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いつか夢見た自分Ⅳ



『よし、オッケー。じゃあやるよ?』


「いいよ〜!」


「キタッ」


「あれなんか雰囲気変わった?」


「なんか凄そう……」


 男はそこで少しばかりの沈黙を作っていた。

 その時間が男にとっては何よりも必要としている間で、何よりこの間が男の変化を著しく表していると言ってもよかった。


 視聴者もどこか実際には数秒の間が、数十秒と経っているかのように感じていた。

 なんて言ったって、さっきまでその全身を自堕落に動かしていた存在が唐突にピタリと止まったかのように動かなくなったからだ。

 しかし、バーチャルという存在でありながら、その空間に吹く風に揺らされるコートはなによりもそれを現実たらしめていた。

 カメラは全体像をとらえるように引いた目線であるにもかかわらず、どこか男を近くに感じていく。

 前髪で隠した目がどこか鋭く輝いているようにさえ思えた。

 

 なによりそう感じさせていたのはこれまでの自然さがきっぱりと消え失せたことだ。

 男から感じるどこか自然な様子がピタリとも動かない体にどこか乖離を生ませ、男自身の存在感が増していくようだった。


『…………』


 男の口にしたセリフはリヴァル兵長が主人公に対して言った確信的なセリフだった。

 ただ視聴者にとってみればそこの部分よりもっと短いセリフの方が馴染みがあっただろう。

 その方がわかりやすいから。


 しかしそんなものじゃなかった。

 男のいうセリフ一つ一つが、男の纏う気配と動作の一つ一つが、リヴァル兵長を知っている視聴者の心にその姿を思い出させる。

 間の取り方も、声の出し方も、語尾の抜け方も、そして声質までもが一致していて。

 その動作の一つ一つがきっとリヴァル兵長のしていた描ききれなかった仕草の一つ一つなのだと自然に納得してしまうほどに。


 その間に流れたコメントはさっきのコメント数のおよそ二割ほどしか打たれていなかった。

 たったの一分のみだ。

 たった一分男がリヴァル兵長の真似をしただけだ。

 でもそれは視聴者たちの心に響き、どこかに余韻として残る。

 あぁ、きっと主人公はリヴァル兵長のこの言葉に救われたんだな、と肌で感じてしまえるほど圧倒的だった。




『はい、おしまい。どうよ?これでも結構自信あるんだよね』


「自信あるってレベルじゃねぇよ……」


「俺、今、リヴァル兵長に話しかけられてたぜ……」


「演技のレベル超えてるって……」


「もしかして本人連れてきた……?」


「いやいや、まじでやべーって。なんだよ言葉にできないカンジ!!」


「いや、ほんとどういうこと?本業声優?」


『いやぁありがと!ごめんな?俺って結構時間かけてやんないとこういうのできないからさ。ちょっと時間かかっちゃうんだよな』


「あのレベルでやったらそりゃな……?」


「だってカメラアングル一つも変わってねぇのに、まるでアニメのあのシーンを見てたみたいな錯覚が」


「声ももちろんなんだけど、それより本質的にリヴァル兵長という人を演じてる感じ」


「やべぇ……」


「てか、もしかしてこのレベルで他のキャラもできるの……?」


『他のキャラは最近声出ししてないから、ちょっと時間かかるかも』


「や、ヤベェこいつ」


「ユナイトとうとうバケモン連れてきたな……」


「男なのに惚れた……」


「すきだぁぁ」


『ってなわけで、俺の特技がどのくらいのレベルの特技かわかったところで、罰ゲームといこうか!』


「そうだった!?」


「見入ってたせいで忘れてた……」


「てか、こんなん俺らへのご褒美じゃん」


「罰ゲームになるの、か?」


「罰ゲームもこのレベル?」


『あ、あれぇ?ほんとになんでもいいんだよ?あ、もしかしてやっぱりやんなくていいとか!?』


「何か今ので当てた分の見返りはもらえてたっていうか」


「何か罰ゲームより取れ高あったみたいだし」


「俺たちなんかが適当なことやらせるより面白かったからなぁ」


「(やんなくて)いいです」


『え、まじ?ほんとにやんないよ?……じゃあお言葉に甘えて、次のコーナーへゴー!』


「お、おー」


「な、なんかもうお腹いっぱいなんだが」


「やったぜー、、、」


「コイツ、強い……」




『というわけで、自己紹介も終わったところで、今回の本題に移るとしようか。多分ここにいる人のほとんどの人が俺の告知シーンを見たと思うんだけど、その感想に色々あってさ?どうせだからこのユナイトの技術力と、俺の身体能力のどっちもどうせだから見せちゃおうってなったんだよね』


「そういえばそうだった……」


「なんかすげぇことやってたんだよな……」


「それよりすごいものを見せてもらっちゃったから、、、」


「キタァーー」


「てか特技に体操なかったのに……」


『それで最初っから疑問に思ってたと思うけど、このワールド!実はあるVRゲームのステージなんだ。プレイヤーに目掛けて迫ってくる障害物を避ける、っていうだけのミニゲーム用のマップなんだけどね。ただ、どうせだからこの避け方を俺のみせたやり方で避けてみるって制約がつくけど。ちなみに安全にはちゃんと留意してるから心配あらず』


「げ、これスパイシュミレーターじゃんね?」


「確か日本マップでは忍びの里攻略にこのミニゲーム入ってたよな……」


「これ最高難易度まじ鬼畜だったような……」


「てかVRゴーグル付けて避けれるものじゃないんだよなぁ、これ」


「やっぱりそうだったんだ」


「まじでスペースたんなくなるのよなぁ」


『俺も一回テストでやってみたんだけど、これあらゆる方向からくるのって鬼畜じゃね?人間前しか見えないってのに』


「それ!」


「特にこの忍びの里マップの全方向からの障害物がヤバイ」


「またあの動きが今度は生で見れるのか!!」


「モデルの完成度を推し量ってやろう!」


『というわけで、早速始めようか?どうせ失敗するだろうけど、初級から中、上、超、鬼って順番で全部やることになってるからよろしく!じゃあ、しかと見よ!』


 男はこれまで立っていた場所で幾らかの操作をすると、ゲームスタートという文字が浮かび上がり、いきなり大木が現れたかと思うとそれなりのスピードを持って男の方へと振り子の要領で向かっていく。

 ちなみにゲームがスタートするのと同時にカメラが動き出し、男の周辺を飛び回るようにして、あらゆる場所からその姿を収めていた。

 それこそ男がバク転して避けているところも、素早くスライドして避けているところも全て。



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