12-32. 一石二鳥
「【消去Ⅰ】……と、【代入Ⅰ】……!」
パチパチと燃える焚火をバックに、目の前に浮かぶ2枚の青透明な板を眺めて呟く。
……いつもより異常に強い『例の感覚』。
その正体は、一度に手に入った2個のスキルだったんだな。
1単元で2個もスキルを習得するなんて初めてだ。一石二鳥じゃんか。
「(……っと、それより!)」
2つも新魔法を手に入っちゃった。
……という事は、恒例の能力チェックだ!
どんな能力なのか、早速確認しとこう!
「(【状態確認】!)」
ピッ
===Status========
数原計介 17歳 男 Lv.6
職:数学者 状態:普通
HP 55/55
MP 3/48
ATK 4
DEF 14
INT 19
MND 18
===Skill========
【自動通訳】【MP回復強化Ⅰ】
【演算魔法】
===========
……MP残量が凄いことになってる。
新魔法2つ分が吸い取る魔力、とんでもない量だ。危うく魔力枯渇だったじゃんか。
まぁ、そんな事は置いといて。
ステータスプレートの【演算魔法】に触れ、魔法一覧のウィンドウを開く。
「(【演算魔法】っと……)」
ピッ
===【演算魔法】========
【加法術Ⅲ】 【減法術Ⅱ】
【乗法術Ⅳ】 【除法術Ⅱ】
【合同Ⅰ】 【代入Ⅰ】
【消去Ⅰ】 【一次直線Ⅱ】
【定義域Ⅰ】 【確率演算Ⅰ】
【解析】 【求解】
【状態操作Ⅳ】
===========
触れると同時、【演算魔法】一覧を載せた新しいウィンドウが浮き出る。
……【演算魔法】も随分と増えたな。
もう全部で13個か(【乗法術Ⅳ】等利用:2個×6行+1個 = 13個)。
さて……。
新しく手に入れた魔法、【消去Ⅰ】と【代入Ⅰ】はどんな能力なんだろう?
どーちーらーにーしーよーぉーかーなっ……と。
よし、まずは【消去Ⅰ】から確認だ。
「……」
ドキドキと大きくなる鼓動を全身で感じつつ、【消去Ⅰ】の文字に人差し指を近づける。
強い魔法は大歓迎。
チート級なら尚更だ。
「(さぁ……来いっ!)」
そう呟き、人差し指を【消去Ⅰ】の文字に触れた。
ピッ
===【消去Ⅰ】========
魔力を消費して、連立方程式での『加減法』『代入法』による文字の消去を高速且つ正確にこなせる。
演算能力はスキルレベルによる。
※【状態操作Ⅳ】との併用による効果
任意の対象の姿および気配を消去することが出来る。
対象が何かに触れられるか、術者または対象が意志をもって解除するまで効果は継続する。
消費MP:75
===========
……姿と気配を、消すことが出来る!?
それって…………透明化!?
「(ヨッシャァァァ!)」
真っ暗な荒野の中、独り大きくガッツポーズをかます。
うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
また凄い魔法を手に入れちゃったぞ!!
姿が消える……、つまり透明化だよ透明化!
透明人間になれちゃうんだよ!
アニメや映画、ゲームとかでよくあるヤツが、僕自身も出来るようになっちゃうんだぞ!
しかも制限時間も無いようだ。誰かに触られたり、自ら解除したりしなければずっと透明人間のままで居られるようだ!
……何でも出来ちゃうじゃんか!
こんな凄い魔法が、MPをたったの75消費するだけで――――
……ん?
消費MP、『75』?
………………全然足りないじゃんかァァァァァッ!!!
……はい。
少々気持ちも落ち着いてきた所で。
今回ゲットした新魔法のうち、1つ目・【消去Ⅰ】。
その能力は『"加減法"と"代入法"のアシストをしてくれる』、それと『対象を透明化できる』っていうモノだった。
いやぁー、またまた便利でヤバい魔法が手に入っちゃったもんだ。
とはいえ、『透明化』は残念ながら今スグに使えるってモンじゃないんだよなぁ。MP不足の問題で。
僕の現時点のMPは48。【合同Ⅰ】の『分身の術』が消費MP50。もう直ぐで念願の魔法が使えるようになる、って瞬間にまた一つ使えない魔法が現れてしまったのだ。
……残念。
でも、焦ったって仕方ない。使えないモンは使えないんだし。
もっと鍛えて、僕の最大MPが届くまでのお楽しみだな。
まぁ、そのくらいで【消去Ⅰ】の件は置いといて。
新魔法の2つ目・【代入Ⅰ】の能力確認、行っちゃいますか!
