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19-17. 音Ⅲ

キイイイイイィィィィィィンッ!!



特大コウモリが、翼をバサリと広げた……その直後。

坑道中を甲高い超音波が襲った。




聴いているだけで頭が割れそうになるような、超音波。

左右天井を覆う木板がカタカタと震える。

その隙間からはパラパラと砂が零れ落ち、坑道へと降り注ぐ。


そんな超音波が、音源の特大コウモリから文字通りあと一歩のウルフ隊を呑み込む。



「なッ?!」

「ぐうぅッ……?!」

「頭が……割れるッ!」


ギリギリまで引き付けられた所で浴びせられた、至近距離での超音波。

跳躍のために踏ん張っていた膝から力が抜け、バタバタと坑道中に転げていく。



キキキッ!

「くっ、此奴等……ッ!!」


切り札炸裂と笑みを浮かべる、特大コウモリ。

最後まで立っていたククさんも耐え切れず膝から崩れ落ちる。


そんな無防備状態のウルフ隊に、ダメ押しとばかりに群がるコウモリ達。

DEFのステータス3乗が掛かっているからダメージの心配は要らないけど……決して良い状況とは言えない。



……クソッ、彼らがヤバい!

ここは僕達が何とかしなきゃ!






――――ってのは、僕自身も分かっているんだけど。




「くぅ……ッ!!」


超音波に曝されているのは、僕達も同じ。例外ではなかった。


至近距離ほどじゃないとはいえ、身体を怯ませる分には十分な威力。

反射的に耳を塞いで縮こまったきり身動きがとれない。



「キヤアアァァァァッ!!!」

「きゅぅんっ……!」


隣のコースも悲鳴を上げてしゃがみ込んでしまった。

抱えられているチェバも前脚で必死に耳を塞いでいる。



「ぐおっ!?」

「何ですか一体ッ!?」

「うぅっ、立てない……ッ!」


コウモリ殲滅中に突然超音波に襲われた戦士組も、訳も分からず膝をつく。

アークの槍からも炎がフッと消える。


特大コウモリの一撃で、僕達もウルフ隊も全員纏めて地に伏させられてしまっていた。




「くっ、奴等……未だこんな奥の手を用意していたとは……ッ!」


ククさんの言う通り、まさに一発逆転の『奥の手』を見事に決められてしまったようだ。






超音波が鳴り止まらない中、コースが涙声で叫ぶ。



「せっ先生(せんせー)! どーにかできないのーッ?!」

「どうにかって言われても……ッ!」


僕もなんとかしたいのはヤマヤマだけど……こんな状況じゃ全然頭が回らないんだよ!

何か考えるだけで頭痛が酷くなる!


……けど、考えなければ状況は変わらない。

頭痛を我慢してでも、何とか策を練らなければ!



「……ちょっと待ってろコース!」

「うん…………」


覚悟を決めた僕は、頭痛の悪化を承知のうえで頭をフル回転させ始めた。




「まず……」


まず、まずは……自分の身に何が起きているかの把握からだ。

それが分かれば、何か手立ても思いつくかもしれない。



「くぅッ……【状態確認】(オープン・ステータス)ッ!」

ピッ


脳をズキズキいわせつつも、言い慣れた魔法を辛うじて唱える。

唱え終えて遠のきかけた僕の意識を、間髪入れず飛び出したステータスプレートが繋ぎとめる。



「今の僕の状態は……」




===Status========

数原計介 17歳 男 Lv.11

(ジョブ):数学者 状態:音響傷(中)

HP  66/76

MP  43/69

ATK 64

DEF 4913

INT 15625

MND 13824

===========




音響傷(おんきょうしょう)……」


INTやMNDの桁数が凄い事になっているのは良いとして、目に入ったのは状態欄の『音響傷(中)』の文字。

聞いた事は無いけど、漢字の並び的にそのままの意味だろう。


……ってかコレ程の威力で(中)かよ。(大)を受けたら死んじまうよ。



まぁとにかく、如何にしてもこの超音波から逃れるかだ。


選択肢は3つ。

その1、音源の特大コウモリを潰さなきゃダメか?

その2、それともバリアか何かで超音波を遮れば十分か?

その3、もしくはこのまま耐えて特大コウモリの息切れを待つのもアリか?


