176 暑いはずがないんだが
「もうっ…無茶しすぎだよ」
「ゔう…ごめん…」
あの後男2人をボコボコにし、優は七海を連れて少し離れたところまで逃げてきた。
「それにしても、あの人達大丈夫かな?もうすぐ息を引き取っちゃうんじゃない?」
「いや流石にそこまでボコしてないわ」
「ふふ、優くんが凄すぎてよく見てなかった…♡」
「……」
七海から何か含みのある視線を向けられ、優の心臓は大きく跳ねる。
(なんだその目ッ…⁉︎てか、普通にどういう感情なん?)
さっきまであんなに怖そうな表情してたのに。
いや、表情にはあまり出ていなかったか。
他人の前ではあまり感情を表に出さないタイプだからなぁ。
でも優には七海が怯えているように見えた。
それが小さい頃からの絆なのか、はたまたただの恋心なのか。
それは本人にすら分からないことだ。
優はそういった疑問を抱えながら近くのベンチに腰を下ろした。
「ったく…七海さん、ちょっとモテすぎじゃありませんか?」
「そうかな?」
いやそうだろ。
七海本人は気づいていないだろうけど、毎回外を歩くたびに視線を向けられている。
それもかなり邪なもの。
その視線を感じるたびにこちらが威嚇しているだなんて、知る由もないだろうな。
(そろそろ自覚してくれ…)
七海は誰がどう見たって間違いなく絶世の美少女だ。
雪よりも白いサラサラな髪に、日本人離れした圧倒的な顔立ち、そしてモデル顔負けのスリムな身体つき。
そして出るとこは出てるゔ__⁉︎
「今、変なこと考えてたでしょ」
「え…⁉︎」
なぜかバレてしまった。
うーん、なんでだろうか。
よく分からないが、顔が滅茶苦茶熱い。
そして七海も顔が熱そうになっている。
「もう…えっちなんだから…」
「いや!!ホントに違うんだって__!!」
「(まぁ…君にならそういう目で見られても…いいんだけど…)」
「クッ__⁉︎」
ヤバいヤバいヤバい。
今そういうこと言われたらまた脳が爆発しそうになる。
しかも小声で呟いているあたりが、本当の感情であることを表していて__
(クソッ…⁉︎どうすればいいんだ⁉︎)
優はパンク覚悟で本気で脳を回転させる。
そして10秒の長考の末、導き出されたのは…
(よし、一旦冷却機能作動させるか)
とりあえずパンクしかけの脳を冷静にさせる作戦だった。
優は大きく深呼吸をし、少しずつ脳を冷やしていく。
(よし…冷静になってきた)
優は自分が冷静になったことを自覚してきたあたりから七海の方に視線を向けた。
「〜〜〜〜っ!!」
案の定、七海はまだ悶えていた。
それを見て、冷静な優はこう思った。
(可愛い)と。
そして冷静な優はさらに思考を回転させた。
(七海が俺のことでこんなに全身を赤くして悶えている…っ!!可愛すぎるっ⁉︎てかこれ絶対これのこと好きじゃん!!そうだよね!!いやそうであってくれ!!)
あれ、また脳が熱くなってきた。
冷却機能が仕事をサボり始め、優は再び暴走を始めそうになる。
「優…くん…」
だがそこで七海が寄りかかってきて、優の暴走は寸前で阻止される。
「ど、どした…?」
「ちょっと…暑いね…」
「そうだなぁ…ははは…」
現在は3月なので暑いと言うのには早すぎる季節たわが、2人は真夏にいるのかと錯覚するぐらい体温が高くなっていた。
そんな2人が、冷静な判断ができるはずもなく…
「(優くん、カッコよかったなぁ…)」
「(七海、可愛すぎだろ…)」
2人は互いに告白まがいな言葉を何度もつぶやくが、結局気づくことはなかった。
……………
いや今日に限らずいつも告白まがいなこと言ってね????




