第073話・ダンジョン突入しました
ダンジョン。
それは、なんかよく分からないけど地下深くとかに向けて迷路みたいに通路が伸びてるところを探索するやつ。
出てくるモンスターと戦って倒したり、変なスイッチを押して罠とかが出てきたり、宝箱を開けたらお宝が出てくるやつ。
中ボスを倒したら次の階層に進める扉が開くし、一番奥のラスボスを倒したらクリアになって、すごいお宝をもらえる感じのやつ。
皆の夢と希望と憧れが詰まった舞台。
それがダンジョン。
……で、合ってます?
ごめんなさい、僕、ダンジョンというものにはそれほど詳しくなくて、ふわっとした雰囲気でしか知らないんです。
あんまり喋るとボロが出てダンジョンに詳しい人に袋叩きにされそうなんですが、先ほどのイメージで合ってますか?
「そうね。おおむねそんな感じよ」
よかった。過激派に火あぶりにされずにすみそうです。
しかし、そんなダンジョンの入口が、この窓枠なのですか?
「窓というか、門ね。これは門扉がないタイプみたいだけど、この世界と異界を繋ぐ通り道になっているわ。ジェニカさんの亜空間格納術も、こんな感じの出入口を作るでしょう? それが常に置きっぱなしになっているイメージよ」
ほほう、なるほど。
つまりこれは、立方体だらけの世界でいうところの、地獄空間へ行くためのゲートみたいなものということですね。
で、この枠の中をくぐればダンジョン内に入れると。
先ほどから戦っている岩人形もこの中から出てきましたが、つまりあの岩人形はダンジョン産の敵モンスターということなんですね。
「エネミーとかモンスターとかクリーチャーとか、呼び方は色々あるらしいけど、基本的にダンジョン内にいるのは我々人間の敵ね。ダンジョンは、人間を中に呼び寄せて殺しにかかってくる存在よ」
なるほどなるほど。
ではでは。
「このダンジョンは、クリアしてしまったほうが良いということですよね?」
こんなところにダンジョンがあったら、おちおち蓬莱樹の枝打ちができませんものね。
中から人類の敵がわらわら出てくるのもうっとうしいですし。
「まあ、そうね。けど、一筋縄ではいかないかもしれないわ。ダンジョンの中というのはこの世界とは少し違う異界になっているから、どのぐらいの広さがあるか外からでは分からないのよ」
そうなのですか。
「では、試しに一度入ってみるのはダメでしょうか。それとも、一度入ったらクリアするまで二度と出られなくなってしまうのでしょうか」
「うーん……、原則的には出入りは自由にできるものだと言われているけど……、一方通行になっている可能性も、なくはないわね」
では試しに、足元の石ころを投げ入れてみましょうか。
それっ。
投げた小石は、揺らめく闇に音もなく飛び込みました。
跳ね返ってくることはなく、そのまま飲み込まれました。
次に僕は、落ちている木の枝の先を揺らめく闇に少しだけ沈めてみました。
枝を引き抜きましたが、枝に異常はありませんでした。
さらに僕は、枝先に火を付けてから同じように揺らめく闇に沈め、少し待ってから引き抜いてみます。
枝先の火は、変わらず燃えていました。
「ふむふむ。入るなり削り取られたりということはなさそうですし、向こう側には空気もありそうですね。こちら側に出てくることも、一応できそうです」
僕はさらに、自分の左手の小指の先を少しだけ闇の中に沈めてすぐに出してみるのを何度か繰り返した後、ゆっくりと腕全体を入れてみました。
揺らめく闇の表面から沈み込ませたとき、少しだけ抵抗があったように感じました。
この抵抗感は、覚えがありますね。
そして引き抜いた腕が無事であることを確認し、僕は揺らめく闇のようなダンジョンゲートをしばらくじっと見つめた後、意を決して顔を突っ込んでみます。
「……わあっ」
ダンジョンゲートをくぐった先には、レンガのようなものでできた天井の高い大きな広間と、そこから伸びる大きな通路がありました。
そして一体の岩人形が通路の入口前に立ちふさがり、通せんぼをしています。
僕は遠目に岩人形を観察しましたが、こちらに寄ってくる様子がなかったので、一旦後ろを振り返りました。
背後には、入ってくる時に通ったダンジョンゲートと同じものが、広間の壁にありました。
僕がそのゲートをくぐり直すと、森で待っていたお嬢様たちと合流できました。
「お嬢様。とりあえず、出入りは自由にできそうですし、同じゲートなら同じところに戻れそうです。あと、入ってすぐに大きな広間と通路、通路に立ちふさがる岩人形がいました」
見たままの状況をそのまま伝えると、お嬢様は頷きます。
「岩人形が襲ってくる様子はあったかしら」
「いえ。僕が近づかなかったからか、通路前から動きませんでした」
「それなら皆で一緒に入ってみましょうか」
僕たち五人は全員でダンジョンゲートをくぐり、ダンジョン内広間に移動しました。