どれが良いか――――




「……なっ、HPが!?」


ふと視線をHP欄に移せば、いつの間にかHPが満タンから10も減っている。

おかしい……今日は1発もダメージを受けていないのに――――



「減った!? ……ぐッ!!」


そんな間にもHPの値が1減る。

と同時に脳のズキズキが1段階上がり、思わず頭を抱える。




――――そして、気付いた。



「まさか、音響傷って……」


この状態異常、ステータスの防御を無視してHPをガリガリ削っていくのか!?

となれば僕のステータス加算も意味を為さないじゃんか……ッ!


マズいぞ、この状況!

選択肢その3、待つのはダメだ!

潰すか遮るかの二択しかない!


となれば、次は――――




「ぐぅッ……!!」


ステータスプレートのHPが更に1減り、痛みのレベルも増す。

思考のキャパシティもどんどん絞られていく。



時間が無い……ッ!




「バリア……バリアを…………」


まずは、選択肢その2からだ。



なんとかして、超音波を遮る。

バリアで遮る。

バリアを張る。


そうとは頭の中で分かってる。

いるんだけど。



意識が遠のいていく。




頭が回らない。






「バリア……」


さっきも使った、あの魔法。

さっきも使ったハズなのに。



ヤバい。

魔法の名前が出てこない。



アレだよ、アレ。




あの……――――
















その時、僕の口は無意識のうちに呪文を紡いでいた。






「其レハ無(This )(is )ナラ(what )ザル(makes )物ニ(their )限与(finites.)ウル者――

    ――【定義域Ⅶ】(Domain)・x(in front )( of)1( Kuku)



……そうそう! ソレだ!

アハ体験のような目の醒める感覚に、意識がグッと引き戻される。


無意識に呟いていた謎の呪文が気になるけど、今そんな事はどうでも良い。

魔法は発動した。結果オーライだ。



「とにかく、コレで超音波を……」


顔を上げれば、思い浮かべていた通りのククさんの正面1m先にシュンッと現れる青透明のバリア。

特大コウモリからウルフ隊と僕達を庇うようにバリアが張られた。


よし、コレで特大コウモリの超音波攻撃を遮ってくれるハズだ――――






――――が。



キイイイイイィィィィィィンッ!!

「なんでだッ! 止まらないじゃんか……ッ!」


超音波はバリアに遮られるどころか、弱められる気配も見せずに素通り。

折角のバリアも空しく、僕達を取り囲む状況は何も変わらなかった。



「まさか……『声』だからか?」


少し心配はしていたんだけど……どうやら悪い予感は的中したのかもしれない。


【定義域Ⅶ】(ドメイン)がバリアで防げるのは、飽くまで敵の本体と敵が放った攻撃だけ。敵の声や号令、雄叫びといった『音』は遮られない。

という事は、このコウモリも単なる大声として超音波を放っていたんだとすれば……?




「バリアが効かない……ッ!」


今まで万能だと思っていた【定義域Ⅶ】(ドメイン)バリアの、弱点を突かれた。

選択肢その2、遮る方法も閉ざされてしまった。




「……マズい」


となれば、残る選択肢は1つ。

音源を潰す。


だが……コレはそもそも最初から無理だ。

一番近いウルフ隊は全員ブッ倒れ、僕達だって魔法を使うのもままならない。身体を動かすなんてもってのほか。




選択肢は、もう無い。






「ヤバいぞコレは……」


必死に手を考えるが、良案は一向に浮かばない。

焦りと苛立ちばかりが溜まる。

それが却って頭痛に更なる拍車をかける。

脳の回転にブレーキが掛かる。


必死に手を考えるが、良案は一向に浮かばない。



負のスパイラルに落ち込んだ。

……コレは詰んだ。






ヤバい。




マジでヤバい。






ヤバいヤバいヤバいヤバい――――





















――――それでも、僕の脳のどこかは未だ諦めていなかった。

僕の脳は、ほとんど思考を停止させつつも……必死に第4の選択肢を挙げ、発動させていた。











「括線用ウ(Vinculum )レバ(never )何時(makes )モ除シテ(remainder,)(but )余無シ(equality.)――

  ――【除法術Ⅵ】(Division)・all 7」






『まずは音源のボリュームを落とす』という、第4の選択肢を……僕の脳は選択していた。

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ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
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