133 消えてしまいたい
私の幼少期は、ほとんどがベッドで過ごした記憶しかない。
病気にかかり、治ったと思えばまた新しい病気にかかる。
そんな毎日を送っていた記憶がある。
私にとって、それはただの地獄だった。
痛くて苦しいのもそうだけど、何よりお母さんのあの申し訳なさそうな顔を見ると、とても心が苦しくなる。
私なんて、産まれるべきじゃなかった。
そう思うこともあった。
ある日、私はお兄さんに訊いてみた。
「どうして私になんて構うのですか?私なんて、ずっと寝たきりで、面白くもない子ですよ?私なんて、産まれてこなければよかった子なんですよ?」
そんな直球かつ意味不明な質問に、お兄さんは笑いながら答えてくれた。
「はははっ、産まれてこなかったらよかったって?そんなことあるわけないでしょ。現に僕は有咲が妹でよかったって思ってるし」
お兄さんは私を半ば慰めるような形で言葉を綴ってくる。
「だから、そんなこと言わないで。有咲は、僕の中で1番の人だから」
お兄さんは何の恥ずかしげもなくその言葉を発する。
「僕は、有咲を愛しているんだ。有咲に構う理由は、それだけじゃダメかな?」
お兄さんの言葉を聞いてから、私の世界は一変した。
暗い霧がかかった心の世界は、美しい太陽が照らす大地と化した。
それからは、毎日が楽しかったような気がする。
毎日愛しのお兄さんと一緒にいて、とても幸せだった。
その影響か、病弱な体質も少しずつ治っていき、高校生になる頃にはお医者さんにほとんど普通の子と同じぐらいになったと言われた。
その時は、嬉しくて飛び跳ねてしまいそうだった。
実際に部屋で飛び回ったのは、絶対に内緒です。
それは一旦置いておいて。
私は高校に入ると今まで以上にお兄さんと愛し合えるのだと、そう思っていた。
でも、その時にその少女は現れた。
彼女は全ての人を魅了した。
それはお兄さんも例外ではなく、段々私のもとから離れ、あちらの方に行ってしまうことが多くなった。
私は寂しかった。
世界一愛しているも同然の兄に、構ってもらえる機会が少なくなって。
でも、それは仕方ない。
お兄さんも年頃の男性なのだから、可愛い人にメロメロになるのは当然のこと。
だから、少しの構ってもらえる時間を濃い時間にしようと、必死に頑張った。
お兄さんは思いの外素直に応えてくれた。
お兄さんも、まだ私を愛してくれているのだと、安堵していた。
でもそんな矢先に、私は急に高熱を発症した。
この感覚は、あの頃と全く同じ。
またあの頃のように、寝たきりの生活を送るのかと思うと、心臓のバクバクが収まらなくなり、さらに辛くなった。
そんな時に、お兄さんが来てくれた。
とても嬉しかったけど、それよりも苦しさの方が優っていた。
でもお兄さんに苦しんでいるところを見せると絶対に余計なお世話をかけてしまうと思い、必死に笑顔を作った。
でもその作り笑いは見破られていて、お兄さんは自分に絶望したかのような表情をしていた。
私は罪悪感で押しつぶされそうだった。
私のせいでお兄さんの心を苦しめている事実が、とても辛くて、今にも消えてしまいたいと思った。
私は、やはり産まれてこなければよかったのだろうか。
私は、このまま消えてしまった方が、みんなは幸せになるのだろうか。
ああ、神様。
今すぐ、私をこの世から消していただけませんか。
私の愛する人たちを、苦しめないために。




