155 旅立ち
カーテンの間から入ってくる太陽の光で、優は目を覚ました。
「おはようございます」
目の前には有咲の綺麗な顔があり、その顔がニコニコと笑いながら挨拶をしてくる。
いつも通りの有咲だ。
そのことに優は安堵し、軽く笑顔を作って挨拶をする。
「おはよう…って、どした」
優が挨拶を返した瞬間に有咲の両手が優の背中に回り、ギュッと抱きついてきた。
「ふふ、お兄さんを充電中です」
「何だよそれ」
相変わらず意味不明なことを言ってから妹に安心感を覚えながら、優も両手を背中に回す。
「お兄さん、あったかいです」
「そうか?有咲も結構あったかいけどな」
「そうなのですか…?ちょっと、恥ずかしいです…」
えへへ…といった表情を浮かべながら有咲は優の胸に顔を埋める。
そして数秒間思い切りギュッと抱きしめた後、有咲は布団を上げてベッドから降りた。
「朝ごはん、食べに行きましょうか」
「…そうだな」
優はいつものような笑顔でエスコートしてくれる有咲に着いて行く。
「おはよー」
「おはようございます」
リビングに入り、食事の支度をしている奈々
と、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいる優希に挨拶をする。
「おはよう」
「おはよ〜2人とも。ご飯できてるわよ〜」
そう言いながら2人は目を合わせ、安心したように笑顔を浮かべた。
恐らく有咲がいつものように振る舞っていて安心したのだろう。
まあ昨日の状況を考えると無理もないが。
優は2人からの視線を肌に感じながら席に座った。
それからいつも通りに食事をし、いつも通りに学校に行く支度をした。
その様子を見て、奈々はホッとしたように胸を撫で下ろした。
「よかったわ〜…。2人ともいつも通りで」
「だな。なんか拍子抜けだな」
「何言ってるの。嬉しいことじゃない〜」
「ははっ、間違いない」
2人はクスッと微笑み、優と有咲を見送る。
「「いってきます」」
2人は新たに旅立つかのような顔立ちで両親に挨拶をする。
それを優希と奈々も察して遠くに行ってしまう子供を見送るように手を振る。
「「いってらっしゃい」」
2人はドアを開けて眩しい太陽の方に姿を消していった。
「行ってしまったな」
「そうね。成長してくれて嬉しいけど、やっぱり少し寂しいわね」
「そうだな。でも、これでお別れじゃない。2人は、いつまでも俺たちの子供なんだから」
「そう、ね…。そうよね」
奈々はモヤモヤとした心を拭い去り、新たな心境で顔を上げる。
「私たちは、成長する子供達を応援しないとねっ」
「だな」
奈々は小さく笑いながら優希の顔を見る。
「私たちも負けてられないわねっ!」
「えっ???」
奈々の謎の発言に優希は頭の上に疑問符を浮かべる。
「何に…?」
「私たちも負けずにラブラブしましょうって話!!」
「いやいやいや!さっきまでそんな話してた⁉︎」
いつまでも変わらないな、この人は。
俺はこの明るさに何度も助けられた。
願わくば、優もそうあってほしい。
…きっと大丈夫か。
七海ちゃんなら、きっと優を支えてくれる。
だから…七海ちゃん…優と…
「結婚してくれ」
「えっ…えぇぇぇぇ〜〜〜っ!!」
「あれっ⁉︎声に出てっ__」
「も、もぅ…私たちはもう結婚してるでしょ…?ま、まぁ…確かに負けないようにとは言ったけど…うぅ…」
「いやちがくて!これはその__」
「はい…。よろしくお願い…します…」
「話を聞いてくれ……」
謎にプロポーズに成功し、そのまま少しだけイチャイチャしたり。
そして仕事に遅刻したのは言うまでもない。
今はとにかく、家族全員の新しい旅にエールを送ろう。




