4-4. 救援
「ハァ、ハァ……マ、狂科学者さん、大丈夫!?」
理解が進まない僕に、水色のとんがり帽子にローブを着た女の子はそう声を掛ける。
「……ぇ? あ、あぁ……」
「数学者の兄ちゃん、ケガ無ぇか?」
僕の返答もままならないが、続けて目の前の何かが動くのと共に上からそう声が聞こえる。
ふと上を向くと、全身に鎧を纏い、大盾を持った巨体が僕を見ていた。
「ふぅ……なんとか間に合って良かったー!」
そして巨体の後ろからは、剣を腰に差しつつそう言って歩いてくる童顔戦士。
聞いたことのある声。
見たことのある姿と顔。
間違いなく、昨日の3人組だった。
昨日追い払ったあの3人組。
そしてその後ろには倒れる5頭のカーキウルフ。
その瞬間、今までに起こった事を理解した。
危うく本当に死ぬ所だった所を、この3人組が助けてくれた。
この3人が居なければ、僕は今頃ウルフの餌になっていただろう。
理解が進むにつれて、僕の頭の中に急速に様々な思いが浮かんでくる。
「…………ぁ……ぁ……」
頭の中が一杯一杯になって、言葉が浮かんで来ない。
そして、数秒経った頃だろうか。
頭はもう色んな情報でごちゃ混ぜになり、僕自身でも混乱して訳の分からない状態だった。
しかし、目から涙を流して小さくこう述べていた。
「ありがとう…………済まなかった」
「……へ? ちょ、ちょっと、なんで泣いてるの!?」
水色魔女の言った事は、既に混乱状態に陥っていた僕の耳には届かなかった。
少し気が落ち着いて、頭の整理が着いた。
涙を流した理由、それは二つだ。
まず、単純に安堵の感情。ウルフ達に殺される所だった。しかし、倒されたウルフ達を目にした途端、そんな超緊張状態が解け、その反動で涙が溢れてしまったのだろう。
次に、謝罪の感情。殺される所だった。それを助けてくれたのは昨日の3人組だった。昨日僕が冷たくあしらい、しかも結果的に追い払ったのだ。
僕がそんな対応をしたのにも関わらず、救ってくれた。もう彼らには顔を上げられない。
恥ずかしさと共に、罪悪感が込み上がってくる。
その思いが、きっと無意識に涙と『済まなかった』の言葉として現れたのだろう。
深呼吸して、改めて感謝の言葉を述べる。
「はぁ……本当に危うく殺される所だった。ありがとう」
「いや、気にしないで下さい。お互い助け合ってこその冒険者ですよ」
「まぁ、俺らも結構ギリギリだったけどな」
「まさかこんな所に狂科学者さんが居るなんて、思いもしませんでしたよー」
その後、彼らの話を聞いた。
彼らは今日も昨日同様、僕に会うために王都東の草原を歩き回っていたようだ。
で、しばらく昨日と同じ辺りで探していたが、見当たらない。
『今日はお休みなのかもね』と捜索を打ち切ろうとした所、更に東側の方から叫び声が聞こえた。
そこで水色魔女が『狂科学者さんの声っぽい』と言い、一目散に此方へと駆け出す。童顔戦士と全身鎧の大盾も追いかける。
そして、そこで見た光景が……僕がウルフの群れに喰い殺されんとする瞬間だったそうだ。
「そうだったのか……僕を探しに……」
それは済まなかったな。今日はおっちゃんの長話のせいで遠くまで来てしまったんだ。
「はい。でもまぁ、会えたので結果オーライですね!」
童顔戦士が満遍の笑みでそう言う。
あんな冷遇をしたのにも関わらずそう言われると、更に罪悪感が増すよ……。
そうだ、なんでこんな事になってしまったかだ。
その原因は『調子に乗っていた』からだ。
ラットもチキンも楽々狩れるようになった。
スキルも中々使い勝手が良い。
レベルも上がった。
狂科学者と呼ばれ、有名になった。
どんどん僕に有利な状況が続き、僕なら何でも出来ると思っていた。少しいい気になっていた。
狂科学者に声を掛けてくる人々にも、僕の方が有名人だと思い込んで適当にあしらっていた。よくよく考えれば、僕なんてまだ冒険者歴2週間の超若造。そんな行動、調子乗り過ぎだ。
今朝も、少し遠い所に来てしまったけど僕なら大丈夫だろうとタカを括っていた。
そんな所にこれだ。
調子に乗っていた僕にバチが下ったみたいだ。
……ふぅ、少し気持ちを入れ替えなければ。
幾ら狂科学者と名が売れた所で、実力は変わらない。経験も実力も上の冒険者なんて数え切れないほど居る。
……よし、これからは気を付けよう。
二度とこんな事、起こさないために。
「……どうした? どこか痛むか?」
「……あ、いや」
大盾の子が僕を見てそう話しかけてくる。
あぁ、ずっと俯きながら考え事をしていたからな。
怪我が傷んでいるように見えてたかもしれない。
「あ、いや、ちょっと考え事を。それより、皆……昨日はあんな冷たい態度をとってしまい、本当に申し訳なかった」
「あ、あー……。ちょっとイメージと違うなって思ったけど、気にしてないですよー」
「全然私たちは気にしてないので、狂科学者さんもお気になさらないで下さい」
そう言ってくれると幾分か気が楽になるが……
あ、そういえば3人とも僕のことを狂科学者なり数学者なりと呼んでいるが、まだ名乗っていなかったな。
「そう言ってくれると助かるよ。あと、名乗るのか遅れて済まない。僕は数原計介、職は数学者だ」
「そういえばそうでしたね。 こちらこそ今更で済みません。剣術戦士のシンです」
「コースです! 職は水系統魔術師です!」
「俺はダン、盾術戦士だ」
お互いに自己紹介を済ませる。
腰に剣を差した童顔の子がシン。
水色のローブ姿の女の子がコース。
全身鎧を着けた大盾の子がダン。
3人とも歳は僕より若く、中学生くらい。
よし、覚えた。命の恩人に名前を呼び間違えるとか忘れるとか失礼だからな。
「さて、しかし……昨日の今日で僕を探しているって言ってたけど、何かあったのか……?」
「あ、そうだった! 実は私達、狂科……じゃなくて計介さんにお願い事があってー」
「そうだったのか。僕に出来る事なら何でもするよ。……いや、させて欲しい」
これは僕なりのケジメだ。
『調子に乗らない』という自分への戒めを忘れないようにするために。
また、それを間接的にではあるが教えてくれた3人への感謝の為に。
そして、ダンが口を開く。
「俺らの願いはだな…………俺らを弟子にとって欲しいんだ」
…………え? マジかよ。