「(さて……、2つ目はどうかなー……)」
興奮を抑えながらそう呟き、【消去Ⅰ】のウィンドウを消す。
その下に控えていた【演算魔法】一覧のウィンドウから【代入Ⅰ】の文字を見つける。
「(フゥゥゥ……)」
深呼吸くらいじゃこの興奮は収まらないけど、とりあえず大きく一回してみる。
……全身のドキドキがまた大きくなる。
興奮と拍動で震える指を、青透明のウィンドウに並ぶ【代入Ⅰ】の文字に近づける。
誰かに向かって言う訳じゃないけど、さっきの言葉を頭の中で繰り返す。
強い魔法は大歓迎。
チート級なら尚更だ。
「(さぁ……二発目、来いッ!)」
そんな呟きと共に、【代入Ⅰ】の文字に指を触れた。
ピッ
軽い電子音が、僕の耳に届く。
それと同時に、目の前に現れる新たなウィンドウ。
「……」
緊張と期待でバクバク言う心臓の鼓動も気にせず、黙って青透明のウィンドウに並ぶ白い文字を追った。
===【代入Ⅰ】========
魔力を消費して、変数等への数値および数式の代入を高速且つ正確にこなせる。
演算能力はスキルレベルによる。
※【状態操作Ⅳ】との併用による効果
任意の対象に、別の姿および気配を代入して変身させることが出来る。
代入による変身が他人にばれるか、術者または対象が意志をもって解除するまで効果は継続する。
消費MP:75
===========
……姿と気配を、代入して変身させられる!?
つまり、変身能力じゃんか!
「(ヨッシャァァ!)」
真っ暗な荒野の中、再び大きくガッツポーズをかます。
うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
【消去Ⅰ】に続いて、またまた凄い魔法を手に入れちゃったぞ!!
変身だよ、変身!
あの正義のヒーロー達みたいにカッコよく変身してみたり、色んなスパイ達みたいに変装してみたり、色々と出来ちゃうんだぞ!
こっちも同様に、誰かにバレたり解除したりしなければずっと変身出来るようだ!
夢が膨らむじゃんか!
こんな凄い魔法が、MPをたったの75消費するだけで――――
……ん?
消費MP、『75』?
……どこかで聞き覚えが――――
…………こっちもかよォォォォォォォッ!!!
……はい。
流石に2回同じ状況が続けば、気を落ち着かせるのも直ぐだ。
という事で、ゲットした新魔法の2つ目・【代入Ⅰ】。
その能力は『計算を行う上で代入を楽チンにしてくれる』と、『変身させられる』の2つだ。
……『透明化』に続き、『変身』とは。
いやはや、こんなヤバいスキルが一度に2つも手に入っちゃうなんて。
コレが一石二鳥ってやつでしょうか?
まぁ、そんな事は置いといて。
どっちのスキルもMP不足なのが残念だ。
そこだけは悔しいんだけど、そもそも『透明化』に『変身』、しかも効果継続には条件こそあれど時間の縛りが無いという超ハイスペック魔法だ。
僕が言うのもなんだけど、他の【演算魔法】とは一線を画すズバ抜けた強さ。
MP75って言われても、僕はそれ以上贅沢を言いません。
……けどまぁ、果たして使えるのは何時になるんだろう?
