13-10-1. 『反省会Ⅰ』
港町・フーリエ滞在2日目、特訓初日。
14:03。
まだ昼過ぎにも関わらず、僕達はさっさと帰宅。
家に帰って来るなりダイニングテーブルに腰掛けた。
南向きの窓からは陽が射し、リビングはポカポカ暖かい。
ベランダの柵には鳥が訪れ、窓越しに囀りが聞こえる。
のだが。
そんなノンビリとした午後とは程遠い雰囲気が、僕達の間には流れていた。
「「「「「…………」」」」」
両肘を机に突き、頭を抱えるシン。
机に額を当てて突っ伏すコース。
両手の拳を固く握りしめて机に押し付け、項垂れるダン。
両手を組んで机に伏せすアーク。
そして……椅子の背もたれに寄りかかり、天井をボーっと見つめる僕。
全員揃ってお通夜の如く黙り込んでいた。
「…………あぁー……」
「……ブローリザードに全然歯が立ちませんでした…………」
「クソッ! シンを守るどころか、マトモに防ぎ切る事すら出来なかった……」
「……なんで【水系統魔法】が効かないの…………」
「……こ、怖かった…………」
静かなリビングの中で時々そう呟いては、また机に突っ伏せていく僕達。
完全に気分は沈んでいた。
……僕達が落ち込んでいるのは、言うまでもなくさっきのブローリザード戦のせいだ。
フーリエ特訓初日、その第一戦目。
草原の魔物は鼠も鶏も狼も難なく倒せるようになり、草原の首領でさえ協力して倒しちゃった僕達。
そんな僕達が砂漠で初めて出会った魔物、ブローリザードとの戦い。
草原の魔物も余裕に倒せるようになったんだし、砂漠でも大丈夫だろって思っていた。
『砂漠には草原より強い魔物が居る』って聞いてたけど、僕達なら苦戦しつつも倒せるだろうって思ってた。
心配を口にしていたシンも、考え過ぎなんじゃないかって思ってた。
のだが。
蓋を開けてみれば、結果は惨敗。
3頭のブローリザード達には傷すら付けることも出来ず、一方的に蹴散らされてしまった。
……そして、4人をフルボッコにしたリザード達は僕なんか相手にもせず、どこかへ行ってしまった。
完敗だった。
完全に自信過剰だった。
その後、なんとか動けた僕とダンで3人を抱えて運び。
砂漠から東街道、西門、そして家へとなんとか戻ってきたって次第だ。
5倍に上げたDEFのお陰で誰にも外傷は無く、体力もそう減って無い。
……だったんだけど、僕達のメンタルはボロボロ。
気持ちのせいか、体力は減っていないのに凄く削られてる気がした。
「「「「「…………」」」」」
ダイニングテーブルに座ったが最後。
席を立つ気にもなれず、何かを考える気にもなれず、かといって何かをする気にもなれず、ずっとこの調子でダイニングテーブルを囲んでいた。
「……まさか、あんなにブローリザードが強かったとはな…………」
静寂の中、ダンが口を開く。
「ハァーア。【水系統魔法】が効かないんじゃ、私ダメじゃーん……」
「わたしの【火系統魔法】も全然効かなかったわ……」
「……まさかあのリザードの鱗、『魔法無効』とかじゃねえのか?」
「先生。魔物図鑑に書いてあったブローリザードの特徴、覚えていませんか?」
「んんー………………」
シンに尋ねられ、必死に魔物図鑑の内容を思い出す。
……けど、中々思い出せない。
「……詳しくは思い出せないけど、確か『魔法無効』は無かったと思う」
「えー……それだけ?」
「済まんなコース。ご期待に沿えなくて」
「……でも、ケースケが覚えてないんじゃ仕方ないね」
「「「「「…………」」」」」
そして話が続かず、再びリビングに静寂が訪れる。
「……コース、ダン」
静寂の中、今度はシンが口を開く。
「なーにー、シン?」
「……シン、何だ?」
「ブローリザードでこれ程の強さという事は……カースド・スネークとデザート・スコーピオンはどれだけ強いんでしょうか?」
シンの心配症が発動した。
「……お前、ついに言っちまったか」
「皆思ってたコトだよねー……」
うん、僕も思ってた事だよ。中々言い出せなかったけどさ……。
なんたってブローリザードであの強さだ。
特訓特訓と張り切ってたものの、先行きが思いやられる。
「もしブローリザードを倒したとして、さらに厄介だというカースド・スネークとデザート・スコーピオンは果たして倒せるのでしょうか……?」
「「「「…………」」」」
シンが呟いた言葉に黙り込む僕達。
……誰も否定できず、空気がズンと重くなる。
「……というか、そもそもブローリザードを倒せるのでしょうか……?」
「「「「………………」」」」
……更に黙り込む僕達。
誰も否定どころか、何か言い返すことすら出来なかった。
空気がまたズーンと重くなる。
「「「「「…………」」」」」
そのまま、誰も喋らなくなってしまった。
またお通夜状態が始まった。
……いやいやいやいや!
