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第021話・グロリアス王国の五つの至宝


「グロリアス王国の建国は、今から三百年ほど前に遡るわ。初代国王の『チョージャーワラシベ・トゥ・グロリアス』は数々の武勇を残した精強なる武人であり、数々の宝物を作り出した稀代の装飾品職人であった」


 ……わらしべ長者?


「そして初代国王が作った装飾品の中でも特に優れていた五つの品を代々の国王が受け継いでいくようになり、今では五つの至宝は王位継承のための重要な役目を担うようになったの」


 ……もしかしてですけど、その初代国王様って、僕と同じように真力の運搬を依頼された転生者だったのでは……?


燕晴貝(えんせいがい)首飾り(ネックレス)天上鋼(てんじょうこう)王冠(クラウン)灼熱獣(しゃくねつじゅう)革套(マント)龍顎鱗(りゅうがくりん)徽章(ブローチ)、そして蓬莱樹(ほうらいじゅ)笏杖(ロッド)。これら五つの至宝のうち、少なくとも三つを継承したものが次代の王となる。今ではそういう習わしになっていて、だから兄たちは至宝を巡って争っている……、って、ナナシさん、ちゃんと聞いてる?」


 お嬢様のお顔がずいっと寄ってきて、僕は慌てて頷きました。


「ところで、私には四人の兄と三人の姉、弟と妹が一人ずついます」


 すごい。


 ハローチェお嬢様のお父様って、たくさん頑張ったんですね。


「そして母は妹を産んでから少しして亡くなりましたが、その他に義母が三人います」


 すごい……!


 王家の血を残すために、めちゃくちゃ頑張ったのですね……!!


 というか何人も奥さんがいるって、普段からめっちゃギスギスしそうじゃないですか?


 家族みんなで一緒にお風呂入ったりとかするんでしょうかね?

 しなさそうです。


「姉たちは三人とも近隣国に嫁いでいってグロリアス王国内にはいません。弟と妹はまだ幼いため、王位争いにはほとんど関わっていません。なので四人の兄たちが、次代の王座を巡って日夜勢力争いをしているのです」


 お家騒動ってやつですね。

 まぁ、内側で争えるということは、外にあまり脅威がないということなのでしょうか。


 そうでなければ、内ゲバしてる間に外から攻め込まれてコロッと滅んじゃいますし。


 あるいは、外から攻め込まれないようにお姉様たちが嫁いでいったのかもしれません。

 政略結婚ってやつですかね。


「一番目の兄と四番目の兄が緩い同盟関係で、二番目の兄と三番目の兄が強固に結託して一番目の兄を追い落とそうとしているの。で、私はどっちの派閥にもつかずにいたら、両方の派閥から攻撃されて国外追放刑になったってわけよ。もう私には王位継承権もないし、グロリアス王国に戻れば不法入国で拘束されるでしょう」


 ゴリゴリに縁を切られてるじゃないですか。


 まぁ、命を狙う刺客を送ってくるぐらいですし、よほど戻ってきてほしくないのか、お嬢様のことを警戒しているのか。


 ……おそらくは両方なんでしょうね。

 お嬢様って、優秀なお方ですので。


「今、兄たちは一人一つずつ至宝を受け継いでいて、最後の一つである蓬莱樹の笏杖は、まだお父様が持っているの。お父様が最後の一つを兄たちの誰かに譲るか、兄たち同士で至宝の奪い合いをするかすれば、次の王が決まるというわけよ」


 ふむ。なるほど。

 それならば。


「お嬢様としては、どうしたいのですか? 四人のうちのどなたかを次の王様にしたいですか? それとも、……四人の兄たちを蹴落として、自分が王座に?」


 もし、お嬢様が王座を狙うというのであれば。


 このナナシ、お嬢様の前に立ち塞がるあらゆる障害を取り除いてみせますが。


「いえ、私はグロリアス王国には帰らないわ。いわれなき罪とはいえ、お父様の名前で出た判決に逆らうつもりはないし、かといって四人の兄たちの中に応援したい者もいないし」


 そうですか。

 それなら、どのように?


「そこで、貴方へのお願いの話に戻るのだけれど。蓬莱樹の戦杖を作ったときの、枝先の残りの部分。あれを記念としてもらったでしょう?」


 はい、お渡ししました。


「あの枝を使って、()()()()杖をつくってほしいの。今度は戦うためのものじゃなくて、権威の象徴としてのものを。それを見れば誰もが平伏したくなるような、そういう杖を作ってほしいのよ」


 偉い人が持つ杖、ってことですよね。


 うーん……、デザインを考えるのはちょっと難航するかもしれませんが……。まぁ、杖自体は簡単に作れるのではないでしょうか。


「杖のデザインや使ってほしい素材はこちらで指定するから、貴方には加工全般をお願いしたいわ」


 そうですか、それなら大丈夫そうですね。


 ちなみにお嬢様は、笏杖を作って何をどうするおつもりなのですか?


「それはもう、やることなんて一つよ」


 お嬢様は、不敵な表情を浮かべました。



「私も、ゼロから国を興してやろうかな、って思ってね」



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