42 謎のモンスターの噂
ユリスから戦略級魔法のことを少しだけ聞いてから三人は、更に進んでいく。モンスターの襲撃に何度も合うが、どれも瞬殺して行く。悠一は早く、DからCランクに昇格したいと思った。
DランクとCランクには見えない大きな壁があり、Cランクは言ってしまえば上級冒険者だ。そしてそのランクのモンスターも上級が混じり始めてくる。ユリスを除いた悠一とシルヴィアは余裕でCランククエストをこなしているので、実力は既に上級冒険者並みだ。
Cランクに昇格しても、Bランクであれば危なげなくこなせるだろう。ただ、問題はBランクに昇格した時だ。Bランクに上がれば三人はもちろんAランククエストを受注し始める。しかし、Aランクは恐ろしく強力な個体が数多くおり、三人では苦戦するほどだ。
以前ダンジョンには行った時に遭遇したベルセルクを倒すのに、数多くの冒険者がおり刀で斬り付けた時に分解魔法がそこだけに発動するようにしていたから、何とか倒すことが出来た。だが、三人だけでは苦戦を強いられるのは目に見えている。
現に前回のダンジョンのガーディアンモンスターであったダークグラディアトルを相手にした時、危うくシルヴィアとユリスが殺されそうになった。あの時謎の力が解放されていなかったら、二人はおろか自身も殺されていただろう。
「Aランクのクエストともなると、きっとマジでヤバいモンスターを戦うクエストが増えたりするんだろうなぁ……」
「その通りですよ。あと、街などに大量のモンスターが向かっている時は、緊急防衛クエストと言うのに、強制参加させられます」
「マジか。そのモンスターの規模って、大体どれくらいなんだ?」
「毎回変わりますけど、基本数十万体のモンスターがやってきますね。その街の存続に関わるクエストなので、参加しなかったら組合からの信頼度が一気に下がります。よくて降格で、最悪冒険者の資格を剝奪されます」
「うへぇ……。思っている以上にめんどくさいな、Aランク冒険者は……」
まだSランクに至っていないAランクですら、これほど厳しいクエストに出るのだ。Sランク以上ともなると、もしかしたら国家存亡に関わるクエストに参加させられるかもしれない。思っている以上に厳しいということを知り、悠一は若干顔を引き攣らせる。
ただ、そこまで行くと生活には絶対に困らない程のお金が手に入るので、ある意味魅力的ではある。そんな目的で目指す訳ではないが。とりあえず悠一とシルヴィアは、Aランク冒険者になってからの面倒なことをユリスから知り、先に進んでいく。
相変わらずモンスターは続々と湧いてくるが、全て蹴散らされて行く。数は物凄く多いのだが。
「あっ」
「どうした、ユリス?」
「いえ、組合にいる時にちょっとある話を聞きまして。今朝あの三人組に絡まれていたせいで、ユウイチさんに教えるのが遅れてしまいました」
「そうなのか。遅れたのは別に気にしてはいないよ。それで、どんな話だい?」
ユリスの話によると、最近今いるダンジョンに明らかに不相応な強さを持ったモンスターが出現したようだ。そのモンスターは体は人間に近いが熊のように大きく腕が六本あり爪が鋭く、顔は狼のようになっている。大きさは三メートル程度だが、そのモンスターは恐ろしく強い。
体が岩のように硬く、よしんば傷が付いてもすぐに再生してしまう。そして攻撃力が恐ろしく高い。このロスギデオンを収めている現領主が多くの冒険者を集めて向かさせたが、全員帰ってくることは無かったそうだ。
それどころか、そのモンスターは更に強くなってしまったそうだ。推測でしかないが、これはほぼ確実だろう。そのモンスターは、冒険者を食べ、そしてその体内にある魔力を自身の力として変換しているのだろう。
そうでなければ、倒そうと派遣された冒険者全員を倒した後、更に強くなるはずがない。実に厄介なモンスターだ。
「そんな奴がいるのかよ」
「みたいですよ。その話しをしていた冒険者の方々もそれに遭遇したようで、酷く怯えている様子でした」
数多くの冒険者を屠るほどの強さを持つモンスター、しかも恐らくは新種の物。そうなると弱点や対処方法などが分からない。もし自分たちが遭遇したら、戦いながら弱点を探し出して行くしかなさそうだ。
だが回復能力が恐ろしく高いとなると、最悪弱点があったとしても届かなさそうだ。そうなると内部から破壊するか、回復が追い付かない程の高火力の魔法で吹き飛ばすしかないかもしれない。そんなモンスターを一目見てみたいという気持ちがありながらも、出来れば会いたくないという矛盾した気持ちが心に発生する。
