23-14. 原点
翌朝。
受勲式本番まであと4日。
僕達5人は王城の食堂に集まり、おいしい朝食を頂いていた。
「「「「「いただきまーす!」」」」」
今朝のメニューは食パンにサラダにたまごスープ、メインのチキンソテー、そしてヨーグルトまで。
朝から中々オシャレな洋食だ。
「んーッ! おいしー!」
「やっぱ肉に限るぞっ!」
「サラダも瑞々しいです!」
食べ盛り真っ最中のシン達、料理がみるみる減っていく。
「チェバもいっぱい食べてね!」
「わんっ!」
コースの足下にはチェバ、お皿に盛られたチキンソテーをガツガツ頬張っている。
彼らは今日も元気モリモリです。
「……このスープおいしい。身体が温まるわ」
そんな彼らに対し、優雅にたまごスープを啜るうちのお嬢様。
……さすがはテイラー家のご息女、育ちの良さが垣間見える瞬間だった。
「……どうしたのケースケ。そんなジッと見て」
「あっ、いや。今日も皆いつも通りだなーって」
「ふぅーん。……それより、ケースケも早くスープ飲まないと冷めちゃうよ?」
「おぅ」
アークに促され、僕もホカホカと湯気の上るたまごスープに口をつけた。
ズズズズッ
「熱っ」
「フフッ」
……まぁ、日本の一般階級の市民じゃ彼女には到底及ばなさそうです。
「そういえば、皆さん昨日は何をされていたんですか?」
ナイフでチキンソテーを切り分けるシンが、思い出したように尋ねる。
「ずーっとチェバと一緒に寝てた!」
「俺も。なんだかんだ結局2日間ずっと寝てたぞ」
「わたしも。やっぱり結構疲れがたまってたのかな」
まぁ、深夜の第二軍団戦から明けた一昨日と昨日は休養日にしてたんだよな。
「そうでしたか。」
「先生も昨日はずっとオヤスミしてたの?」
「まぁな。……ただ、昨日は久し振りに数学の勉強してみた」
「「「おぉー!」」」
ここぞとばかりに数学者アピールしてみる。
……たまにこうしとかないと、いつしか魔術師の戦闘職と勘違いされそうだからな。
「昨日はどの辺りの単元をやってたのかしら?」
「えーっと……『図形と方程式』か」
「なにそれ? アーク知ってるー?」
「んー。ケースケが勉強する内容だもの、きっとハイレベルなのね」
「俺らにはよく分かんねえけど……とにかく凄えってのは分かったぞ!」
分からないながらも適当に頷いてみる3人。
……ただ、そんな中で1人だけ違う反応を返す男が居た。
「……ちなみに先生、まーた今回も訳の分からないブッ壊れ【演算魔法】を手に入れたんですか?」
「おぅ!」
「出ました出ました」
ヤレヤレと掌を上げてあからさまに呆れてみせるシン。
いつも通りの反応だ。
「……で、今回はどんな魔法なんですか?」
「知りたいの? 知りたいんだ?」
「…………いや別に」
「ハハッ、しょうがないなぁー」
そのくせして一番貪欲に内容を聞きたがるチャッカリさんなのです。
全く素直じゃないんだから。
「でも今はまだ秘密だな。残念ながら」
「ええ……」
「遠からず使う時は来るから。その時までのお楽しみだな」
ガクリと落ち込むシン。
右手のスプーンがヨーグルトに沈む。
「まあ良いじゃねえか! 気長に待とうぜシン!」
「……しょうがないですね。待ってますよ先生」
「うおおお新魔法! きになるー!」
「ケースケ、また強くなっちゃうのね」
「おぅ」
まぁ、今言える事といえば……今回の新たな【演算魔法】もしっかり有能。しかも見るからに使う機会多めのホープだったな。
皆のお楽しみにとっておこうか。
そんなこんなで朝食も食べ進み、残すはデザートのヨーグルトとなった頃。
ソワソワと落ち着きを無くすコースが口を開いた。
「あのさあのさ、今日どーする?」
「んー。今日かー……」
全然考えてなかったな。
受勲式は4日後、まだまだ時間は余裕。予定も無いし……どうしようか。
「特に何も考えてないな――――
「じゃあ皆で一緒に狩りいこーよ!」
……え、もう?
アレほど暴れ回った2日後にはもう戦闘狂の禁断症状ですか。
「……早くない?」
「そんなことないー! 王都の東草原で魔物狩りするの、どうー?」
「良いじゃねえか! 俺乗ったぞ!」
「からだ動かさないと鈍っちゃうもんね」
「消化試合ついでの魔物狩り、悪くないです」
「だよねだよねー!」
まさかの皆も乗り気だった件。
……あらら、これって僕の方が常識外れだったんだろうか。
「先生も来るでしょー? 戦うのイヤなら見てるだけでもいーよ別に」
「行く行く」
そしてコースからダメ押しの一撃。
……行かない手はなかった。
まぁ、整理体操がてらマッタリと行きましょうか。
ということで。
「早速やってきました」
「「「「「東草原!」」」」」
王都の東門を抜ければ、そこは終わりの見えない草原地帯。
フーリエへと続く石畳の東街道が真っ直ぐ伸びるだけの、端の見えない青々とした草原。
魔物狩りに勤しむ冒険者はチラホラ見えるが、この広さを以ってすれば気にならない。
コースの提案通り、今日はココで5人のんびりと魔物狩りを楽しもうか。
「それじゃ――――
「あ! いーこと思いついた!」
草原に足を踏み入れるや否や、開口一番にコースが何か閃く。
「どうしましたか?」
「魔物を一番たくさん狩るゲーム! やろ!」
「おお!」
「狩った魔物のギルド買取額で競争だよ!」
「面白そうじゃねえか! やるぞ!」
「成程、燃えますね」
いかにも戦闘狂のコースらしいアイデア……だが、2人の闘争心に火が点いたようだ。
シンが長剣に、ダンが大盾に手を掛ける。
「チェバも私と一緒に行くよ!」
「わんッ!」
チェバの金色の瞳にも小さな火が点いた。
「……なんか面白そう。わたしも参加するわ」
アークの槍には物理的に火が点いた。
まさかの飛び入り参加だ。
……え、じゃあ僕も参加しようかな――――
「先生審判ね!」
ウソじゃん。出鼻を挫かれてしまった。
……ってかこのゲーム、そもそも審判いる?
