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23-4. 縄Ⅰ

「まさか大臣が裏切り者とは、何かの間違いかとも思ったが……どうやら数原君を信じた私に間違いは無かったようだ」

「きっ、貴様ァ…………」


銀縁眼鏡をキラリと輝かせる神谷、それを真っ赤な顔で睨みつけるバリー。

キリキリと歯ぎしりが響いてやまない。



「さて。これで魔導カメラ映像と神谷の会話記録、それにお前の自供が揃ったワケだ。これでもまだ『白衣が大臣を監禁した』と虚言を振り撒くつもりか?」

「くぅッ……」


反論もできず、ただ俯いて黙り込むバリー。

……まぁ、それもそのハズだ。奴にとっちゃ神谷が現れた時点で既に手詰まり、僕を貶める方法が無くなっているからな。




例えばバリーが『白衣は大臣を飲まず食わず監禁した。白衣は蛮族だ』と暴露したとしよう。

すると僕達はすぐさま、対抗手段で会話記録を公開。6日間監禁した事実は認めることにはなる……けれども、同時に『私はスパイだ』というバリーの爆弾発言が白日の下に晒されるのだ。

しかもついでに『嘘だと思うならバリーが大臣室に魔導カメラを設置しているから見てみな』と書き添えておく。


さてこうなると、バリーはスパイ疑惑の火消しに走らなければならない。……が、残念ながらソレは不可能だ。

『この会話記録は嘘っぱちだ!』と突っ撥ねても、『じゃあ魔導カメラの様子を見せてみろ』と返される。しかし映像は絶対公開できない。会話記録に映像が揃ったら、スパイ自供の裏がとれてしまうから。


よって、バリーは会話記録を否定できず『私はスパイだ』の自供が確定する。

となればバリーが連れて行かれる先は……まぁ、ご想像の通りだろう。




「だからさ、バリー。もうお終いだ。――――お前が勝つための方程式に、もう解は無い」

「このッ……この若造共が……ッ!」


悔し紛れの強がりも、まるで響かなかった。











さて。これでバリーとの決着がついた。

証拠はバッチリ押さえたし、身体も縄でギチギチに縛りつけた。あとはこの部屋に王都騎士団を呼んで身柄を引き渡せば、第二軍団戦の清算がキッチリ終わる。



「うーん……けどなぁ」


が、僕の頭の中に何かモヤモヤっとした物が残っているんだよね。

何かまだもう一つ、()()()()があるような気がして……。



「やり残し? もう一通り片付いたと思うけど……」

「何か忘れ物でも有るのかい、数原君?」

「ああ。なんて言えば良いのかな。何か、こう――――


あ、そうだ。思い出した思い出した。

アレだ。





「ククさん。ナナン、クナン、サザン、サンク」

「「「「「ハッ!」」」」」


名前を呼べば、5頭がピンと背筋を伸ばして答える。



「食べ終わったな?」

「「「「ハッ!」」」」

「御馳走様である!」

「いえいえ。どういたしまして」


そんな彼らの口元は血で真っ赤に染まり、足元には綺麗にしゃぶられた骨がゴロゴロ。

僕達からのお土産、プレーリーチキンはしっかり味わってくれたようです。



「それじゃあ……食後の運動でもどう?」

「運動、であるか?」

「おぅ。運動」


突然の提案に戸惑うククさん達。

アークも神谷も話に追いついていない様子だが、構わず続ける。



「このおじさん、運動不足だから体を動かすのに付き合って欲しいんだってさ」

「えっ」


そんな事言ってないよと目を丸くするバリーを横目に見つつ……此奴らに()()()()()()()()()






「という訳で、ククさん――――いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……成程」




数刻前の出来事を思い出し、低く唸る狗共。

その金眼には怒りの炎がゴウゴウと再着火していた。



「良いのだな、勇者殿……否、御主人様?」

「あぁ。狗共もやられっぱなしは嫌だろ? 死なない程度に遊んで差し上げろ」

「承知」


自分でも引くくらいにニヤリと笑う。

立ち上がる5頭の狗、その視線の先には椅子に縄で縛られた()()()()()()



