20-1. 図形の性質Ⅰ
ウルフ隊が僕達の港町・フーリエに来てから、今日で丁度2週間が経った。
あれからしばらくは魔王軍も際立った動きを見せず、ティマクス王国は平穏な日々を送っている。
フーリエも復興の甲斐あって完全に元の姿に戻り、港の朝市も毎日盛況だ。
僕達も最近は遠出をすることなく、この我が家を拠点に生活している。
シンも、アークとチェバも、ダンも、アークも、勿論僕も特に変わりは無い。
一緒に住むことになった15頭のウルフ隊もフーリエでの生活に慣れてきたようで、正体バレの心配もなく徐々に街に溶け込みつつある。
街中では常に【相似Ⅳ】の幼犬モードで生活しているのもあってか、子犬の演技もしっかり板についてきたようだしね。
……そうそう。
そんなウルフ隊だが、残念ながら彼ら専用の部屋は用意できなかった。我が家にある部屋は全て埋まっているしね。
ただ、そんな寝床も無い流浪の民状態ってのは可哀想なので……夕食も終わった後の夜の時間帯のリビングを彼らの寝床とした。丁度今頃、リビングではウルフ隊がゴロゴロしてるんだろうな。
そんな彼らの布団代わりはリビングに敷かれた絨毯。
どうやら彼らはフカフカな布団よりも絨毯の敷かれた床の硬さぐらいが好みらしく、ソレで満足との事らしい。
……まぁソレで良いなら構わないけど。腰とか背中とか痛くならないのかな。
ちなみに、日中も彼らはリビングでゴロゴロしている。人が集まって狭くなると作戦会議室CalcuLegaの椅子の上でゴロゴロしたり、もしくは芝生の庭に移ってゴロゴロしている。
……そう考えたらずっとゴロゴロしてんなアイツら。もう少し働かせようかな。
そんな風に暮らしている僕達だけど……勿論、この日々が『戦いの合間』だってのは忘れていない。
時折フーリエの西門から砂漠に繰り出しては、本来の姿に戻ったウルフ隊と共に魔物狩りに励んでいる。
シンの剣捌き、ダンの攻防一体の盾遣い、アークの魔法戦士スタイル、コースの操る水と氷、僕の【演算魔法】、そしてウルフ隊のコンビネーション。
どれも鈍っちゃいない。……むしろ単調増加で伸び続けている。
いつ次なる襲撃が来たって大丈夫なように、コンディションはバッチリ整っているのだ。
魔王軍、バッチ来い!
「……という事で」
この日の、午後9時。
夕食を食べ終わった僕達が各々の個室に戻り、リビングを幼犬隊に明け渡した頃。
自室に戻った僕は椅子に座って机を前にすると……早速、夜の仕事に取り掛かろうとしていた。
「紙と、ペンと、それに……有った有った、参考書っと」
リュックに手を突っ込み、ガサゴソと手探りで取り出したのは……毎度恒例、お決まりの三点セット。
コレから僕が何をやるかはもうお分かりだよな。
「さぁ……夜の勉強タイムといきますか!」
そう。数学だ。
日本に居た数ヶ月前まではその名前を口にも出したくない程だったのに、今となっちゃ僕の方から進んで数学に手をつける側となってしまった。
自分で言うのもなんだけど……なんだか変わっちゃったな。僕。
同級生がこの様を見たらどんな反応をするんだろう。
とはいえこのモチベーション、飽くまでも『【演算魔法】をもっと強くしたい』という盛大な下心ありきで成り立っている。
ので不純な動機と言われたら返す言葉がありません。
けどまぁ……コレもまた1つの成長だよね?
と、そんな事を考えている間にも机の上には勉強三点セットがスタンバイ。
いつでも勉強できる状態だ。
「それじゃあ、最初に……」
参考書の表紙を開き、目次を確認する。
まずは今日やる単元のチェックからだ。
「前回やったのは……そうそう。コレだ」
この前は数学Aの『高校確率』をやったんだったな。何P何とか、何C何とか、何! とか。お世話になっている【条件付確率演算Ⅵ】もこの単元だった。
となると、今日やる単元はその次。
「……『図形の性質』か」
図形の性質――――。
これまで小学校でも中学校でも沢山学んできた図形分野だが……高校でもしっかりと取り扱われる単元だ。
と同時に、当時高校1年だった僕が『ぶっちゃけ小中学校でも図形やったし』と舐めてかかって玉砕した単元でもある。
「……くぅっ。あの時は散々だったな」
2年前の苦い記憶が蘇る。
……けど、今の僕は違う。断言できる。
小中学校の基礎知識をガッチリと固めてきたのだ。
今回こそは出来るッ!
「……よし! リベンジマッチだ!」
2年越しの再戦に気合を入れ、パラパラと参考書のページを捲って『高校図形』の単元へと飛んだ。
●図形の性質
数字やら記号やらアルファベットやらギリシャ文字やらをバンバン使って式を立て、ひたすら計算するみたいな『ザ・数学』とはちょっと異なった分野……図形。
小中学校と続き、本章で第3弾となる今回は高校数学Aでの内容を勉強しよう。
今回のメインテーマは、ズバリ『円と三角形』だ!
一見何の関係も無さそうな両者、円と三角形。
実はこの間には、どうやらヒミツの繋がりが有るようで……?
更に、その行く先にはまさかのドロドロな展開が……?!
円と三角形、果たして一体どんな関係になっちゃうのか?
その真実は勉強が進むにつれて明らかになっていくぞ!
乞うご期待! 図形の性質、スタートだ!!
