12-6. 合図
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タイトルを『合図』に変更
さて。
『その場に居合わせた』ってだけでエメラルドウルフ討伐隊に仕立て上げられてしまった僕達だが、あの後マッチョ兄さんから作戦を教わった。
……まぁ、よく考えられてるなって思ったよ。
流石はギルドの職員さんだ。
そして今。
未だに敵襲の3点打鐘は続いている。
ウルフ達も門をこじ開けようと体当たりを続けており、外壁には小刻みな揺れと音が伝わって来る。
だが、そんな東門は未だに健在。
マッチョ兄さんの言った通り、扉が曲がったり歪んだりしたところも見られない。
「だが、エメラルドウルフの風系統魔法にはそう耐えられるモンじゃないからな。狂科学者先生、嬢ちゃん、それだけは阻止しろよ」
「はい」
「もっちろーん!」
それを外壁の上から眺める3人。
監督と僕、コースだ。
東門から50メートルほど離れた所に居る。
「あとは、さっき伝えた作戦通りだ。頑張れ、お前ら!」
「「はい!」」
さて、マッチョ兄さんの作戦はこうだ。
なんとかしてエメラルドウルフを撃退しようにも討伐しようにも、まずは近接組のシン、ダン、アークを門から出させたい。
のだが、肝心の門は開けられない。カーキウルフの体当たりを受けているし、入って来られても困るからな。
勿論、外壁から飛び降りるのも無理だ。
そこで僕達、魔法組の登場。
僕達が外壁の上からエメラルドウルフに魔法攻撃を仕掛け、門から気を逸らさせる。
エメラルドウルフとカーキウルフがこちらへと気を向けたら、その隙に門をちょっとだけ開門。下に待機させたシン、ダン、アークを門から出させる。
そっから先は……『あとは適当に頑張れ。お前らのアホみてえなステータスならなんでもやり放題だろ?』だそうです。
マッチョ兄さんの作戦は以上だった。
……肝心のエメラルドウルフをどう攻略するかは教えてくれなかった。
そこが知りたかったのに!
まぁ、無いのなら仕方ない。
僕達は僕達の出来る事をやるだけだ。
「さて、それじゃあ後はシン達の準備が出来るのを待つだけだな」
「うん! シン達の準備が出来たら作戦スタートなんだよねー?」
「あぁ」
そう言い、外壁からシン達の居る東門広場を見下ろした。
☆
ムキムキのギルド職員さんから作戦を聞いた私とダン、それとアークの3人は、外壁を下りて東門の前に立っています。
目の前に聳え立つ東門からは、未だにドンドンと音が響いています。
あの扉の先では、きっと沢山のウルフが門を破らんと体当たりを続けている事でしょう。
……まさか、私達だけであの相手をしなければならなくなるなんて。
ハァ…………かなり緊張します。
相手は大量のカーキウルフと、その上位であるエメラルドウルフ。
南門襲撃事件のウッドディアーや、洞窟最深部でのセットとの戦いとは格が違います。
もし失敗なんかしたら、良くても大怪我。
最悪の場合では、私達3人が全員————
「おい、シン。お前緊張してんのか」
「ッ! ……ダンですか」
突然両肩を掴まれ、驚きました。
「緊張すんな」
「そうそう。わたし達も一緒に居るから。大丈夫よ」
「……は、はい」
「それに、外壁の上には先生とコースも居るわ。色々サポートしてくれるでしょ?」
「相手も強えだろうけど、こっちだってアークが仲間になったんだ。そう考えれば大丈夫だろ?」
「だから落ち着いて。ね、シン?」
ダンとアークがそう言って、私の緊張をほぐしてくれます。
……そうですね。悪い方より良い方に考えましょう。
「……ハイ! 気楽に行きましょう!」
さて、ダンとアークのお陰でそれなりに気も楽になってきました。
先程職員さんが仰っていた、作戦を思い出します。
東門の目の前は私達3人が並んでいます。
その後ろに、東門を囲むようにして門番さんが並びます。万が一数頭のカーキウルフが入って来たとしても、それなりに対処してくれる手筈です。
更にその後ろにはヤジウマ達。私からすれば早く逃げて欲しい所なのですが、仕方ありません。皆さんには自己責任でお願いしましょう。
私とダン、アークは指示通りの位置に着きました。
後は先生とコースに合図を送れば、作戦が開始します。
「ダン、大丈夫ですか?」
「勿論だ」
そう言い、ダンが背中から大盾を取り出します。
腰を下ろし、ズッシリとしたいつもの構えです。
「アークも大丈夫ですか?」
「ええ」
アークも背中から槍を取り出します。
右手に槍を、左手の掌に炎を浮かべます。
ダンとアークの準備は完了したようです。
「スー…………フゥー…………」
改めて深呼吸。
そして、右手で腰に差した剣を抜きます。
よし、私も準備完了です。
いつ門が開いても、大丈夫。
「それでは」
外壁を見上げ、水色のローブと白衣に向かって大きく手を振りました。
☆
「あっ、シンが手を振ってるよー!」
「よし、そんじゃ始めるか!」
「狂科学者先生、宜しく!」
「はい!」
さて、全ての準備は整った。
作戦開始だ!
