24-14. ちかん
「なぁ、シン」
「何ですか?」
「そのミミズクさん……お名前は?」
そうそう、まだお名前を伺ってなかったと思ってさ。折角シンを通して知り合いになった訳だし、ずっと『ミミズクさん』って呼ぶのも距離を置いているみたいじゃんか。
なんてお呼びすればいいかな。
「はぁ、名前……そういえば聞いてませんでした」
「「「「えっ?」」」」
名前……聞いてない?
じゃ、じゃあシンもずっと『ミミズクさん』って呼んでたの?
「はい」
「ずっと『ミミズクさん』って?」
「はい」
「「「「……」」」」
……ミミズクさん、なんと可哀そうに。
こうなったら今が絶好のチャンス。知り合いになったこの機に名前をお伺いしよう。
「なぁミミズクさん、お名前は?」
「やだ。おまえ、おしえない」
「……僕? ダメ?」
「かってにさわる。ちかん。しねよ」
ちかん……痴漢って。
完全にさっきのを根に持たれてるじゃんか。
「すみませんでした! 許してください!」
「むり。しねよ」
「……」
ダメだ。心を閉ざされてしまった。僕は最悪の第一印象を刻んでしまったようです。
……こうなったらシン、君に任せた。
「ミミズクさん。教えて頂いてもいいですか?」
「しかたない」
「ありがとうございます! ……では、お名前は?」
「なまえ。ない」
「「「「ない……」」」」
まさかの『名前はまだ無い』。
バトンタッチして態度がガラリと変わったはいいものの、まさかのオチだった。
「え、お名前無いんですか?! フーリエの森の主でもあるのに」
「ない。いらない」
「そうですか……。となると、私達は何とお呼びすれば?」
「かってによべ」
「「「「かっ……」」」」
勝手に呼べって……逆に困るヤツ。
「先生、どうしましょう。私達がミミズクさんの呼び方を決めるか、もしくは……『ミミズクさん』でいくか」
「嫌だよそんな味気ないの。僕達で名前を決めてあげよう」
「ですね。分かりました」
という事で。
作戦会議室CalcuLegaでは、引き続きミミズクさんの命名会を開催。
新たに知り合いになったミミズクさん、そしてフーリエの森を治めるミミズクさん。そんな彼(彼女?)にふさわしい名前を皆で考えることにした。
「「「「「…………」」」」」
「……」
シンの肩から会議机の真ん中に飛び移ったミミズクさん。
その机を囲む僕達が、周囲至る所からじっくりとミミズクさんを見つめる。
「「「「「…………」」」」」
「じっとみんな。はずかしい」
「仕方ないじゃないですか。これも皆さん、あなたにお似合いの名前のためですから」
「……はやくしろ」
表情も姿勢もピクリとすら変えないものの、どうやら心の中では落ち着きならないご様子。
一種のギャップ、ってヤツか。
「あー! ミミズクさん照れてるー!」
「わんわん!」
「だまれ。しねよ」
「かーわいー!」
コースとチェバの煽りにミミズクさんの辛辣な切り返し。
……しかし彼女達には効果が無いようだ。
「あの羽毛……ふかふかで気持ち良さそう」
「さわんな」
アークはミミズクさんを眺めつつ、両手を前に出して何かを掴む仕草。何か悪いことを想像しているに違いない。
……やめとけ。アークもちかん呼ばわりされちゃうよ?
「……モフモフしたい」
「しねよ」
「死んでもモフモフさせてもらう!」
いつも通りだった。
ミミズクさんも同様に辛辣な切り返し。アークの夢が叶う時は果たして来るのでしょうか。
……って、いかんいかん。人のことを観察している場合じゃない。
まずはミミズクさんのお名前を考えなくちゃ。
「…………んー」
ちょっと唸りつつ、ミミズクさんの全身を視界に収める。
全体的に焦げ茶、羽先に向かって黒くなる美しいグラデーションの羽毛。
ピンと伸びた羽角。
華奢ながらもガッシリと全身を支える、茶色の脚。
先が鉤状に尖った、黒の嘴。
そして鷹や鷲をも思わせる、猛禽類らしさを誇る橙色の瞳。
美しさと勇ましさを兼ね備えた、ミミズクさん。
「んー」
「……なんだよ。ちかん」
見た目や特徴、イメージから名前のアイデアを捏ねる。
「……うん」
コレか。コレがしっくりくる。
相変わらずこういうのにはナンセンスな僕だけど、これは流石に悪くはないだろう。
こうして皆でじっくり考えること、十数分。
灯台仲間のシンがこの場を取りまとめ、命名会の本番が始まった。
「それでは皆さん。ミミズクさんに相応しい、素敵なお名前をつけてあげましょう。……ではまず、最初のアイデアがある方は?」
「はいはーい!」
「わん!」
手を挙げたのはコースとチェバ。
相変わらずの良い勢いで先陣を切った。
「おお。コース、最初お願いします」
「私が考えたのはー、『イーグルちゃん』!」
「「「「イーグルちゃん……」」」」
まさかの鷲。
猛禽類違い。
「どーお?」
「ほぉ……イーグルですか」
「そー! かわいさとカッコよさのダブルなの!」
彼女なりには真剣に考えたようだが……少し惜しかった。
「ですがコース、イーグルは鷲なんですよ」
「じゃあ『バーディー』で!」
なんかさっきより離れた。
「ねーねーミミズクさん、『イーグルちゃん』はどうー?」
「むり。しねよ」
「えー! ……それなら『バーディーちゃん』は?」
「しねよ」
「えー!」
直談判も結果は一蹴。
コース、残念でした。
「では次。ダン、何か良いアイデアありますか?」
「んー、俺か。俺は……ピヨちゃん」
「しねよ」
「こうなったらアーク、何か名案は……?」
「ごめんね。結局思いつかなかったの」
「えっ!?」
「可愛いな、って思ってボーっと眺めてたら……一瞬で時間が過ぎちゃって」
どういうこと?
