153 想定外の反応だったんだが
あれから食事などで有咲と会うことはあったのだが、何を話せばいいのか分からず全く話せずにいる。
だが有咲の考えていることは、何となくわかっていた。
有咲はおそらく遠慮しているのだ。
これから優と七海が恋人になった時に、自分がいつまでも兄離れしないようでは邪魔になってしまうと考えているのだろう。
これは有咲の親切心でありケジメでもあるのだろう。
だがそれを考えている時の有咲の顔は、それはひどいもので。
今にも食べた物を戻してしまうのではないかと思うぐらいに、青ざめた顔をしていた。
そんな有咲のことを両親も心配していたが、結局有咲の心が垣間見えることはなく、現在は部屋に入ったきり物音すら聞こえて来ずにいる。
「どうすっかねぇ…」
「う〜ん…。かなり深刻な問題になりそうね〜…」
「ちなみに父さんはどうしてたんだ?」
優希には妹がいて、この人もかなりのブラコンだったと奈々から聞いたことがある。
優希も奈々との恋を打ち明けた時に同じような展開になったのではないかと思い、参考までに訊いてみると、優希は思い出すように目を瞑った。
「確か…わがままをいっぱい聞いてやってたな」
「ほぉ」
「いや、聞いてやってたと言うより、自分から言い出していたというか。妹がして欲しがっていたことをとことんしてやってたな」
「なるほど」
確かにそれは効果的かもしれない。
だがそれは一歩間違えれば怒らせてしまう可能性のある、いわば劇薬のようなもの。
優は何をしてやれるかを真剣に吟味する。
(有咲がして欲しがってて、今すぐにできそうで、さらに心に寄り添えそうなものは…)
「添い寝、とか」
「お〜いいんじゃない?」
「ああ、十分ありだと思う」
咄嗟に思いついた言葉に思いの外親が賛成してくれ、早速実行することを心に決める。
(よしっ!)
早速有咲の部屋に向かい、ドアをノックする。
「…どうぞ」
いつもより小さくて細い声に、優の緊張は高まる。
だがもう心は決めた。
止まる理由は、ない。
優はドアを開け、足を進めた。
有咲は椅子に座ってじっと外を眺めていて、まるで感慨に浸っているように見えた。
「…どうしたんですか?」
「いや、その…今日さ、一緒に…寝ないか…?」
緊張のせいか、うまく羅列が回らない。
外が寒いこともあってか、優の身体は少し震えていた。
だが有咲はそうではなかった。
目を輝かせながらこちらを向き、勢いよく手を握__
「いいんですか!!嬉しいです!!」
「え⁉︎あ、ああ…そうか」
あれ、全然いつも通りじゃん。
控えめに「いいですよ…」みたいな感じで来ると思ってたのに、まさかこんなに元気そうに来るとは。
完全に意表をつかれ、優の脳内は完全に混乱していた。
(あへ?これは…さっきの話なんて気にしてませんってことなのか?そうなの?そうであってくれ!!)
明後日の方向を向いて呆気に取られた様子の優に反して、有咲はキャッキャと飛び跳ねながら喜んでいる。
「さ!早くベッドにどうぞ!」
「え?あ、ああ…」
一瞬でベッドメイクをし、布団を半分上げて誘導される。
優は有咲に流されるままにベッドに入り、暖かい布団を被った。
直後に有咲も隣に来て嬉しそうに目を合わせてきた。
「ふふ…お兄さんから誘ってくれるなんて。嬉しいですっ」
「そっか。ならよかったよ」
「でも、どうして急に?」
「それは…」
本当のことを言うべきか迷うが、結局言わないことにした。
「別に何もないけど、たまにはこういうのもいいかなって思って」
「そうですか」
多分有咲は気づいている。
だがそれを頑張って隠している。
優はそのことに気づいていながらも、黙って有咲のそばにいた。




