8-4. 乱戦
風の街・テイラーから北に徒歩半日。
街道から外れた、草原のど真ん中。
岩肌が露出し、地面に穴が空いた洞窟。
そこに出来た、迷宮の最下層。
広間の中央、銀色線で引かれた魔法陣の中に居る人間は、怪我人も含め30人弱。
対してその周囲を囲むのは、骸骨仮面を着け槍を構えた男、無表情なまま弓を携えた金髪の女。
そして、変化により無数に現れた、骸骨仮面を着け槍を構えた騎士。
その戦いが、今始まった。
僕らを守るように円状に並んだ戦士達の間からは、セットの掛け声と共に無数の騎士が迫る。
戦士も得物を構え、魔術師も魔法を唱え始める。
変化によりセットの姿となった無数の騎士がこちらへと迫り、徐々に包囲の輪が縮まる。
戦士達との距離も詰まって行く。
そして————
「ウォラァッ!」
「フンッ!」
「ハァァッ!」
「【火線Ⅷ】!」
「【嵐放射Ⅴ】!」
「【氷放射Ⅲ】ッ!」
ザシュッ!
カンカンッ!
ガキンッ!
ボオオォォォォォッ!
ヒュウウウゥゥゥゥ!
ダダダダダダダダダッ!
僕達の周りで、乱戦が始まった。
突き出された槍を剣で捌き、そのまま斬りかかる。
盾で槍の突きを受け、そのまま押し返して騎士の槍を手放させる。
大きく一歩踏み込んで腰を下げ、斧を横に薙ぐ。
真っ赤に燃え上がった紐のようなレーザーが、迫る騎士達を真っ二つに斬り落とす。
陽炎の如く景色を揺らめかせる程に細く束ねられた風が、騎士達の腹に風穴を開ける。
大量の氷の塊が物凄い勢いで騎士達に突き刺さり、血を噴き出させる。
「……す、凄い」
「強ぇ……」
文字通り死ぬ気で、僕達の為に命を懸けて戦っている戦士と魔術師。
僕達はその背中しか見ることが出来ないが、その強さは十分過ぎる程に感じた。
相手の攻撃を躱し、避け、受けつつ、しかし攻撃の手も緩めない。
数騎を同時に相手するその姿は、まるで目が幾つも付いているかのような錯覚を覚えさせる。
「ハッ、敵が皆同じ姿だなんて、気味が悪いぜ!」
「行動パターンが同じなんだよ!」
赤熱する線が敵を次々と焼き斬り、可視化する程の風が敵を貫き、大量の氷が敵に突き刺さる。
敵も倒れた騎馬の山を踏み越えて次々と迫り来るが、戦士達はそれさえも倒れた騎馬の山へと還す。
そして斬られ、貫かれ、地に横たわる騎士は次々と変化が解除されていく。
ボフッという音と煙と共に、セットの姿から狸のような姿の魔物、フォレスト・ラクーンに戻っていく。
「ウッドディアーの足元を狙え! 落馬を誘うのだ!」
乱戦の中、プロポートさんがそう指示を出す。
直後、戦士・魔術師達の狙いがウッドディアーの足元に変わる。
すると、騎士を倒す勢いが目に見えて速くなった。
変化セットの槍を躱し、ウッドディアーの前脚を斬り落とす。
ウッドディアーは斬り落とされた痛みとバランスを失った事で、思わず横に倒れる。
騎乗する変化セットは落馬。
その隙を戦士は逃さない。
変化セットを、ウッドディアーもろとも一突き。
変化セットはボフッと狸姿に戻り、そのままウッドディアーと共に事切れる。
「こりゃ楽な戦いで良いなぁ!」
「このまま全滅させるわ!」
攻撃の勢いは衰える事無く、戦士と魔術師は更に調子付く。
戦士と魔術師が戦っているすぐそばには、ウッドディアーとフォレスト・ラクーンの死体が積もって出来た丘が作られていた。
魔物の血で真っ赤に染まったその丘を踏み越えて変化セットの騎士は次々と襲ってくる。
しかし、ここで魔物側にも想定外の事態が起こる。
「うぉっ、何だ!?」
「コケたのか!?」
そう、丘を越えて襲って来る魔物が続々とバランスを崩し始めたのだ。
死体が積もり過ぎた丘は、体重を掛ける度に足元の死体同士がずれ動く。
更に、噴き出した血が潤滑剤となって足を滑らせる。
騎士達が丘を越えて戦士・魔術師のもとに到着した時には、既に構えをを崩していたり、落馬していたりだ。
そんな落馬した変化セットを後続の騎士が踏み越えて行き、また一つ死体が作られる。
そして踏み越えた騎馬も体勢を崩して落馬、変化セットがまた後続の騎士に踏み潰される。
その繰り返しだ。
「ど、どうなっているんだ!?」
そんな自滅行為とも言える事が各所で起こる。
戦況はゴチャゴチャだ。
もう何が起きているのか分からない。
敵が自滅してくれるのは有難いが、突然の事態に状況が掴めない戦士・魔術師達も動揺。
動きが鈍る。
「気にするな! 襲い来る敵を倒し、勇者様方を守り抜き、皆で迷宮を出る! 俺達がするのはそれだけだ!」
「「「「「おう!」」」」
しかし、そこでプロポートさんが全員に鼓舞。
それを受け、戦士・魔術師達も動きが戻った。
それどころか、守るべき対象を再確認したからであろう、動きが格段に良くなった。
「ゥオラァオラァ!」
「トラァッ! 幾らでも掛かって来い!」
「勇者様に手は出させねえっ!」
「【嵐放射Ⅴ】!」
魔物を倒す勢いは衰える事が無く、死体の丘は更に高く積もっていった。
だが、人の集中力にも限界があるものだ。
ブスッ!
「ガハアアァァッ!!」
突然上がる悲鳴。
戦士、魔術師、勇者の全員が悲鳴の上がった方を振り向く。
そこには。
騎士が黒い槍で魔術師の左肩を突き刺していた。
変化セットが、左肩に突き刺さる槍を引き抜く。
「ゥアアアアアァァァッ!!」
槍を抜いた傷口からは血が噴き出す。
苦悶の表情を浮かべながらも右手でそこを押さえる魔術師。
「おい、大丈夫か————
すかさず隣に居た戦士が声を掛ける。
のだが。
ブスッ!
「…………え?」
変化セットの騎士達に一瞬の隙を見せた瞬間。
左腹を槍で貫かれていた。
戦士が震えつつゆっくりと視線を下げ、腹を見る。
自分の腹に刺さった槍を見る。
「ゥワアアアアァァァァァァァ!!」
戦士が次々と負傷し始めたのだ。
……マズい事になった。