もしかしたらそれは、ダークグラディアトルのような、恐ろしく強い力を持ったモンスターかもしれないからだ。もしもあれと同類であるのであれば、正面から戦ってはならない。その時だけ剣士としてではなく、今現在起こせる物理現象で戦うしかない。
そうとなると悠一は、剣術から魔法を主軸に切り替え、魔法の制度を少しずつ高めていく。爆破系の魔法では自分も巻き添えを喰らってしまうので、氷を地面から杭のように突き出したり、水を魔力で高圧縮しそれを撃ち出したり、継続的に数を発生させてそれを槍の形に圧縮し、当たった瞬間に起爆したりなど、今出来ることや咄嗟に思い付いたことをした。
「なんか、魔法を使う回数が増えましたね?」
二体のトロールをプラズマの球で撃ち抜き、内部から破壊したところで、シルヴィアがそう言った。
「折角魔法もあるんだし、たまには魔法だけでモンスターをガンガン倒して行くのもありかなと思ってね」
もちろん嘘八百である。ただ先程ユリスが言っていたモンスターと遭遇した時、もしそれがダークグラディアトル並みの化け物だった時の場合の為に、付け焼刃でもいいから魔法による連続攻撃が出来るようになっておきたいのだ。
ああいった化け物を正面から刀だけで相手にするには、少なくとも今よりももっとレベルが高くなければいけない。なので今の内に刀ではなく、魔法での戦闘に慣れておいた方がいいのだ。
「そうですか。ですが、あまり無茶はしないでくださいよ? ただでさえ、一人で何でもしようとする性格なんですから」
ちょっと怒ったような、それでも物凄く可愛いシルヴィアにそう言われて、思わずドキッとしてしまう。本人は素でこれをやっているので、こうしたちょっとした仕草などでもかなり意識してしまう。無意識故に、ある意味タチが悪いのかもしれない。
少しドキドキしながら進んでいくと、索敵にモンスターの反応があった。反応からしてゴブリンと思われるが、中に大きな反応がある。
「あ、これゴブリンナイトとジェネラルが二体ずついますね」
「精度が上がるとそこまで分かるもんなんだな。俺なんか、まだ反応の大きさでしか判断のしようがないよ」
無属性の索敵魔法は、使えば使う程精度が上がって行き、達人クラスともなると姿そのものがはっきりと分かるようになるそうだ。シルヴィアは何となくではあるがそのモンスターの種類が分かり、ユリスとなるとはっきりとそれが何なのかが分かる。流石に姿そのものが分かるほどではないが。
ちょっぴりユリスのことが羨ましくなりながらも、反応があった方に向かって歩いて行く。そこには五十数体規模の群れが存在しており、ダンジョン内にいたのであろう動物を解体して生肉を喰らっていた。そのグロテスクな光景を見て、シルヴィアとユリスは顔を青くして口を手で押さえ、悠一は顔を顰める。
辺り一面に血と内臓が飛び散り、血の臭いが充満しているからだ。精神的に全くよくない。
悠一はすぐに槍を作り出し、それを持って突撃して行く。それに気付いたゴブリンたちは手に持っている肉を地面に投げ捨て、自分の獲物を手に取って向かい打ってくる。
錆が浮き酷く刃毀れをしている鉈で攻撃しようと走ってくるが、リーチの長い槍の間合いに入った瞬間に高速の突きを放ち、頭を貫く。すぐに槍を惹いてから今度はそれを薙ぎ払い、再構築魔法で氷の刃を構築し、それを放つ。
一気に数体が屠られたその直後、今度はシルヴィアとユリスの魔法が放たれる。シルヴィアの中級魔法の【ボルティックストライク】と、ユリスの【シャイニングレイ】がゴブリンに襲い掛かる。
しかし危険を先に察知したゴブリンたちは、数体倒されながらも二人の魔法を掻い潜って行く。
「五十嵐真鳴流槍術中伝―――腑畝神楽!」
前方に向かって高速の四連突きを放ち、上から振り下ろし再度突きを放ち、体を捻って右へ薙ぎ払う。七つの連撃が叩き込まれ、ゴブリン九体が倒される。その攻撃を掻い潜って来た個体もいたが、身体強化を集中させた下半身から放たれる蹴りで頭蓋が砕かれ、呆気なく絶命する。
死体を蹴り飛ばした後プラズマを利用して、それをレーザーのように打ち出す。まとめて数体を打ち抜いた後、進む先に再構築魔法で鏡を作り出し、それを反射させる。ただしそれでは戻って来るだけなので若干角度を着け、ピンボールの乱反射のようにする。そうすれば効率よく多くのゴブリンを倒せる。
瞬く間に仲間を殺された二体のゴブリンナイトと二体のゴブリンジェネラルたちは、怒りを爆発させて突進してくる。挟んで攻撃してきたので、悠一は好機だとみて誘導し始める。それに気付いたシルヴィアとユリスは、勝ちを確定した。
