第二十六話 再びイシュカの街へ
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(ノ∀`)タハー
ランキングで「削除の可能性うんぬん」とあるのはこのためです
これにともない第十四話、第二十一話を修正しております
およそ二ヶ月ぶりにイシュカの街に戻った俺は、二ヶ月前には持っていなかった二つのモノを手にしていた。
一つは黒刀。
これは心装ではなく、人間の鍛冶師が鍛えた通常武器である。
通常といっても、鍛えたのはアドアステラ帝国の刀鍛冶師であるし、使ったのは強靭で知られる黒鋼。これ一本で金貨が十枚単位で飛ぶ逸品である。具体的に言うと、五十枚飛びました。
俺が二ヶ月の間イシュカの街から姿を消していたのは、この刀を求めて帝国に渡っていたから、ということになっている。
金貨五十枚の代金については、ティティスの森で討った魔獣素材の売却益などをあてた。
マンティコアの尻尾とか、けっこう高値で売れました。採集した薬草などもあわせて、全部あわせて金貨十枚。やはり深域の魔物、薬草は高く売れる。
くわえて蝿の王の巣で殺された元冒険者たちの遺留品。カナリア王国内で売ると後々面倒なことになりそうだったので帝国で売却した。
魔力上昇効果がついたネックレスや、魔法防御がついた盾が、こちらもかなり高値で売れて、全部あわせてざっと金貨七十枚。素材の売却益である十枚とあわせて、手に入れた金は金貨八十枚に達した。
金貨一枚で一ヶ月は楽に暮らせるわけだから、金貨八十枚の価値もおおよそ知れよう。
わぉ、お金持ちぃ、とふざけて呟いたくらいには俺にとって未知の大金だった。
まあ、黒刀の代金であっという間に半分以上が消えたわけだが。高いわ!
しかし、これは仕方ないことだった。
黒刀はその特徴的な外観と、頑丈で折れにくいという長所があいまって大人気なのである。剣に比べて、刀をうてる鍛冶師が少ない、というのも値段が高騰する理由の一つ。
黒刀にこだわらず、通常の刀を購入していたら、もっと金貨の消費をおさえられたのだが……俺が刀を購入しようと考えたのは、自分の心装を目立たなくするためだった。
街に戻れば、何かの拍子に人前で戦うこともあるだろう。そのとき、どこからともなく黒い刀を召喚して戦えば確実に目立ってしまう。
冒険者の中には幻想一刀流や心装のことを聞き知っている者もいるだろうし、そこから俺と御剣家の関係を割り出す者がいないとも限らない。
ソラ、という名前はいかにも東方風だしな。
そうなれば色々と面倒くさいことになる。
常日頃から黒刀を腰にさしていれば、いざという時に心装を召喚しても目立たないだろう。
それゆえの黒刀。普通の刀を買う、という選択肢は初めからなかったのである。
実際に手に入れた黒刀は、さすがに心装ほどではなかったが、手によくなじむ良刀だった。良い買い物をした。
かくして手元に残ったのは金貨三十枚。
これで求めたもう一つのモノが、今も俺の荷物を運んでいる獣人の少女である。
後ろを見やると、少女が緊張した顔つきで口を開いた。
「何かご用でしょうか、ご主人さま」
女性。若い。健康。戦闘に耐えられる。
そういった条件をあげて奴隷商に見繕ってもらったこの少女、名をシール・アルースという。
なんでも獅子の花嫁という意味らしい。いかにも一騎当千の女戦士といった名前だ。
……当人は農具以外握ったことはなく、そもそも獅子の獣人ですらないそうだが。
「いや、なんでもない」
奴隷商に欺かれた気がしないでもない。
ただ、こちらの出した条件は「戦闘に耐えられる」であって「戦闘に長じている」ではないからな。文句は言えない。
それに帝国からイシュカまで注意して観察していたが、言動やふるまいに問題はなかった。
奴隷になってから日が浅く、その意味で戸惑いやためらいを消しきれていなかったが、それは大きな問題ではない。
こちらも黒刀と同じく良い買い物だったといえるだろう――さすがに金貨三十枚の出費は予定外だったけれども。
どうしてこう、収入があるたびに同額の支出が発生するのだろう?
まあ、今回は「娼館へのお詫び金」ならびに「妓女さんへの見舞い金」という支出項目がなかっただけよかった、ということにしておこう。
そんなことを考えつつ、俺は一軒の宿屋の扉を開ける。
青い小鳥亭。
かつて俺が定宿にしていた、冒険者ギルド御用達の宿であった。
◆◆◆
残った銀貨の中から一ヶ月分の宿代を先払いし、ついでに宿の娘にもチップとして銀貨を渡してやる。
チップにしては大きすぎる額だが、以前の迷惑料もかねているから遠慮なく受け取ってほしい。
今後も事あるごとに同額のチップを弾む予定である。
俺は戸惑いをあらわにしている主人と娘の顔を思い起こして、くくっと咽喉を震わせた。
まあ小さな復讐の快感に浸るのはこの辺にしておこう。この宿を選んだのは、何もあの父娘に成金のごとく金を見せびらかすためではない。
ここはギルド御用達の宿。当然、宿泊客には冒険者が多い。それに、店自体もギルドと深くつながっている。
以前、俺が除名処分を受けたときも、情報は一時間と経たずに宿に伝わっていたしな。
この宿に泊まれば、俺の情報は従業員の口からギルドに伝わるだろう。俺の狙いはそこにあった。
ミロスラフの件で俺に向けられた容疑は晴れたはずだが、俺がギルドマスターを嘲弄した事実までが消えたわけではない。
『隼の剣』との諍いも残っている。ギルドは間違いなく今後も俺を危険人物としてマークし続けるだろう。
だから、向こうがマークしやすいようにこの宿を選んだのである。
どうぞ好きなだけ俺を見張ればいい。
俺は何もしない。俺が何もしない間に事が起きれば、それは俺以外の誰かの仕業ということになる。ある意味、ギルドが俺の無実を証明してくれるわけだ。ふふふのふ。
とはいえ、俺がイシュカに帰ったその日のうちに、あるいは数日のうちに事が起きれば、それは少しばかりタイミングが良すぎる。
だから、ある程度は時間を置く必要があるだろう。
それは向こうにもあらかじめ言い含めておいたので、しばらくはまじめに働くとしよう。
そう、我が魂の仕事とも言える薬草採取を今日から再開するのだ!
……いや、今の実力なら魔物退治とか盗賊退治とかでもまったく問題ないのだけれど。
ただ、ギルドを除名された俺は依頼としてそれらを受けることができない。
それに、今の時点ではまだ周囲にレベル一のままだと思っていてもらいたい、という思惑もあった。
蝿の王の巣から生きて戻ったことで、そのあたりに疑問を感じている者もいるだろうが、大半の人間にとって、俺はいまだに『寄生者』だ。
その認識を覆すのは、もう少し先の話である。