「審判は何をすれば」
「『よーいドン』って言うだけ!」
……まさかソレだけ?
「それだけ!」
はいはい。やりますやります。
……ただ、折角審判を仰せつかったからにはある程度ルールを決めさせてもらおう。
「じゃあ、勝敗はギルドの買取額で。タイムリミットは昼過ぎ、30分前と5分前に【共有Ⅶ】でテレパシーを送るから遅れず東門に帰ってくるように。コレで良いな?」
「おっけー!」
「絶対勝ちます!」
「大暴れすんぞ!」
「やってやるわ!」
「ぐるるっ……!」
4人もチェバも気合十分、準備万端だ。
それじゃあ皆……行ってこい!
「よぉぉい――――ドン!」
「「「「「うおおおおおお!!!」」」」」
審判の掛け声と共に、4人と1匹は一斉に草原の先へ先へと駆け出していった。
……コースの言っていた『皆で一緒に狩りがしたい』という言葉は一体何だったのかとは思ってしまったけど、まぁ皆楽しそうなので良しだ。
さて、取り残されちゃった僕は僕で久し振りに1人のんびりと狩りを楽しもう。
「よし。僕ものんびり行こうか」
「懐かしいなー」
王都の東草原。
棲息している魔物は主に穴掘りネズミのディグラットと、特段特徴のない鶏・プレーリーチキン。王都から遠くに行くと小柄な狼・カーキウルフがちらほら。
どれもさほど強くないし、初心の冒険者にはもってこいの狩り場だ。
シンやアークが居なくとも、今の僕なら1人で何ら心配は無い。……なんたって4か月前、シン・コース・ダンの3人に出会う前の僕も独りココで魔物狩りに励んでたんだからな。
「色々思い出すな。ココに立つと」
――――異世界転移を果たして早々、まさかの授かった職が非戦闘職の数学者で。
よりによって、数学どころか算数すら怪しかった僕が数学者になっちゃって。
しかも、身寄りも頼りになる人も居ないまま街に独り放っぽり出されちゃって。
仕事も雇い先も行く所もないまま、渡された支度金ばかりが減ってって。
「で、色々あって結局行き着いたのが……ココだった」
王都の東草原だった。
魔物を狩って金を稼いでなんとか生計を立てる。……今考えたら非戦闘職あるまじき生活だよね。
【演算魔法】だって当時は【加法術Ⅰ】と【減法術Ⅰ】くらい。ステータスをたったの2や3だけ増減させるだけだったし。
……しかし、それが始まりだった。
戦う数学者の始まりだった。
【演算魔法】は徐々に力をつけ、ステータス強化は【加法術Ⅵ】から【乗法術Ⅰ】、【冪乗術Ⅰ】へ。
ATKに+2や+3をして満足していた時代じゃ、近い将来にATK²やATK³を使えるようになるとか思ってもみなかったよ。
その他にも多種多様な魔法が揃った【演算魔法】、今ならこんな事でさえお茶の子サイサイだ。
「あのラットめがけて……」
僕と20mくらい離れているのを良い事に、ボーっと気を抜く2匹のディグラット。
そのうち左側のヤツに視線を合わせ、リュックから水筒を取り出して僅かに傾ける。
重力に倣って、細い糸のようにチョロチョロと流れる水。
「【一次直線】・y=x/20!」
その水が空中で途端に行先を変え、20分の1という緩い傾きをもって水鉄砲のように射出。
20m先のディグラットの頭をピシュッと貫いた。
一瞬で意識を刈り取られ、パタリと倒れる左側のラット。
何が起きたと訳も分からず硬直する2匹目。
そんな2匹目のラットをロックオンし、足元の石ころを拾うと。
魔法を唱えて投げた。
「【乱数Ⅹ】が発動しない条件下において……この石ころがあのラットに直撃しますように――――【条件付確率演算Ⅵ】!」
キャッチボールではいわゆる『ノーコン』と定評のある僕だが、この魔法を手に入れてからは百発百中。
ましてや止まったままの的に狙いが外れる訳が無く……2匹目のラットも程なく撃沈させた。
「よしっ」
……とまぁ、ここまで成長したワケだ。
【演算魔法】という武器を手にして戦うってのも、今じゃ悪くないと思ってる。
あの生活があったからこそ、今の僕がある。
王都の東草原、ココは正しく――――数学者・数原計介の『原点』に違いない。




