21-2. 必要
フーリエは今日も平和だ。
雲一つない青空、海岸に打ち寄せる穏やかな波。
戦いで失われた漁船も再建が進み、徐々に隻数を戻しつつある。
港の朝市には今日も市民や商人が集い、相変わらずの賑わいをみせる大鯨肉祭。
平和な日々が続いていた。
……そんなある日。
「ねえケースケ、ククさん。今いいかな?」
「ん? 良いけど」
「如何致した、アーク殿?」
「ちょっと来て来て」
朝食も食べ終わった午前中、アークに呼ばれる僕とククさん。
何か用があるようで、そのまま作戦会議室CalcuLegaに連れて行かれた。
とりあえず僕とククさんで並んで席に着き、会議机の反対側に座ったアークに視線を向ける。
「で、どうしたアーク?」
「我らに用とは一体……」
「うん。わたしね、この前の『フーリエ大津波事件』について……考えてた事があるの」
「あのサファイアホエール、もしかしたらあれって……魔王軍のけしかけた魔物、だったのかなと思って」
「ほう」
「それについて、他の人の考えも聞きたいかなって思って2人を呼んだの」
「ふむ……成程」
そうか。魔王軍の仕業だったって事か。
今まではずっと自然災害と言うか、自然の摂理だと思っていたけど……そういう捉え方もあるな。
「……ちなみにアーク、その根拠は?」
「うん。まず最初に、『フーリエ包囲事件』からの『フーリエ大津波事件』っていう流れ。立て続けにフーリエが狙われるのも不自然だし、魔王軍の報復だったんじゃないかな」
はいはいはい。いわゆるリベンジマッチか。
分からなくもない。
「次に、その規模。市民丸ごと街を破壊できるっていう大津波なら……王国破滅をもくろむ魔王軍なら目を付けないことは無いよね?」
確かに。
寧ろあのホエール1頭で王国の都市を1個潰せると考えりゃかなり低コストだ。ホエールを操りでもされてたらたまったモンじゃない。
「あと最後に……ケースケっていつも、魔王軍に狙われてるじゃない?」
酷い!
疫病神扱いかよ!
「いやいやいや! 確かにそうだけどさ! 間違ってはないけどさ!――――
「ふむ。アーク殿の仰る事も一理ある」
「ククさんも乗るな!」
「想像してみてよケースケ。魔王軍が攻め込むところには、必ずケースケが居るじゃない?」
「……まあ」
一番最初の『王都南門襲撃事件』といい。
その次の『テイラー迷宮奇襲事件』といい。
そして、この前にあった『フーリエ包囲事件』といい。
「……皆勤ですね僕」
「でしょ? しかもこの前の包囲事件の時だって、ケースケだけご指名だったよね。『白衣の勇者殺す!』って」
「左様。指揮官殿は貴殿に絶大なる憎悪を抱いている故に」
……それも自覚あるけど。
「だけどさ、それはちょっと被害妄想が過ぎるだろ。大体、僕が襲われたからって必ずしも魔王軍の仕業とは言い切れないじゃんか」
そうだ。
仮に『魔王軍は僕を標的に一点集中している』として、
『魔王軍が攻め込んだ ⇒ 僕が襲われた』は真になる。
けど、逆に『僕が襲われた ⇒ 魔王軍が攻め込んだ』は必ずしもそうじゃない。偽だ。
となれば、『魔王軍が攻め込んだ』は飽くまで十分条件。
『魔王軍が攻め込んだ ⇔ 僕が襲われた』と言うには、魔王軍が関わった証拠を示す必要がある。
「今回の戦いでは、魔王軍の痕跡は見えてないんだよな?」
「……うむ」
「うん。まだそんな話は聞いてないよ」
トラスホームさん達も調査中らしいけど、まだコレと言った情報は入ってない。
ホエールが洗脳や操られたりした跡も無いって言ってたしな。
「『オレは魔王軍だー!』っていう名乗りとか、もしくは『セットの姿を見た』人が居るだけでも一発で証拠になるんだけどなー……」
「我らも指揮官殿の魔力ならば忽ち感知する筈であるが……此度は全く」
「そうだよねー」
つまり、必要条件は満たされていない。
だから、恐らく『フーリエ大津波事件』は自然現象という結論で確定だ。
「そんな感じだろうか。……なんか、アークの考えを否定するみたいで申し訳ないけど」
「ううん。わたしもちょっと考え過ぎてたかも」
「いやいや、そんな事ないさ。ホエールの一仕事を終えてちょっとノンビリし過ぎてたから、気が引き締まったよ」
いつ魔王軍が攻め込んでくるかは分からない。
まるで抜き打ちテストの様に、その時期も規模も傾向も読めないという辺りがまた恐ろしいのだ。
そういった点では、こういう風に定期的に魔王軍の事を念頭に置いておくのって凄く大事だと気付かされたよ。
「ありがとな、アーク」
「んーん。こっちこそ、話を聞いてくれてありがと」
「いえいえ」
……あっ、そうだ。
最後に魔王軍評論家・ククさんにも話を聞いておこう。
「ちなみにククさん。そんな感じの結論だけど、元魔王軍視点で何かあるか?」
「異論は無い。……が、唯一つだけ申し忘れが」
ん、言い忘れた事?
「貴殿が疫病神なのは間違いない」
「……分かったよ!!」




