6-17. 到着
目が覚めた。
テントの中には陽の光が透けて入り、明るい。
王都を出て10日目の朝。
徒歩10日のテイラーへの歩き旅も今日でお終いだ。
あぁ、遂にこの日が来た。長かったな……。
そんな事を思いつつ、テントを出るとそこにはシン、コース、ダンが。
彼らは既に起きていたようだな。朝が早くて宜しいね。
「あ、先生! おはよー!」
「先生、おはようございます」
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
朝食はとりあえず缶詰だ。
缶詰を各々リュックから取り出す。
途中の町・ファクトで買ったプレーリーチキンの焼鳥風、中々美味しいんだよね。
僕の中では結構お気に入りだ。
だが、ただ缶を開けて食べるだけじゃ甘い。
缶詰を焚火の近くに置いて、少し温めればさらに美味しくなるのだ!
もう焚火最高だ。
そんな訳で朝食を食べ終わり、各々テントを片付ける。
そういえば今回でテントの出し入れも6回目だ。
設置・収納方法も完全にマスターしたし、学生達の手助けも必要なくなった。
だいぶ慣れて来たな。
焚火の処理もして、ゴミが無いか確認して、準備完了。
「よし、それじゃあ……」
「「「「出発!」」」」
草原の上を真っ直ぐに伸びる街道を歩く。
草原の起伏は昨日の昼過ぎから起伏が段々と無くなっていき、今は真っ平らだ。
木も殆ど生えず、視界は遠くまでスッキリ。
草の丈も膝程のボウボウから脛程まで短くなり、風になびくと風景画のような美しさを感じる。
こんな場所が日本にもあれば絶対行くのにな。
そんな街道を歩いているのだが、段々とテイラーに近づくにつれてすれ違う人が増えて来た。
馬車は品物を沢山積み、車輪をガタガタいわせながらすれ違って行く。
王都や途中の町村で商品を売って行くんだろう。
……そういえば、風の街・テイラーの名産品とかってあるのかな? お土産みたいな何かがあるんなら、是非王都に買って帰りたいものだ。
オバちゃんとかマッチョ兄さんとか、結構お世話になったからな。
時々、乗合馬車も走って行く。
屋根と柵をつけ、ベンチを並べ、雨対策に幌を用意してあるだけの馬車だ。
馬車に乗っている人は、見た感じ冒険者というよりは普通の町人や村人といった感じだな。
中には子連れの親子や家族らしき組も見られる。
日本でいう、遠距離バスみたいなものなんだろう。
電車とか新幹線とかの無い世界では、街と街を繋ぐ貴重な脚となっているんだろうな。
あぁ、そういえばうちの同級生の轟くんって確か『輸客商人』の職だったよな。輸客って言葉は聞いた事ないけど、言葉の意味からして多分こういう商売なんだろう。
すれ違う乗合馬車を眺めつつそんな事を考えていると、シンが移動方法について解説してくれた。
こういう街と街の移動については、非冒険者は乗合馬車を使い、冒険者はそれに加えて僕達のように徒歩で強行したり、ギルドの『依頼カウンター』で護衛依頼を受けたりする手があるらしい。
護衛依頼は、『一緒に馬車に乗せてあげるけど、その代わりに魔物の襲撃時には私達や物品の安全を守り抜いてね』って感じのようだ。
つまり保険だな。
まぁ、護衛依頼は冒険者の街間の移動ついでに受ける事を想定しているので、報酬の相場は結構安いらしい。
報酬は安くとも、冒険者側からの不満は一切無いようだ。まぁ、『馬車に乗せてくれる上にお金も貰え、魔物が出たら狩ればいいだけ』なんて良い待遇はそうそう無いからな。
但し、魔物の襲撃があった時には依頼者から感謝の意を込めたチップもあるようだ。
魔物が沢山出る時期には、こっちの方が本収入となるケースもあったりするんだって。
ちなみに、すれ違うのは馬車だけではない。
僕達みたく徒歩で王都へと向かうであろう、冒険者のグループも居る。
テントセットを入れた大きな荷物を背負って、談笑しつつ歩いている。
まるで修学旅行中のグループみたいだな。
……だが、残念ながらその元気もいつまで続くかな。
徒歩10日の道のり、僕達は終盤だいぶ無言だったからな。
疲れが溜まって喋る元気も無くなるのだよ。
……まぁ、そんな事は置いといて。
人が見え始めたのは、街道上だけではない。
街道を外れた草原でも、魔物を狩る冒険者がちらほらと現れ始めたな。
風の街・テイラーも草原に囲まれているので、周辺で狩りをするなら獲物はディグラット、プレーリーチキン、そしてカーキウルフのようだ。
ただ、どの魔物も王都よりは全体的に強さが少し上のようなので、王都周辺の狩りに慣れて来た冒険者はここで稼いだりするようだ。
「あぁ……ドンパチやってる所を見てると、俺も狩りたくなっちまうな」
「分かります。ここ何日も狩りをしていませんからね」
「いやいや、ダンもシンもウルフに襲われた時、あんなに狩ってたじゃんか」
「「あんなの狩りに入らねえよ」」
えぇ……
2人に怒られました。ごめんなさい。
でも街道でカーキウルフの群勢に襲われた時、滅茶苦茶やってたよね?
