10-6. 槍
さて、無事アークの乗車許可も貰えた。
という事でシーカントさんは御者席に、僕、シン、コース、ダン、それとアークの5人は荷台に乗り込み、馬車は再び西街道を走り出した。
荷台は元々大人の冒険者5人が乗れるスペースを取ってあるので、アークが1人増えても問題無く全員座れる。
というか、シン・コース・ダンは中学生、僕とアークは高校生くらいの歳なので、皆大人の冒険者よりも小柄。
スペース的には5人乗っても寧ろ余裕がある程だ。
「さっきはありがとう。MPポーションやご飯も頂いちゃって……本当に、もう駄目かと思ったわ」
「いえいえ、アークさんが無事で何よりです」
「そーそー!」
「だからそう気にすんな。アークさん」
ガタガタと馬車の上で、改めてアークがお礼を言う。
ちなみに、さっき僕がMPポーションと缶詰を分けてあげた。体力も魔力も残り僅かだったらしいアークは、凄く喜んで飲むなり食べるなりしてくれた。
……あんなに喜んでくれるとは。分けた側としても、少し嬉しかったよ。
「うん……あと、わたしの事はアークって呼んで。『さん』は要らないわ」
「うん、分かった!」
「おう!」
「……で、ですが、年上の方を呼び捨てになんか————
「良いの」
シン、お前どこまで真面目なんだよ。
「……分かりました。アーク、よろしくお願いします」
「うん、シン、コース、ダン。こちらこそ宜しくね」
そう言って、アークと学生の4人がお互いに微笑む。
「ケースケも、宜しくね」
「おぅ。こちらこそ、アーク」
まぁ王都までとはいえ、4日間一緒に旅をする仲間だ。
よろしくな、アーク。
そんな感じで自己紹介的な物も終わると、今度は雑談が始まった。
まぁ、雑談と言ってもコースとアークのガールズトークだ。僕とシン、ダンはお門違いのようで、黙って見張りをしているだけだ。
「ねーねー、そういえばアークって王都に何しに行くの?」
「え、ええと……目的は特に無い、かな」
「へー! じゃあ、気ままに一人旅してたんだー!」
「……ま、まぁ、そんな感じね。危うく死にかけたところだったけど」
ふーん、一人旅か。
シン達みたいに『修行の旅』でもしてんのかな。
「実は私たちも旅をしてるんだー。シンとダンと、それから先生の4人でね」
「ふーん。4人旅か……楽しそうね」
「もちろん! でも、アークも今日から仲間! 王都までは私たち5人旅だよー!」
「うん、ありがとう。嬉しいわ」
そう言って、2人でハイタッチ。
だいぶアークも馴染んでくれてるようだな。
「ところで、コース達が先生って呼んでるのは、ケースケの事なの?」
「うん、そうだよー。 王都で出会ってから、ずっと一緒なのー!」
「(……こんな事言いづらいんだけど、あんな血塗れの白衣を着た人、大丈夫?)」
アークが何やらヒソヒソ話している。
……あぁ、そういえば僕の白衣、結局血痕が取れなかったんだよな。
魔物の血じゃなく僕の腹からの出血だったから、散魔剤じゃ取れなかった。
改めて僕の着ている白衣を見回すが、腹部から下が赤黒く染まっている。
……まぁ、こんな血塗れの白衣着てちゃ、単なるアブナイ人だよな。
見た目ヤクザなシーカントさんよりアブナイ。
「大丈夫大丈夫! 先生はいつもあんな感じで血塗れだからー!」
「そ、そうなの……?」
「うん! しかも王都じゃ血に塗れし狂科学者なんて呼ばれてる有名人だし、安心して大丈夫だよー!」
「……そ、そうなのね」
……くっ。
コースにボロクソ言われてるけど、この姿じゃ反論出来ない。
頼むから、あんまり変なこと吹き込まないでくれぇっ!
「ところで、コース達は王都に何か用でもあるの?」
「ん? えーと、私たちはー…………あれ? 今後の予定忘れちゃった。ねーねーシン、私たち、次何するんだったっけ?」
えぇ、もう忘れちゃったの!?