こうなると、残るは3名……シン、僕、そして伏兵のククさんのみだ。
シンの視線がククさんを捉える。
「ククさん、お願いします」
「うむ。……貴殿の勇敢なる様相、および苛烈なる口撃を以って――――命名。シゲキ」
「まじしねよ」
「が……ッ!?」
ククさん、少し強めに蹴られてら。
割と真面目だったのにね。
マズい。気付いたらもう残り2人だ。
このままだとミミズクさんの呼び名が『ミミズクさん』になってしまう。そんな悲しい結末は避けなければ。
「……残すは私と先生だけですか」
「だな。こうなったら次は僕が――――
「いえ。私が先に行きます」
「えッ!? 嫌だよ僕最後とか!」
「私もです。先生、トリは任せました」
「嘘じゃんか……」
ここにきて立ち上がる司会者。特権発動だそうです。
……仕っ方ないなーもう、大トリは荷が重いんだけどなぁ。
「はい。ではシンの命名案、どうぞ」
「はい。私の案は――――ミミズクのミミちゃん」
「……ほんき?」
「ヒィィッ!」
うぉ。
突き刺すような視線にシンが貫かれた。
……けどまぁ、ミミちゃんは違うよね。
別の動物を想像しちゃうよ。
そして、ついに回ってきてしまいました。
僕の番が。
「……先生。頼みました」
「マジかー」
胸を押さえるシンに背中を押されてしまった。
こうなったら当たって砕けろの覚悟だ。
ミミズクさんの琴線に触れられる、最高のお名前を差し上げよう。
「んー……」
「……」
ミミズクさんと正対、ジッと見つめる。
……割と真剣に考えた末の名前だ。あっさり蹴り返されたらちょっと悲しいな。
「…………」
「はやくしろよ。ちかん」
うわぁごめんなさい。
早くします。
一度、大きく深呼吸。
全てを見透かすような橙色の瞳をジッと見て、命名案を告げた。
「シンや僕達と、よろしくお願いします。――――メネさん」
∋∋∋∋∋∋∋∋∋∋
――――メネさん。
橙色に輝くキレイな瞳、それがミミズクさんに対する僕の一番の印象だった。
獲物を狩る鋭さと、澄んだ美しさを兼ね備えた眼。『メ』っていう響きは、絶対に入れたいと思った。
そんな外見をベースに、フーリエの森の主という高潔さと、なんとも言えない不思議な口調と、そう簡単に他人を近寄らせない雰囲気と。
こんなミミズクさんの雰囲気をイメージした末に行き着いたのが……メネさん。
6割をその瞳から。
3割をその纏う雰囲気から。
残りの1割は大人の事情から。
それが、僕から彼女へのお名前だ。
⊥⊥⊥⊥⊥⊥⊥⊥⊥⊥
「…………」
頼む。一蹴されないでくれ。
祈りながら目を瞑って手を合わせる。
「めね……」
「…………」
ミミズクさんが呟く。
……いつもの暴言じゃない。
まさかまさか、僕の案を反芻している。
「めね……めね…………なまえ、めね」
「……っ」
何度も繰り返し呟くミミズクさん。
――――そして、彼女の意思は定まったようだ。
「やるな。ちかんのくせに」
「ミミズクさん……っ!」
「しねよ。"めね"ってよべ」
「……そうだったな」
僕が言ったのに失礼しました。
ともかく、コレで決まりのようだ。
「最高の名前じゃないですか! 先生!」
「おぅ。本人に気に入ってくれて何よりだよ」
とまぁ、こうして作戦会議室CalcuLegaに新たな僕達の仲間、その名もメネさんが生まれたのでした。
「うおおお! メネ! カッコいい名前じゃねえか!」
「それでいて可愛さも兼ね備えていて……おしゃれじゃない」
「チェバとメネ! お友達ふえたー!」
「メネさん、よろしくな」
「また灯台に行きましょう!」
「……しねよ」
そう呟くメネさんの無表情は、暴言に反して心なしか嬉しそうに見えた。