…………魔王を倒す時までには間に合うと良いな。
連立方程式、恐ろしや。
色々と美味しい単元だった。
あぁ、連立方程式といえば。
練習問題、やらなきゃ。
危うく【演算魔法】フィーバーでやり忘れちゃうところだったよ。
「(……よし、B問題(10)、終わりっと!)」
ペンを紙の上に置き、参考書をパタッと閉じる。
「(フゥゥゥゥゥ…………)」
腕を真っ直ぐ挙げたまま、岩肌の地面に仰向けになる。
見上げれば、空全体を覆う星空。
色んな色や大きさの星が無数に並んでいる。
……轟の言っていた、小学校の林間学校のアストロハウスを思い出すよ。
……さて。
仰向けになっているうちに、眠気も襲ってきた。
どうやらさっきまで頑張ってくれていた僕の脳みそも、そろそろお休みしたいご様子。
じゃあ、寝ますか。
「(ょいしょっ)」
仰向けから起き上がり、紙とペン、[参考書]をリュックに仕舞――――
パカラッパカラッパカラッ……
パカラッパカラッパカラッ……
「ん?」
ふと、遠くから聞こえてくる音の方を向く。
方角は、東街道の王都側。
静かな荒野に響く、リズミカルな音。
その音と共にユラユラと揺れる、小さな灯り。
リズミカルな音に紛れて時々聞こえる、人の喋り声。
……こんな夜も10時を過ぎたというのに、まだ東街道を走っている人が居るのか。
誰だろう?
そんな音と灯りと声は、物凄い速さでこちらへと向かって来る。
パカラッパカラッパカラッ……
パカラッパカラッパカラッ……
「ほら見ろ! やっぱり輸客の馬車、居ただろ!?」
「本当だ。先輩の言った通り、コプリの町に泊まらなくて正解でしたね」
「ヘッ、ベテラン早馬の勘を甘く見られちゃ困るな」
「さすが、コバト先輩です」
「おう。リアンも早く一人前の早馬商人目指して頑張れ」
「はい」
近づいてくるにつれ、男女2人声が段々と聞こえるようになってきた。
……早馬、かぁ。何か至急の荷物でも運んでいるのかな。
「おーい、ココに居んのは輸客馬車の御一行かー?!」
「先輩、声が大き過ぎます。もっと抑えて」
「(あぁ、済まねえリアン)」
そう叫びつつ焚火の辺りまで寄ってくる、2人の男女。
焚火に照らされて初めて見えた2人の姿は、『軽装の馬乗り』。
細マッチョな先輩・コバトと、彼より少し背が低いリアン。
2人は揃ってパンパンの小さなリュックに、小さなナイフと革の防具だけを身に着けている。
『必要最低限』、って感じだ。
……そんな輸客馬車の一行で起きているのは、僕しか居ないようだ。
轟も起きてないし、面倒だけどとりあえず僕が対応しとこう。
「(……どうも)」
立ち上がってそう言うと、2人は馬から飛び降りる。
「(よお。アンタが輸客馬車の御者さんか?)」
「(い、いえ。乗客です。御者はこの隣のヤツが)」
「(あら。寝ちゃってますね)」
「(そうかー……まあ、起こすのも可哀そうだし)」
……なんか僕達に用でもあるのかな。
「(ところで、何か僕達に御用でも?)」
「(ああ、いや。御用っつうか……簡単に言うと、『一晩、俺達も焚火に当たらせてくれ!』って感じだな)」
「(簡単過ぎます)」
成程な。
……簡単過ぎるけど、言いたい事は分かったよ。
「(私達はテイラーからフーリエへと速達荷物を運ぶ早馬商人で、こちらが先輩のコバト)」
「(おう、宜しくな)」
「(で、私がリアンと申します。突然の事で申し訳ないのですが、今夜一晩だけ一緒に焚火の下で休ませて頂きたいと思っております。不躾なお願いだとは分かっているのですが、宜しいでしょうか?)」
しっかり者の女性後輩、リアンの丁寧な説明。
……いやいや、ココまで来て『ダメです』なんて言えないでしょ。
こんな真夜中の荒野に2人を放っぽり出すなんて。
フンーッ!
フンーッ!
フンーッ!
……馬の鼻息が凄い。
滅茶苦茶疲れてるじゃんか。
尚更断れないよ。
……選択肢は元から一択だった。
「(……僕は飽くまで乗客の一人なんでどうとは言えませんけど、良いんじゃないですかね?)」
きっと轟も『勿論なのデス! 困った時はお互い様なのデス!』って言うんだろうなって想像しながら、答えた。
「(済まねえな、こんな夜遅くに! ありがとう!)」
「(ありがとうございます)」
「(いえいえ)」
……という事で。
勉強も終えて本格的に眠気に襲われてきた僕は、コバトとリアンと一緒に眠りに就いた。