倒しきった時、めっちゃスッキリな顔してたよね?
「でも狩るならやっぱり、私たちが魔物を追っかけ回して倒すのがいいよねー」
「「そうだな」」
あー、なるほどね。
防衛戦じゃ『狩り』の内に入らないと。自分たちが捕食者になって魔物を倒して回らなければダメだと。
まぁその気持ちは非戦闘職といえど分からなくもない。どうぞご自由に狩りをお楽しみ下さいって感じだが、怪我だけはしないでな。
「おっ、あれ何だろう? シン見えるか?」
そんな感じで暫く西街道を歩いて行くと、かなり遠くに何かがあるのを発見。
建物、だな。 ただ、何の建物かはテレビやスマホに曝された現代日本人の視力じゃ捉えられない。
「あぁ、見えてきましたね。あそこが私達の目的地、テイラーです」
「で、あの建物こそが、テイラーを『風の街』と言わしめる所以のモノだな」
お、遂にゴールが見えてきた。
一体、この旅の間にどれだけ心が折れた事か。
割と歩き旅は楽しかったので心が折れるような事は無かったけど。
でもその建物って何なんだろうか? 『風の街』の所以か……。んー、この疲れた脳みそじゃ考え付かない。
「もっと近づいてからのお楽しみだよー!」
成程ね。
そう言われると更に気になるんだが、まぁ歩いて行けばいずれその正体が分かる。
本当は待つのが面倒なんでさっさと教えて欲しい所なんだが、僕は先生だ。彼らよりも大人なのだ。
気長に待ってやろうじゃないの。
テイラーに近づいて行くにつれて、例の『塔らしき何か』の数が増え、同じ物が幾つも建っている事が分かる。
そして『塔らしき何か』自体も段々と明らかになってきた。
それは、草原の中にずっしりと佇み。
それは、大きな羽根を持ち。
それは、草原に吹く風を受け。
それは、ゆっくりと羽根を回し続ける。
そう。
テイラーを風の街と言わしめる例の建物は、『風車』だ。
風そよぐ緑鮮やかな大草原の中に幾基も佇む大きな風車。
それぞれが草原に吹く風を受けて羽根を回している。
地球にもこんな所があったと思うが、そんなのは比にならないスケールだ。
そういえばヨーロッパだかどこかにあったよな、こういう風車で有名な国。世界史の教科書に『湿地に風車が並ぶ風景の写真』でよく見るヤツだ。
デンマーク? オランダ? スペイン? 残念ながらそこまでは覚えていない。飽くまで僕にとって世界史の教科書は海外旅行の雑誌だったからな。
いやぁ、近づいて見ると見ると壮観だ。
なんだか感動するな、この風景。
異世界に来た、って感じがするよ。
さてと。
王都の東草原で【乗法術Ⅰ】と【除法術Ⅰ】で無双していたらギルド長に招待され、『迷宮』という言葉に誘われて気付けば徒歩10日という中々ハードな旅に赴いていた。
現在の服装は麻の服に白のロングコート。
重要物は[数学の参考書]。
職は数学者。
目的は魔王の討伐なんだが、まずは勇者養成迷宮合宿だ。
準備は整った。さぁ、合宿でもっともっと鍛えますか!




