57 今の顔はヤバいんだが
「ただいま〜」
「……はぁはぁ…お帰りなさいお兄さん」
「…そんなに急いで来なくてもいいでしょ」
優が家の扉を開くのと同時に有咲が部屋から凄い勢いで出てきたので少しのけぞってしまう。
そんな優を更にのけぞらせてしまうほどの勢いで七海が詰めてくる。
「いえ、兄を迎えるのは妹の役目ですから」
「へーソウナンダー」
「あ、お兄さん。お疲れではありませんか?マッサージ…しましょうか?」
今回は結構疲れたので素直にお願いしてみる。
「ああ、頼むよ。シャワー終わったらな」
「一緒にシャワー__」
「じゃあ1人でシャワー浴びてくるな」
「…はい」
なぜか悲しそうな顔をしているがとりあえず放って置いてシャワーを浴びる。
ゆっくりシャワーを浴び、ポカポカした状態で部屋に入る。
「あ、お兄さん。それでは早速始めましょうか。まずはベッドでうつ伏せになってくれますか?」
「ああ」
優はベッドでうつ伏せになり、有咲はその上にまたがる。
「では、肩から始めますね」
有咲は早速肩を揉んでくる。
思ったよりも丁度いい力加減だ。
有咲は結構力を入れているようだが、優にしてみれば可愛いものだ。
という訳で今はマッサージを堪能する。
そして優は目を瞑って今日の事を思い出す。
(…なんか俺…とんでもないことをしてしまったのでは?)
思い出せば普通にとんでもないことをしてしまっている。
顔を枕に埋めているので有咲にはバレていないが、今恥ずかしくて変な顔になってしまっている。
(お兄さん、顔が赤くなってる…そんなに気持ちいいのかな…なら嬉しいな…)
耳まで赤くなっているので流石に見えているらしく、有咲は嬉しさで心がいっぱいになる。
気持ちいいのは事実だが、顔が赤くなっているのとそれは全く関係ない。
そんな事に気づかず有咲はマッサージを続ける。
「では少しずつ下をしていきますね」
優は返答することなく考え事を続ける。
(あ゛ぁぁぁ⁉︎なんか俺完全にやらかしてしまってない⁉︎なんか胸触ってるし急にお姫様抱っこしてるし最後はなんか押し倒してるし!)
優の心の中は後悔と羞恥に包まれる。
(普通に意味わかんねぇ…今日の俺…何してんの?)
「あ゛ぁぁぁ」
「…?…痛かったですか?」
「あ、いやそうじゃなくて…そ、そこ気持ちいいなぁって…」
「そうですか。なら重点的にやっていきますね」
声が出てしまっていたらしく、優は慌てて誤魔化す。
(ちょっと待て一旦冷静になって今日の事を思い出そう。……………)
目を閉じて今日のことを思い出すが、映ってくるのはやらかしまくっている姿だけ。
(あ゛ぁぁぁ!!!何やってんだ俺ぇぇぇ!!!)
本日の自分の行いに自分でツッコミを入れる。
ついそんな事をしてしまうぐらい変な事をしてしまったという自覚がある。
その考えに辿り着いた瞬間、優の脳は完全に破壊されてしまう。
そんな優の羞恥心など知らず、有咲は黙々とマッサージを続けている。
「はい、後ろ側はこれでおしまいです。さ、仰向けになって下さい」
いろんなことを考えている間に背中側のマッサージは終了してしまったらしく、有咲に仰向けになるよう指示を出されたのだが、今そんな事をする訳にはいかない。
今の顔、多分ヤバい。
優の様々な感情の入り混じった顔を見られると、多分何かあったのだと察される。
それはシンプルにマズイし、有咲にこんな顔を見られたくないという気持ちもある。
なので優は拒んだのだが…
「はーい、言うこと聞きましょうね〜」
有咲に実力行使され、結局優は仰向けになった。
優の表情を見た時の有咲の顔は…今でも夢に出てくるらしい。




