第11話 「無自覚」属性、発動
「あのー」
と、しばらくして追田が言ってきた。
「そこまで言うんだったら、岡崎先生、なんでちゃんと就職しなかったんですか? 兼業作家になれば良かったじゃないですか?」
俺は「パンがなければ~」のごとき無神経な発言に対して、怒りに震えながら言った。
「俺の時はですね……震災があって、メチャクチャ就職が厳しかったんですよ……!!!」
ちなみに姫乃も同様である。
だが、追田はなおも言った。
「んなこと言ったって、それから後は景気が良い時期もあったんだから、就職するチャンスはいくらでもあったでしょう? なんでしなかったんです?」
「そ、それは……バイトに執筆にと、疲れ切ってて……」
「ふーん。そんなもんですかねー?」
「ぐっ……」
まあ……珍しく、追田の言うことにも一理ある。
確かに俺は、もっと早く就職するべきだったのかもしれない。
色々と見る限り、兼業ならともかく、専業ラノベ作家なんて、ほとんど無理ゲーだ。
特に、トレンドへの最適化が出来ない作家や、固定ファンのいない新人にとっては、絶望的とさえ言えるんじゃないだろうか。
……厳しい世界、なのだ。
「と、とにかく……あとはもう一つ、付け加えることがある。姫乃に話したのと、似た話だが」
「なあに、ダイちゃん?」
「ラノベってやっぱさ、漫画と比べると、読む時に負荷がかかるっていうか、負担を感じるだろ?」
「うーん、まあ文字ばっかりだからね」
「そう。俺も自分で読んでて思うんだけど、疲れてるとやっぱ、ラノベより漫画の方が読みやすいんだよ……で、ここが重要なんだけど……ラノベだと『重すぎて読めない』って思う話でも、漫画版だと、まあ読めたりするんだよな」
「あ-、その先はもうわかったよ……ダイちゃんは重めの話が書きたいから、重めの話でも受け入れられるかもしれない、漫画原作者に乗り換える、ってことだよね?」
「そう」
で、俺は改めて、追田に向き直った。
「そういうわけで、漫画業界の方が多様な作品を受け入れてくれるし、重めの作品も、ラノベに比べれば読まれやすいんじゃないか、と思っています。だから、俺でも漫画原作者としてならやっていける可能性があると思うんです」
「もちろん『漫画なら楽勝だ』なんて思っちゃいません……でも、挑戦してみる価値はあるかと……つまり、俺はそれなりに考えがあって、ラノベ作家から足を洗うんです。軽い気持ちで、コロッと転向するわけじゃありません」
「ああ……いや……」
追田は言った。
「そういえばこれ……そういう話でしたね……なんで岡崎先生が、ラノベから漫画に移るのか、っていう……」
……忘れてたよね。
うん。気持ちはわかる。
長すぎたもんね。ごめんね。
それはそうと、俺は追田に向かって言った。
「……まあ、そういうわけなんで。今日はこれでお引き取りいただければな、と」
「……えっ!?」
追田は急にハッとなった。
「そ、それじゃあ……ほんとにもう、ラノベに戻る気はない、ってことですか?」
「ええ。ここまで長々と語れば、わかるでしょ、さすがに」
「そ、それは……!」
「?」
さっきからずっとそうだが、俺は追田が何をこんなに慌てているのか分からない。
もしかして……俺の過去作がSNSでバズったりして、急に売れ始めたとか……!?
……ないな。それなら最初に、そうと言ってくるはずだし。
「わ、わかりました……」
と追田は何やら観念したように言う。
「ラノベの話は、もういいです」
「そうですか」
「でも、下読みの仕事は受けてください!」
「?」
「『?』じゃないですよ! あなたスーパー下読みなんでしょ!?」
……は?
何をわけのわからんことを言い始めてるんだコイツは、と俺は思った。
「スーパー下読み? 何の話ですか?」
「わ、わずか二ヶ月で千本の候補作に目を通し、しかも推した作品が次々と大ヒットとか……」
「え? それぐらい、ラノベ作家なら誰でもできるでしょ?」
「……は?」
「え? 誰でもできるでしょ?」
「……ああっ!?」
「?」
「て、てめえ……ここに来ていきなり『無自覚』属性発動しやがったな!? ふざけんなよ!? ここまで来て新しい属性付け足してんじゃねえよ! もっと前に伏線張っとけよバカ野郎!」
「?」
「『?』じゃねえよ!!!!」
「あー」
と、これは姫乃が言う。
「ダイちゃんって、大学時代から無自覚系の努力家だったんですよー」
「いやそういう意味の『もっと前』じゃないよ!」
「さっきから何を言ってるんですか、追田さん?」
と俺は頭に「?」をいっぱい浮かべながら言う。
「たとえ売れないラノベ作家でも、速読ぐらいできて当たり前だし、次に売れる作品なんて、見た瞬間わかるもんでしょう?」
「お前はどこの平行世界のラノベ作家の話をしてるんだあああああ!?」
追田は魂の叫びを発した。