そんなんじゃダメじゃんか!
コイツらの『先生』をやってる僕がこんなんじゃ、『学生』達だってどうしようもないじゃんか!
いつまでこんな落ち込んでたって、何も始まらない。
僕は僕の出来る事をやる。
僕達は僕達の出来る事をやるんだ。
背もたれに寄っかかっるのを止め、ガバッと勢いよく上体を持ち上げる。
ガタンッ!
「「「「ぅわっ!」」」」
僕の椅子の脚が音を上げ、驚く4人。
「ビックリしたー……」
「急に動かないでよ、ケースケ」
「ドキッとしたじゃねえか」
「ゴメンゴメン。……ところでさ、シン」
「……なんでしょう?」
項垂れるシンが頭を上げ、僕の方を向く。
「……シン。ブローリザードに勝てる勝てないは別として、勝ちたいか?」
ダイニングテーブル越しに真っ直ぐシンの目を見て、そう尋ねた。
「……勝ちたいです」
シンも真っ直ぐ僕の目を見て、そう答えた。
……よし、良く言った。
さぁ、落ち込みタイムもこの位で終わりにしてもらおうかな。
「そんじゃあさ……いつまでも落ち込んでないで、どうやったら勝てるか作戦を立てないか?」
「……さ、作戦ですか……?」
「あぁ」
さっきの戦い、リザードとの1回戦は負けた。
リザードは力も強く、連携も見事だった。
ぶっちゃけ言うと、今日みたいな戦い方では僕達が勝てる確率は低過ぎる。素人でも分かる。
もし、このままでリザードとの2回戦に臨んだらどうなるか?
……多分、次も負けるだろうな。
勝てる確率が低過ぎるから。
「…………だったらさ。僕達も色々作戦を考えて『勝てる確率』を上げれば良いじゃんか!」
「……『勝てる確率』を……」
「あぁそうだ! このままボーっとしてても、『勝てる確率』は変わらない。けどさ……リザード達の力が強いのなら、僕達ももっと力を付けて対抗すれば良い。リザード達が凄い連携を見せてくるのなら、こちらも凄い連携で対抗すれば良い。こう……まぁ色々頑張って、『勝てる確率』を上げていけば良い! そういう事だよ!」
……ちょっと強引かもしれないけど、それっぽい言葉と勢いでシンを言い包めてみる。
さぁ、落ち込むのはヤメだ! シン!
「……カッコいいじゃねえかソレ! 先生!」
「私たちも作戦タイムだねー!」
「……わたしも、もっとステータスを上げれば……!」
と思ったら、シンより先に他の3人がその気になってしまった。
「……そうですね!」
……って思っていると、シンもそれにつられてやる気になったようだ。
よし! シンの心に聳え立つ心配性の板を突破してやったぞ!
「それじゃあ……シン、コース、ダン、アーク。特訓1日目の『反省会』、スタートだ!」