Point①
『内分と外分』
本単元の最初は、図形を扱う上で欠かせない基礎単語から説明するぞ。
それではまず、こんな直線ストレートの線路上にA駅、B駅があったとしよう。
A B
──┸────┸──
この辺りは元々田舎で人も少なく、AとBの駅間隔も広め。……だったのだが、最近は家が続々と建って住民も増えてきたので両駅の間に新駅Cを作ることにしました。
という事で、早速ですがココで問題だ。
==========
(例1)
次に示す場所にC駅を開業させました。
直線上の正しい位置にCの字を振って下さい。
『AとBの間を5等分する場所のうち、A側から2番目の所』
==========
……さて。解けたかな?
正解はコレだ。
==========
(解1)
A C B
──┸┴┴┴┴┸──
==========
こんな感じかな。
ABの中間より左寄り、同じ歩幅でAから2歩、Bから3歩の位置にCが有れば正解だ。
……とまぁ、鉄道の話は良いとして。
図形を扱う数学においては、このように直線上に新しい点を爆誕させる事がよくある。
今みたく2点の間に新しい点を打って分割する事を『2点を内分する』と言い、打った点を『内分点』というのだ。
そして、例題にもあったような内分点の位置を数学流に言い換えれば……こうだ。
『線分ABを2:3に内分する点C』。
難しい言い回しだけど、意味は例題と変わりない。同じ歩幅でAから2歩:Bから3歩だ。
もしくは逆に『線分BAを3:2に内分する点C』と言っても差し支えない。
線分ABを2:3に内分する点C。
線分PQを1:4に内分する点R。
線分OAをx:(1-x)に内分する点H。
こんな感じで、内分点を打つ時は線分の名前と『:』のペアを使って表すぞ。
……だが、ココで1つ気をつけてほしい事がある。
こうやって『内分』の問題に慣れてきた所で、問題文も稀に偽物を混ぜ込んで対抗してくるのだ!
その名も……内分じゃなく『外分』。
うっかり外分の問題を内分と勘違いすると、ソレはソレはもう大惨事だ。試しにさっきの鉄道の例題で『ABを2:3に外分するD駅』を爆誕させてみれば、きっとその大惨事さが分かるだろう。
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C:線分ABを2:3に内分
D線分ABを2:3に外分
D A C B
─┸────┸────┸┴┴┴┴┸─
==========
はい。こうだ。
ABの間を5等分していたCとは大違いのスケール。
線分ABから飛び出して遠回りするように、丁度Aから2歩:Bから3歩の点になるのだ。
外分の惨事、お分かり頂けただろうか。
という事で、コレからは直線上に新たな点を打つ時には『内分』『外分』という言葉を使うぞ。
是非とも覚えておこう。
Point②
『特殊ルール付き一筆書きゲーム!』
では、ココで習いたての内分・外分を使ったゲームをやってみよう。
その名も『一筆書きゲーム・メネラウス』だ!
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D●
│\
│ \
│ \
│ ●E
│ / \
│ / \
│/ \
C● \
/│ \
/ │ \
/ │ \
●───◎───────────★
A B O
===========
ルールは簡単。点Oの★からスタートして道を真っ直ぐ進み、全ての●を1回ずつ通って★に戻ればクリア。
ただし、点Bの◎は必ず2回通らなければならない。1本の道は何度通ってもオッケー。
以上、そう変わったルールではないんじゃないかな。
それでは一筆書きゲーム『メネラウス』、やってみよう!
……どうかな? 分かっただろうか。
それでは正解だ。
点Oから順に『O→B→A→B→C→D→E→O』。もしくはこの逆順だ。
点Aで一度折り返してBに戻るのがポイントだったな。
で、このゲームが何の役に立つのかという話だけど――――残念ながら特に何の役に立ちません。
……というのは偽です。ごめんなさい。
この一筆書きゲーム・メネラウス、実は図形分野の問題を解くうえで物凄ッごく重要なのだ。
ポイントは『内分・外分の比』。
コレを踏まえると、点C、E、そしてAは次のように説明できる。
==========
点C… 線分BDを 1:2 に内分する点
点E… 線分DOを 1:2 に内分する点
点A… 線分OBを 4:1 に外分する点(つまり、点Bは線分AOを 1:3 に内分。)
D●
│\
│ ①
│ \
② ●E
│ / \
│ / \
│/ \
C● ②
/│ \
/ ① \
/ │ \
●─①─●─────③─────★
A B O
===========
そして、このゲームで一番重要になってくるのが……この法則。
『三組の外分・内分比を分数にして掛け合わせた積は1になる』
必ず1になるのだ。0でも2でもない、絶対に1。
コレこそを数学の世界では『メネラウスの定理』と呼ぶのだ!
では、試しに今の例題で計算してみよう。
通った順はOA、AB、BC、CD、DE、EO。コレを分母、分子、分母、分子…の順で割り当てていくぞ。
AB CD EO
──×──×──=?
OA BC DE
こうなるよな。
それでは、この式に内分・外分の比を代入。
1 2 2
─×─×─=?
4 1 1
こうなるハズだ。
じゃあ最後にこの分数を約分していけば、右辺の『?』に入る数字は……――――
という風に、例題のような2つの三角形が重なったような図形では『メネラウスの定理』が使用可能だ。
3組の内分・外分のうち、2組の比が分かれば自然ともう1組の比も得られるという寸法になっているぞ。
是非とも覚えておこう。
あと余談だけど、コレと良く似た定理がもう1つ存在する。
興味のある人は是非調べてみてね。
ということで、Point①と②はお終い。
次はPoint③だ。
今回のメインテーマ・『円と三角形』がついに始まる……?!