「ヒィッ……」


サンドバッグが何やら小さい悲鳴を上げたようだが、まぁ僕達には関係ない。

そんなサンドバッグを指差し、奴らを送り出した。




「それじゃあ、存分に――――やれ」

「「「「「ウォォオオオォォォン!!!」」」」」


さて。狗共のお楽しみタイムのはじまりだ。











「ウォォン!」

「グルルルゥ!!」

「グラアアァァ!」

「うああああああああ痛い痛い痛い痛い痛い!!」


椅子に磔けられたバリーの周囲を、入れ替わり立ち替わりグルグルと5頭が駆け回る。

プスリと浅く刺さり込む犬歯、シュッと皮膚を薄く切り込む鉤爪。


敢えて致命傷を避けながら全身くまなく与えられた傷は、まさに痛みを味わわせるためのもの。ククさん達の怒りを具現化したかのようだ。



「やっ……やめろオオオオぉぉぉぉオオオオ!!!」

「ハッハハハハハハ!! どうだバリー、これがコイツらをバカにした代償だ!」


全身の痛みに悲鳴を上げるバリー。

必死に堪える様子が滑稽でならない。



「どうだ貴様、今からでも我らを狗呼ばわりした謝罪をする気になったか?」

「…………いやッ、だね……!」

「まあ、今更謝られたとて到底許さんがな」

「ハハハ! だってさ、バリー!」

「うぐぐぐぐぐぐ……ッ!!!」


ククさんの煽りがクリティカルヒット。

牙と鉤爪の攻撃にも拍車が掛かる。




……が、まだまだ奴の心は折れないようで。



「この…………このっ、狗畜生共がぁッ……!!」

「やれやれ。まーだ言ってるよ」


これだけククさん達に全身痛めつけられてもなお刃向かうバリー。

どんだけ強靭なメンタルしてるんだコイツは。



「お前らだけじゃ、ないね…………白衣ィ!」

「おっと?」


絶え絶えになった息で叫び散らすバリー、今度は僕に狙いを定めたようだ。……めんどくさいなぁもう。

こういう犬畜生の遠吠えには無視が一番だ。



「お前も、此奴らと同じ狗畜生……いや、それ未満だね!」

「あーはいはい」

「お前など、何処ぞで野垂れ死ねばいいね!」

「あーはいはい」

「死んでそのまま、狗共の餌にでもなればいいねェ!!!」

「あー…………」


聞き流しを決め込もうと思ってたが、ちょっと最後のは聞き捨てならなかった。




ククさんへの暴言といい、僕への暴言といい――――まだまだお仕置きが足りないみたいだな。コイツ。

ちょっとシメるか。




「……なぁククさん、1つ質問」

「ハッ!」

「僕も混ざっていい?」

「無論である!」


了解を得た僕は、ククさん達の邪魔にならないようにバリーの背後へ回り込み。

腰に差していたナイフを抜き、両手で柄を握ると。



思いっきり振りかぶって奴の肩口に突き込んだ。






「……まずはお前の腕1本を狗の餌にしてやろうかァァ!!!」

「な――――

ザクッ!!!











「あっああああぁっああああああああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああああアアアアアアアアァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙アアアアアアアアア!!!」











大臣室にこだまする悲鳴。

ナイフはバリーの肩から腕へと深く突き刺さり、ドクドクと湧き出る血は腕を伝って絨毯に染み込む。




「なあ、誰が狗畜生未満だって? 誰がククさん達の餌だって? なあ?! なあアアハハハハハハハハハハ!!!」

「ううっうううああうあああああいひあああああアアアアアアアア!!!」


グジュグジュとナイフを捻じ込む。

噴水のようにブシュブシュと溢れる生温かい鮮血。羽織った白衣のそこかしこに赤い水玉模様をつくる。




「言えよ。ほら!」

ザグッ!

「うぎあああ熱あああああああ!!!」



声に合わせてナイフを抜き差し。

飛び散る血が大臣室に血の匂いを充満させる。




「ほら! ほらァ!! ほらァッッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

ザグッ!

ザグッ!!

ザグッ!!!

「あああぅッいいいいああああァァァッはがああああ痛あああがアアアアいああああああ!!!」


惜しげもなく血をドバドバと垂れ流す傷口。

ククさん達につけられた全身の傷を合計しても足りない激痛が、バリーの肩口を何度も一点集中した。






……そんな様子を眺めていた、神谷はというと。



「おお、数原君…………何とアブノーマルな……」


ドン引きしていた。

文字通りの呆然、開いた口が塞がらない。メガネに手を掛けたままカチコチに凍りついてしまった。



「……ケースケ。わたし、そういうの大好きだよ!!」


からのアークは――――まさかのノリノリ。

僕よりアブノーマルなんじゃない?




