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第075話・ダンジョン攻略しました


 ◇◇◇


「あれ、ここの階層のボス部屋、なんだか今までと扉の豪華さが違いますね」


 階層を進み続けて三十階層目に入ったところで、一番奥のボス部屋の扉が一際豪華になりました。


 しかも別の部屋にいるモンスターを倒して何本もカギを集めないと扉を開くことができない仕掛けになっていて、今までのボス部屋とはどうにも趣きが違います。


 これはひょっとして。


「お嬢様、もしかしてこの階層に、このダンジョンのラスボスがいるのかもしれませんよ」


 そうと分かればさっそく行きましょう。


 最短ルートでボス部屋の前に来て、カギのかわりに結界壁で鍵穴を満たして無理やり回してこじ開け、ボス部屋に突入します。


 部屋の中央には、頭にねじれたツノが生えている小柄な男性がいました。


 ヒツジっぽいというか悪魔っぽいというか、両側の側頭部からツノを生やした男性は、怒り狂ったような表情を浮かべています。


 あれが、ラスボスなのでしょうか。


「貴様……!! よくも俺様自慢のダンジョンを無茶苦茶にしてくれたな! そこの扉のカギも無理やり開けやがって! このダンジョンをここまで大きくするために、俺様がどれだけ骨を折ったと思っているんだ……!!」


 ほほう、なるほど。


 しかしそれは、僕が悪いんですか?


「お言葉ですが、結界術の要素を用いてこの空間を創り出しているというのに、他の結界術への対策がほぼなされていないというのはどうかと思いますが」


 ちょっと押したら簡単に侵蝕できましたよ?


 こんなもん、押すな押すなと言っているリアクション芸人みたいなものじゃないですか。


「やかましいわクソガキ! ダンジョン全てを満たすような巨大な結界を作れるレベルの結界術など見たことも聞いたこともないわ! なんなのだ貴様の結界術は!? 意味の分からん出力しやがって!!」


 そんなこと言われましても。


 というか、うーん。

 この人(人? 悪魔? ラスボス?)、わりと普通に会話できますね。


 今までの黙って襲いかかってくるモンスターみたいな連中とは少し毛色が違うのかも。


 ちょっとお話してみましょうか。

 もしかしたら、相互理解ができるのかもしれません。


「貴方は、こんなに大きなダンジョンを作って、いったい何がしたかったのですか?」


「ああ゛っ!? 決まってんだろ! 地上に強いモンスターを溢れさせて支配し、俺様たち悪魔の帝国の植民地にするんだよ! そしてお前ら人間どもは全員俺様たちの家畜として飼い潰してやるんだ!」


 あ、全然ダメですね。

 まるきり人類の敵って感じです。


 言葉は通じるけど会話にはならないやつです。


 お嬢様、どうします?

 何か他にお聞きしたいことはありますか?


「……ダンジョンデーモン。初めて見たわ。なんと禍々しい魔力かしら……」


 お嬢様?


 あれ、他の皆さんも、なんだか顔が引きつっていますね。

 どうされました?


「せっかくデカくて美味くて扱いやすい生き物をわんさと喰らってここまで大きくしたってのに……! くそぅ、なんだって貴様みたいな無茶苦茶な奴がこんな森の奥深くにいるんだ。ここは人間どもがやって来ない秘境の地じゃなかったのか!」


「……もしかして、貴方がこの森のティラノ君たちを狩り回って激減させたんですか? どうりでなかなか見かけないと思いました。貴方が原因だったのですね」


 おかげでたくさん探し回って余計な時間を使ってしまったじゃないですか。


 まったくもう。


 僕は、この部屋の入口付近までで留めていた侵蝕結界を、一気に押し広げることにしました。


 なんだかもう、お話をする気も失せてきましたので。


 さくっと押し潰してこのダンジョンをクリアしましょう。


「うおぅっ!?」


 僕が結界を変形させようとしていることにラスボスさんも気がつき、慌てて結界を押し返そうとしてきます。


 お、どうやら、この部屋はこれまでの部分より結界を押し返す力が強いようです。


 今までになく抵抗感があり、思ったように僕の結界が広がりません。


「ぐぐぐ……っ! これ以上俺様のダンジョンを奪われてたまるか!」


 ラスボスさんは必死の形相を浮かべて、僕の結界を押し返そうとしてきます。


 腕相撲でお互いの腕がぶるぶる震えながら動かないのと同じような状態がしばらく続き、ラスボスさんの顔がどんどん青ざめていくのが分かりました。


「な、なぜだ! なぜこれほど魔力を込めているのに押し負けそうになるんだ! や、やめろ、これ以上は! う、うおおぉぉぉおおおおおっ!?」


 お、とうとう根負けしたのか、じわりじわりと僕の結界が押し勝ち始めました。


 侵蝕した範囲がどんどん広がっていき、ラスボスさんが少しずつ後ずさりします。


 やがて部屋の壁側まで追い込まれたラスボスさんは、頭のツノを真っ赤に光らせながら、血走った目で両手を突き出しました。


 僕の侵蝕結界との境界面に両手をつき、最後の抵抗のように結界を押してきます。


 僕は両手を合わせると。


「薄刃結界」


 真っ直ぐに薄刃結界を伸ばし、侵蝕結界に抵抗するラスボスさんの額に突き立てました。


 そしてそのまま脳天に向かって切り上げたあと、くるりと刃を返して首を切り飛ばします。


 ズパン、とラスボスさんの首が飛びました。


「がっ……!? ば、か、な……」


 驚愕に見開かれた目から急速に光が失われていき、それと同時に結界を押し返す抵抗がなくなって、僕の結界がラスボス部屋の全ての空間を支配しました。


 と、同時に。


『ぴろりろりん! ダンジョンクリア、達成です!』


 合成音声のような女の子の声が、僕の脳内に響きました。


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