東門から50メートルくらい南の地点から、エメラルドウルフを見下げる。
「コース、水をよろしく」
「はーい! 【水源Ⅵ】!」
そう唱えると、僕の目の前に水の球が現れる。
水の球に手を突っ込む。
ちょっと冷たい。
……あぁ、そうだ。
「【乗法術Ⅲ】・INT4、【加法術Ⅲ】・INT30!」
「おっ! 先生、ありがとー!」
「おぅ」
僕とコースのINTをステータス強化するのも忘れない。
これで準備は完了だ。
「よし。準備はいいか、コース?」
「うん! エメラルドウルフの気を引けば良いんだよね?」
「あぁ、そうだ」
頭の中で、エメラルドウルフの注意をこっちに向けさせるイメージを再生。
……よし、オッケー!
視線はエメラルドウルフの頭に向ける。
そのエメラルドウルフは東門の方を向き、こちらには全く気付いていない。
「行くぞ、コース!」
「はい!」
……せーのッ!
「【水線Ⅳ】!」
「【直線比例I】・{-1/5}!」
そう唱えた瞬間、2本の水の直線が外壁の上から飛んだ。
1本はコースの魔法、もう1本は僕の水系統・演算複合魔法、水鉄砲。
平行に飛ぶ2本の水のレーザーは、そのまま近づくことも遠ざかることもなく真っ直ぐに進み。
エメラルドウルフの頭めがけて飛んでいく。
「行けッ!」
「当ったれー!」
東門から50メートル離れた所で放ったにも関わらず、2本の水のレーザーは瞬く間にエメラルドウルフに迫り。
エメラルドウルフの左こめかみに直撃した。
「ヤッター! 当たったー!」
「でもまだだ! 意識をこっちに向けさせないと!」
「あぁ、そうだったそうだった」
そのまま水のレーザーはエメラルドウルフの毛皮に当たり、散らばっていった。
……さぁ、こっちを向いてくれ、エメラルドウルフ!
グルルッ
水のレーザーを受けたエメラルドウルフは、突然の事態に驚いて小さく唸り、目を瞑る。
カーキウルフ達も、いきなり首領が襲われた事に驚きを隠せないようで脚が止まる。
一瞬、ウルフ達の動きが止まった。
そして、エメラルドウルフは僕達の方に顔を向けた。
キリッと鋭い眼でこっちを睨み、牙を軽く剥き出した。
「「うっ……」」
こんなに距離が離れていても、威圧感を感じる。
……コースと2人してちょっとビビった。
……だが、それでも構わない。僕達の使命は、エメラルドウルフの意識をこっちに向けさせる事。
そして今、エメラルドウルフは東門から目を逸らした!
今だ!!
「マッチョ兄さん!」
「おう。……開門ーッ!!!」
僕の隣に立つ監督が、東門に向かって全力でそう叫んだ。
行け、シン! ダン! アーク!!




