22-11. 目眩
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計介が発動した弱体化魔法・【冪根術Ⅵ】によって、急激に押され気味の戦況に転じる第二軍団。
自身の美学さえも忘れるほどに憤っていた軍団長ギガモスは、更に頭に血を昇らせていた。
「ちょっと、ちょっとちょっと何なのよ貴方たちィ!!」
「ギガモス様、これは恐らく……情報にもあった奴の『弱体化魔法』かと」
「そんな弱体化魔法なんて数で押し返しなさいよぉ!!!」
「無理を仰らないで下され」
感情的に口から飛び出した言葉は、部下が聞けばドン引きもの。
だが滅茶苦茶な発言は更に続く。
「ならもう仕方ないわねぇ! こうなったら『あの子』を召喚して一発逆転よぉー!」
「……なんと!」
怒りの勢いに任せて彼女が手を伸ばした先は、自身の持つ『切札』だった。
いとも簡単に切札を切ろうとするギガモスに爺やも眼を見開く。
「確かに『あの子』は強力なれど消費魔力も莫大、1発限りなのですぞ! そう衝動的に使ってはなりませぬ! 使いどころを見極めねば――――
「だーかーらーその上で言ってるんじゃないのぉ!」
「なっ…………」
そう言われて、爺やは感じた。
確かに彼女は感情的になっている。ヒステリックな部分もある。……だが、彼女の言った事は尤もだと。
切札の使いどころは、まさに今だと。
第二軍団からして、戦況は最悪。
絶望的なハンディキャップに兵は刻一刻と数を減らし、好転の兆しは一切無い。
このまま行けば、更に被害が大きくなるのみならず――――果ては第二が滅ぶ。
一刻も早く手を打たねばならない。ギガモスの言った通りに。
となれば。
いつ切札を切るべきか……その解は、言うまでもなかった。
「……ギガモス様の仰る通りでしたな」
熱くなっていたのは自分自身もだったと、反省する爺や。
狂気に満ちつつも冷静な、ギガモスの眼を改めてじっと見ると……爺やは指令を飛ばした。
「ギガモス様。『あの子』を、召喚くだされ」
「任せなさぁーい!」
爺やの言葉に意気揚々と頷くギガモス。
その身に持つ大量の魔力を以って、『あの子』の召喚という切札に手を出した。
「私の美しい愛情を注いで育てた、美しい子……」
王都の端から少し距離をとった、南門付近を眺める位置。
そこで大きく美しい翅を羽ばたかせながら、空中に留まるギガモス。
「こんな所で呼び出す気は無かったけど……今こそ出番よぉー!」
その右掌を、満月の昇る夜空に突き出すと。
高らかにその魔法を唱える。
「【虫寄せ】――――
ギガモスの右掌が、青白い光に包まれる。
まるで夜の店先にぶら下げられている誘蛾灯のような、青白い光。
そんな光に包まれた手をゆっくりと下ろし、足下の草原に向ける。
「見える……見えるわぁー! 白衣の勇者の苦しむ表情が見えるわあぁぁアハハハハハハ!!!」
狂ったように笑いつつ、右手でぐるりと円を描く。
それをなぞる様に青白い光が草原にも現れ……描き出されるは、ヘリポート大の正円。
「アイツらを繭玉にしてコロしてあげるのよぉー!!」
続けて描くのは五芒星。
草原にも正円に内接するように星形が描き足され……魔法陣が完成し。
そして、ギガモスは――――仕上げの魔法を唱えた。
「【虫寄せ】……いらっしゃぁい、サモンド・スパイダーちゃん!」
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【恒等Ⅰ】が切れるまで、残り20分。
前衛のシン・ダン・アーク、後衛のコースの活躍で第二軍団の兵力は結構そぎ落せた。
パッと見た限りで、第二軍団の頭数は最初に比べて半分くらいまで減った感覚だ。
序盤がスローペースだったことも考えれば、【恒等Ⅰ】が切れるまでの20分で第二軍団を全滅させるのも割と現実味を帯びてきた。
と、思っていた……そんな時。
視界の片隅から、紫がかった光が飛び込む。
「なっ……」
「なにアレー!?」
僕達が視線を向ければ、戦況を遠くから見守るギガモスと爺や。
彼女達の様子に変わりは無いが……何やら足元の草原が薄紫色に輝いている。
よく見てみれば……その光が成す形は、魔法陣。
「あれは……魔法陣ですか!? いつの間に!」
「何かする気だぞアイツ! 早く止めねえと!」
「待ってダン! 気持ちは分かるけど変に近付いちゃダメ!」
「けど――――
「何が起きるか分からないわ!」
飛び出そうとするダンを止めるアーク。
シンやコースもジッと魔法陣を見つめるが、この距離では手出しできない。
そんなただ眺めるばかりの僕達を見た、ギガモスは。
ニヤリと不気味な笑みを浮かべて――――魔法を唱えた。
「【虫寄せ】……いらっしゃぁい、サモンド・スパイダーちゃん!」
ビシュウウウウウウゥゥゥゥゥ!!
魔法陣から天高くへと湧き上がる、眼が眩むほどの光。
円筒状に立ち上る薄紫色の光柱は、月光を遥かに上回る明るい光を撒き散らし。
暗闇に慣れていた僕達の眼を焼いた。
「うぉっ!?」
「ぅわッ!?」
「キャーッ!!?」
「ぐぅ!?」
「きゃッ!?」
反射的に眼をギュッと閉じ、目元を手で覆う。
それでも瞼越しにはっきり伝わる、凄まじい光量。
薄紫色という光色はともかく、その明るさは真昼になったとも錯覚しかねない。
そんな光も、徐々に収まってくるのが分かると。
目元に手をかざしたまま、恐る恐る瞼を開く。
「……一体何がッ!?」
広がる視界は眼が眩んでチカチカ、何も見えない。……ってなると思っていた僕の予想に反し、視界は普通に良好。しっかり見える。
どうやら【恒等Ⅰ】が目眩から僕達を保護してくれたようだ。
――――そんなハッキリした視界だったからこそ、見えた。
見てしまった。
魔法陣から立ち上った薄紫色の光柱、その中から――――3本の太い蜘蛛糸が飛び出したのを。
一直線に伸びる蜘蛛糸が――――前衛のシン、ダン、そしてアークを襲う瞬間を。