「いい、すっごくいいよ! その感じ!!」


キラキラと目を輝かせるアーク。

……ってか、アークの紅瞳、本当に光ってるじゃんか!!

ヤバい! 久し振りの激怒モードじゃんか!! ヤバいヤバい!!



「アーク怒んないで!」

「え? いやいや、それどころか最っ高よ!」



え、怒ってないの?

……まぁいいや。何かの見間違いかな。


それよりも今はバリーのお仕置きだ。






「……ほら、謝るまでやめないよ? 早く謝った方が楽になれるよ?」

「い、や、だ……」


再びチャンスをあげるも、頑なに拒むバリー。



「それなら――――ふんッ!」

ザク!!

「ぐぉあああああいゃあああああぁぁぁァアアアアアああああアアアアア!!!」


「まだまだァ!!」

ザック!!!

「うううええええああああああやっああああああああああああ!!!!」


「もう一丁!」

ザクッ!!!

「ひぎいいいいイイイイううううううゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――ゔっ」




その瞬間、一際苦し気な唸り声を残してバリーの頭がコクリと落ちた。

どうやら度重なる激痛と急減するHPに脳が耐え切れなかったようだ。


さて、こんな時は……。



「じゃーん!」


セルフ効果音と共に胸ポケットから取り出したのは、緑色の液体の入った瓶。HPポーションだ。

これをバリーの口に流し込んでゴックン。速攻でHPが回復し、シュワワワと肩口の傷も修復していく。




【恒等Ⅱ】(アイデンティティ)

「…………へっ?」


そして状態異常の無効化魔法でバリーを叩き起こす。『気絶』の解除も【恒等Ⅱ】(アイデンティティ)に掛かればお手のものなのだ。

……なになに、【演算魔法】の悪用だって? 知らんね。


マイナスのマイナスがプラスであるように、悪に悪用したらソレは正義なのだ。……多分。




「おかえりー!!」

ザクッ!!!

「あぁっああああっああああああああああぁぁぁっぁあああぁっぁああアアアアアいいいやめええでええええぇえああああああああアアアアアアアアアああああ!!!」


そして寝起き一番のナイフ突き込み。

すっかり回復して傷痕が消えた肩にも、再び同じ傷口が再登場。



大臣室に響き渡る元気な絶叫とともに、バリーへのお仕置き2巡目が始まったのでした。
















「……ふぅ、もうそろそろ良いだろ」

「「「「「ハァ……ハァ……」」」」」



こうして、狂ったように数度のお仕置きを続けた僕達。流石にお仕置きする側にも疲労がたまり、手が止まった。

ククさん達も荒い呼吸を繰り返している。




「さて、反省したかな?」

「ああ……あ……」


バリーの表情を見てみると、かなり憔悴しているご様子。たったの10分で10歳も年とったかのようなやつれ具合だ。

ククさん達の顔も、なんだかスッキリと満足気だった。『狗畜生』呼ばわりの件も十分にお返しできたみたいだし、これにてお仕置きタイムは終了だ。



話を戻すことにした。



「さて、バリー。……お前は僕達を陥れようとしていたが、残念ながら勝ち目は無い。僕達の勝ち、このまま牢獄送りだ」

「……そう、だね…………」



椅子にもたれかかり、俯いたままボソボソと呟くバリー。




「牢獄で尋問なり拷問なり受けてくるんだな。……第二軍団の指揮官・爺やと同様に」

「…………仕方ない、ねぇ……」


小さく頷いたのを見届け、振り返って神谷と今後の流れを確認する。




「それじゃあ神谷。あとはコイツを王都騎士団に引き渡せばいいんだよな?」

「ああ。あとは私の先輩方が処理してくれるだろう」

「オッケー。それじゃ」


そして、再びバリーの方に向き直ると――――











「……あれ、バリーは!?」


僅かに眼を離していた、その隙に。

今まで6日間磔となっていた椅子には……奴の体温と、()()()()()()()()()()()だけとなり。






「狗畜生共め! 貴様らのお陰で……私に、最後のチャンスが巡ってきたんだね!」

「しまったッ!!!」


開け放たれたガラス窓のサッシに、全身傷だらけのバリーが脚を掛けていた。

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『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

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ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
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