「王都経由で、港町・フーリエに行くんですよ」
「なるほど、それじゃあ王都は通り過ぎるだけなのね」
「そーそー!」
「それで、フーリエで何かするの?」
「えーっと………………ねーねーシン、私たち、フーリエで何するんだったっけ?」
……コースよ。
全然覚えてないじゃんか。
「フーリエの周辺で魔物を狩って、もっと鍛えようと思っています」
「なるほど。確かに、フーリエの周辺の砂漠なら手強い魔物がいるわ。コース達みたいに良い腕を持ってる冒険者なら、草原よりも狩り甲斐があるかもね」
「えぇっ…………いやそんな、恥ずかしいよアークゥッ! 私たちなんてマダマダだよーッ!」
顔を両手で覆ってメチャクチャ照れるコース。
……そういえば、こんな姿のコースを見たのは初めてかもな。
「それじゃあ、私からもアークに聞いていいー?」
「ええ、どうぞ」
「えーっと、それじゃあ……さっきは何であんな街道から離れたトコに居たの?」
あぁ、あのカーキウルフに襲われた時の話だな。
そういや、街道から物凄い遠くだったな。僕達が助太刀に間に合うかどうかって距離だったし。
「あぁ、それね。……最初は街道を歩いていたんだけど、昨晩野宿していたらカーキウルフに追いかけ回されてね。なんとか逃げ回りながらもこの槍で倒したの」
アークが槍に右手を掛けてそう話す。
「おぉー! アーク、カッコいいー!」
「ありがとう。だけど、気づいたら何処とも知れない草原に居たの。そのせいで良く寝れなかったから、今日は体力も魔力も切れちゃってあんな事に……」
成程ね。
逃げ回ってたうちに、街道を離れてしまった、と……。
そりゃ災難だったな。
「そういえば、アークの武器ってその槍なんだよねー?」
「ええ。小さい頃から使ってる、相棒みたいな物ね」
「ふーん…………キズだらけだねー」
そう言って、アークが槍の柄を撫でる。
さっき表面に付いた血や汚れは拭き取っていたけど、所々に刻まれた傷がアークとの絆を感じさせる。
……けどさ、コースの言い方よ。
もう少し言い回しを変えられないのか?
「まあね。それだけ、コレとは一緒って事かな」
「それじゃあ、アークの職は『槍術戦士』なんだねー!」
「いえ、『火系統魔術師』よ」
「「「「えぇ!?」」」」
アークが放った驚きの一言。
馬車周りの見張りをしていた僕達も、思わずアークの方を振り向く。
「それ本当なのー!?」
「そうよ」
マジで!?
どういう事だよ!?
アークの見た目は、ボロボロだけど『戦士』
得物には先が十字形の槍、服はまぁ私服って感じだ。
アークは防具を身に付けて無いようだけど、まぁ僕も『麻の服』に『白衣』だけなので人の事は言えない。
ローブや魔法の杖っぽいものは見当たらず、アークの外見に魔術師要素は無い。
なのに、『火系統魔術師』なのか……。
槍を持つ魔術師、なんて人も居るんだな。
「珍しいですね。護身用のナイフ等ならともかく、魔術師が大きな武器を扱うのは」
「俺は見た事無えな。職に逆らった戦い方をする奴なんて……」
「えー、変なの」
いやいやコース。
だから言い方変えなさい。
「フフッ、コースも『変なの』って思うよね。それは良く言われたわ。でもわたしは槍が一番しっくりくるの」
「そうなんですか……」
「まあ、俺らが口を出すモンじゃねえよな。戦い方は人それぞれだし、アークがそれで良いって言うならそれで良いんだろうな」
そうだな。
アークの好きなようにやれば、それで良いよね。
「魔術師だから武器はダメ、って決まりは無いですしね」
「そう言ってくれると嬉しいわ。……まあ、本当はわたしも『槍術戦士』だったら良かったとは思うけど」
……その気持ち分かるよ、アーク。
職は一度授かると、他の職に授かり直してもらうってのは出来ないからな。
どうせなら職は火系統魔術師より『槍術戦士』の方が良かったよな、きっと。
僕もどうせなら『数学者』なんかよりも何かの戦士の方が良かったしな。
そんな感じでアークの衝撃発言について考えてる時。
「おい、敵襲だ! 進行方向左、またカーキウルフの群れがコッチ来るぞ!」
見張りをしていたダンがそう叫ぶ。
「承知!」
シーカントさんがそう返し、馬車が減速する。
馬車の左を見れば、そこにはさっきと同じくカーキウルフの群れが迫って来ていた。
よっしゃ、また来たなカーキウルフ!
何頭来ようと僕達が撃退してやるよ!
すぐに馬車は止まり、ダンが馬車から飛び降りる。
「よっしゃ、行くぞシン! コース!」
「はい!」
「うん! アークも行こう!」
「え、ええ。分かったわ!」
……ん!?
アークも参戦するのか!?
そんな驚いてる間にも、アークはコースと一緒に馬車を飛び降りてしまった。
……あぁ、そうですか。アークも一緒に狩るのな。
まぁ、人数は多い方が良いし、それにアークの戦い方も見れるかもしれないし。
よし、そんじゃあ僕も。
「さぁ、やるか!」
そう言って僕も馬車を飛び降りた。