ジェネラルの振り下ろされてきた棍棒を躱し、ナイトの持っている錆の浮いた剣を受け流し、突き出されてきた拳を紙一重で躱し、軽く肩を押す。大振りの一撃が叩き込まれるがそれを受け流し、近くにいたナイトに当てる。
いくらゴブリンの上位種であるナイトでも、更にその上であるジェネラルの攻撃を喰らえば一溜りもない。もろにそれを喰らったナイトは、哀れ肉塊となってしまった。
更にもう一体のジェネラルが勢い良く突進してくるが、【縮地】で後ろに回り込み足に身体強化を掛けて、前に押すような感じで蹴り飛ばす。バランスを崩したジェネラルは、そのまま前に倒れていき【縮地】を使う前に攻撃をしてきたナイトに突っ込む。そしてその剣で頭を貫かれ、絶命する。
何が起こったのか理解出来ていないナイトは、ただそこで固まる。その隙に槍を投擲して心臓を貫く。素早さを活かしてシルヴィアたちのいるところに戻ると、彼女たちは魔法を放つ。強力な魔法が炸裂し、ジェネラルに大きな傷を与える。
そこに悠一がプラズマを発生し、それを利用したレーザーを心臓目掛けて放つ。放たれたそれは違わずジェネラルの心臓を貫き、生命活動を停止させる。
「さて、残りは何体だ?」
腰に下げられている刀を鞘から抜いて右手で持ち、空いた左手にもう一本の刀を構築して握る。なるべく魔法を使ってモンスターを倒して行くつもりだったが、これだけ多いと加減が難しく、下手するとあっという間に終わってしまう。
すぐに終わるのはいいことだが、もしかしたら先程ユリスの話していたモンスターと遭遇するかもしれない。それは恐らく正面から戦ってはいけない類の物なので、少しでも魔法に慣れておきたいのだ。なので、殺気からずっと魔法でモンスターを倒していたのだが、まずが多いとどうしても自分からそこに突っ込んでいきたくなる。
最近は自分は戦闘狂ではないという考えを改めてはいるが、それ以外にも五十嵐真鳴流が多対一を負う呈している流派故に、多くの敵を見ると自分からそこに飛び込んでいきたくなってしまうのだろう。
けどそれでも乱戦の中で魔法を使うように心掛けるようにと書き留め、再度突進していく。左右の刀が高度な連携で同時に振るわれ、次々とゴブリンたちが狩られて行く。ナイトとジェネラルが倒されたので」逃げようとする個体が出始めていたが、それらは氷の刃や鋼の槍によって逃げられる前に仕留めていた。
「五十嵐真鳴流二刀剣術初伝―――緋螺蜂!」
左薙ぎ、右突き、左薙ぎ、左突き、右薙ぎ、右逆袈裟、右薙ぎ、左突き、左薙ぎ、唐竹の計十連撃を叩き込む。ゴブリンはバラバラに切り刻まれ、絶命。前方から飛び掛かって来たゴブリンを、刀を左右から薙いで斬り捨てる。
そこで左の刀を分解して右手の刀を両手でしっかりと構えてから、炎属性を開放しそれを斬撃として飛ばす。一気に数体が焼き切られて行き、【縮地】をで先回りをしてもう一度炎を斬撃として放つ。
二つの炎の斬撃が交わると、そこで轟音を轟かせ爆発が発生する。もうもうと煙が舞い上がるが、そこは索敵魔法を使用してゴブリンの位置を把握し、魔法で倒して行く。シルヴィアが風魔法で煙を払い除けると、残っているのは残り数体だけだった。
残ったゴブリンたちは恐怖して逃げだしていくが、三人は当然それを許すはずもなく、魔法で倒す。五十数体いたゴブリンの群れは、たった数分で全て倒されてしまった。
「倒せたな」
「そうですね。ところで、ユウイチさんって槍も二刀流も使えるんですね」
「そういったところで習ったからね。他にも弓術とかも使えるよ。あまり得意じゃないけど」
五十嵐真鳴流は多対一を想定した流派故に、剣術や組討といったのには乱戦向けの技が多い。しかし弓術はそうではなく、悠一は一番苦手としていた。それでも一応奧伝まで使えるが、剣術や槍術よりも一段劣ってしまっている。
「さてさてさーて、こいつらはどうする? ぶっちゃけゴブリンの素材は大して使い物にならないし、こいつの討伐部位を持って帰ったところで、ジェネラル以外はあまり足しにはならないぞ?」
「そうですね……。ジェネラルからだけ討伐部位を回収して、後は燃やしてしまいましょう」
「だな。じゃあ、早速……」
悠一はナイフを取り出して、それでジェネラルの討伐部位を剥ぎ取る。他は一か所にまとめて置き、ユリスの炎魔法で焼き払う。完全に灰になったのを確認すると、三人は再び探索を始めた。
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