191 主導権を握りたいんだが
あれから数日経ち、とうとう付き合ってから初めてのデートの日がやってきた。
2人は電車で桜が綺麗に見える町まで移動し、今現在ようやく到着したところだ。
「おぉ〜!綺麗だね〜!」
一面に広がる桜を見るなり七海が目を輝かせて騒ぎ始めた。
「だなっ」
七海の綺麗な笑顔を見て、優も少し気持ちが昂り、いつもよりハイテンションになる。
「どこに座る?」
「ん〜…あの辺とかどうだ?」
「お〜いいね!じゃあ早速行こっか」
優が指差した場所に向かい、早速シートを敷いて座り込む。
「ん〜っ空気が気持ちいい〜」
そのまま身体を倒してゆっくりした後、七海はスマホを取り出してカメラを開いた。
「何やってんの?」
「何って、写真撮ってるんだよ?」
「写真ねぇ…」
「優くんは写真撮らないの?」
「ああ。俺別にそういうのにあんま興味ないんだよな」
「興味ないとかじゃないでしょ」
七海は写真の素晴らしさについて解説をし始めた。
「写真を撮るとね、いつか見返した時にこんなことをあったなって思い出せるんだよ?それに自分の思い出を他の人に自慢することだってできちゃうし」
「なるほどねぇ…」
七海の熱の入った解説に押され、優はあまり腑に落ちない表情でスマホを取り出した。
「ん〜…どう撮るのが正解なんだ…?」
「んーとね…もうちょっと光を入れる感じで…」
七海はバッチリ身体をくっつけて手取り足取り教えてくる。
流石にこのままではマズイと思い、七海に離れるように言うと、七海はニヤニヤとした表情で口を耳元に近づけてきた。
「(別にいいでしょ?恋人なんだし♡私、これからもどんどんアピールするつもりだから、こんなのでへばってちゃいつか死んじゃうかもよ?)」
耳元でなかなかにエグいことを言われ、つい距離をとってしまう。
そうすると七海は嬉しそうに笑い、桜よりも綺麗な表情で語りかけてきた。
「ふふっ、優くん可愛い♡好き♡」
「……っ⁉︎」
なんか、いつもの七海と違う。
いつもならもっと恥ずかしそうに言う言葉も、今は嬉しそうに話している。
これが恋人マジック(?)というやつかっ!!
「な、七海…流石に公共の場でそういうのは…」
「ふふふ、恥ずかしがっちゃって。可愛い♡」
何だこのクソ可愛い小悪魔!
このまま一生いじめてくr(殴
じゃなくて。
このままではこれからも七海に主導権を握られかねない。
そんなことになれば、もうすんごい大変なことになってしまう。
なのでそれを阻止するべく、今すぐ行動に出る。
「七海、写真撮るか」
「え?う、うん。そういう話だったよね」
「ああ。じゃあ、近づいてくれ」
「え?」
七海は何のことかわからず疑問符を頭の上に浮かべる。
「ああ、教えて欲しいってこと?」
「いいや、ちがうけど」
「???」
七海の疑問は深まり、とうとう首を傾げた。
だが主導権を握りたい優はそんなこと無視して七海の肩を少し強引に引き寄せた。
「きゃっ⁉︎」
「んーと、こんな感じか?」
「え、えと…一体何を…?」
「ん?そりゃもちろん、ツーショットを撮ろうかと」
「ツー…ショット…?」
「ああ。折角2人で来たんだし、記念に撮っておきたいと思って。それに、これが初デートだし」
「…っ…」
七海は先程の小悪魔的な表情から豹変し、可愛らしい女の子の表情になった。
「流石の俺でも、初デートの記録ぐらいあったほうが嬉しいしな。七海もそう思うだろ?」
「え?う、うん…」
七海は優の押しに完全に負け、主導権は優の物になった。
(よしっ!これならいけるっ!)
優は少し得意げになりながらスマホを自分の正面斜め上に配置し、表情を整えてからシャッターを押した。
「お、いい感じだな」
「優くん…強引だね…」
「えっ⁉︎あ、いやこれは…」
「まぁ、別にいいんだけどね。優くんが積極的に来てくれると私も嬉しいし。でも強引なのはたまにだけにしてね…?強引なのも私は好きだけど…身体が耐え切れるかわからないから…」
あーもう、何がどうなってんの?
優はまたしても七海のエグい発言に振り回され、次第に弁明する気も起きなくなったとさ。




