。鬼はテストの段階でクリアできなかった……。ちょっと水飲むね』
「了解」
「了解……って初見クリアしてたん?ここまで……」
「よくできるな……」
「待て!俺は上級のクナイで詰んでるぞ!!!」
「まじでヤバイって」
「人間では、あったんだな……」
「これが初配信ってマ?」
「ブイチューバー界最強の男、爆誕」
『ふぅ、じゃあちょっと本気出してかないとね。……にしてもユニちゃん可愛いと思わない?』
座った状態で男はカメラに向かって指を指していた。
座った時にカメラが近寄っていたが、この動かしているカメラも実はかなりこのユナイトで有名なキャラクターである。
ユナイトの公式マスコットのユニちゃんと言う、小さな精霊である。
「ユニちゃんは可愛い」
「この無表情で飛び回っているのも何か愛らしく思えるし」
「てか、シオンも思ってたんだな!」
「この数十分でもうヤベェやつって認識になっちゃったよ」
『じゃ、そろそろやりますか』
男は気合い十分といった感じで立ち上がり、ついに鬼級にまで到達した。
鬼級にまでなると同時に全方向からやってくることも稀ではなく、基本同時に到達する障害物が三つはある。
そのため一度避けても常に自分を捉え続ける状態となり、いかに自分がよけながら自分が安全なゾーンを見極められるかが重要になる。
「おお、ここに来てBGMが神がかってる!」
「アングルもめっちゃいい!」
「PVかな?」
男は休む暇もなくステップを交わし、躱した先にまきびしがあると思ったら体躯を逆さまにして開いている場所に手をついて、理に適ったバク転もしていた。
その間に自分に当たりそうなクナイとかも体をうまく捻らせて躱している。
そのかわし方から、もうすでにこのフィールド全てを把握できていないとできない芸当でもあった。
本来この鬼級の最高難易度のモードは、いかに現れる障害物からこれから起こりうるパターンを想像して避けるのがデフォルトである。
そのため初見は愚か、何十回、何百回と試行回数を交わさなければ五秒ともたない。
しかし、このVRという性質上、自分の動かす体は現実に準拠する。
本来はできるはずもない、瞬間的に空間把握がその体に伴って可能であるのなら、決して出来ないというわけでもない。
不可能に近い芸当ではあるが。
何せ、普通は自分の体を一切のタイムラグなしに動かすことなどできない。
脳の処理した情報を体が反映するのにすら零コンマ数秒のズレがあるわけで、それこそ反射的な反応を常時している状態でもなければ、その空間能力で把握したところで体はその情報に追いつくことなどできないのだから。
つまり、この男はその芸当を可能にしてしまえるほどの能力をその体に宿しているということになる。
そんなの人間にできる芸当ではないのだ。
『は?ま、無理ぃぃぃ』
そんな超常的な動きをして見せた男ではあるが、ついにその体に障害物を複数受け、画面が赤色で染まる。
このゲームを始めてから、初めてのゲームオーバー画面だ。




