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74 動物園と遠足

キリンさんもゾウさんも好きです。

 ここは某県の県内で唯一の、そして周辺地域でも有数の、けっこう名の知れた動物園。

 さすがにパンダ等の世界的に希少な動物が飼育されているという訳ではないが、ゾウやキリン、レッサーパンダ等の人気のある動物や、ウサギやヤギなどの大人しい動物と入園者たちとの『ふれあいコーナー』なども備えた、癒しを求める大人から好奇心にあふれる子供まで、休日の癒しから児童の情操教育までを幅広く提供できる、人気のある動物園だ。


 当然ながら、小学校の遠足先にも選ばれる事が多い。県内の小学校では、あまりスケジュールがかぶらないよう、各校でスケジュールの調整がされているようだ。そのため大まかに春の部と秋の部に別れ、毎日のように体操帽や学校指定の帽子をかぶった小学生の小集団を見かける時期がある。


 その日もまた、小学生の小集団が動物園のあちこちで見かけられた。おそらくは遠足か課外授業などで訪れた、どこかの小学校の子供たちだろう。


「黒ヒョウは、こっちですよ。隠れブチ模様を探しましょう」

「ホントに黒いね」「暑そうだよね」


 体操服姿の小学生の女の子3人組が、黒ヒョウのオリに近寄ってきていた。たまたま近くにいた動物園の従業員は、その子供たちの様子に自然と注意を払う。危険な行動をしないか注意するとともに、迷子などになっていないか、不審者の標的になっていないかを注意するためだ。遠足で訪れる学校がある場合、園内の従業員にも大まかなスケジュールは説明されている。小さなお客さん達が問題なく楽しんで帰路につけるよう、動物園関係者は常に気配りを忘れないのである。


「変身とかできませんかね。テレパシーで話しかけたら、日本語でしゃべって返事してくれませんかねー。『お呼びでしょうか、バベル様』みたいな」

「なにそれ??」「バベルさま、ってだれ??」


 真ん中にいる金髪の女の子が、何やら変な事を言っていた。この動物園に勤続して40年を超えるベテラン従業員は、『何か懐かしい事を言ってるな』などと思う。


「黒ヒョウの姿をした、ナゾのバイオロボットを従える超能力少年が主人公のアニメがあったんですよ。ちなみに黒ヒョウ型のバイオロボは不死身で、何をどうされても最終的には平気で戻ってきます」

「黒ヒョウすごいな!!」「つよいね!!」


 どうやら昔のアニメネタ的なものに詳しい女の子だった。金髪なので両親の趣味で染めているのかと思えば、瞳の色が青かった。日本語で会話しているし、ハーフの子かもしれない。両親のいずれかが昔のアニメを大好きなのかもしれない、と思うベテラン従業員だった。


「この子の名前は……『タンゴロウ』?? 猫ですか?! まあ、ビッグキャットですけども」

「キャット?? ねこ?? 」「ヒョウってネコなの?? 」


 どうやら、看板の説明を読んでいる金髪の女の子の両親は、少し古いネタが好きなようだった。普段から昔のアニメや子供向けの歌の動画なんかを見ているのだろう。


「ちょっと前に動物番組で見たのですが、動物の分類では、ライオンやヒョウなどの『大きいネコ科の動物』をビッグキャット、その辺にいるような小さいネコ…… イエネコなんかをスモールキャット、と言って大まかに区別しているのです」

「へぇー」「そうなんだ」


 なかなか物知りな女の子だった。


「きっと暗闇では瞳が緑色に光りますよ。みつめるキャッツアイです」

「光るの?! 」「みどり色なの?! 」


 少しずつ懐かしいネタを挟んでくる。あの女の子の家では、昔のアニメばかり見ているんだろうか。両親がアニメの有料放送チャンネルでも月間契約しているのだろう。


「光るといっても、懐中電灯みたいに光が出るという訳ではなく、光を当てるとそう見える、というだけの話ですが。あと、緑色に見えたりするのは今は小さくなっている瞳の部分がそう見えるだけで、目玉ぜんぶが光るという訳ではありません」

「なんだー」「光は出ないのかー」


 ざんねんでしたね、などと言う金髪の女の子と、ちょっとガッカリした、という様子の2人の女の子達。そんな話を聞くベテラン従業員は、何となく、目からサーチライトのように光を放つ黒ヒョウの姿を想像した。なんだか昔のアニメのロボットでそういう機能を持っているヤツがいたな、とか思ってしまう。


「まあ、犬だって目が光るので、猫の専売特許というワケでもないのですが。やろうと思えば割と簡単に確認する方法もありますよ。犬によっては瞳が緑色に光ります。見た事ありますから間違いないですよ」

「へえー」「どうやって見てみたの?? 」


 そりゃ、夜中に犬に向けて懐中電灯の光を向けた、とかだろうな。


「中型・小型の犬なんかは、座敷で飼っていると冬には寒がりになる傾向があります。ストーブ前なんかを占領するようになります」

「ふんふん」「そうなんだ」

「コタツを出すとコタツの中に入るようになり、布団で寝ていると『オイラも中に入れろ』と、飼い主の布団にもぐり込んで来るようになります。そこで犬がコタツや布団の中に入ってしばらくしたら、布団を少しだけめくって明かりがほんの少しだけ入るようにして、犬の名前を呼ぶとこっちを向くので、目が光っているのを確認する事ができます。犬が光に対して真正面を向くように仕向けるのがコツです」

「カンタン……?? 」「カンタンかなぁ?? 」


 コタツ犬とか、それ完全に室内犬を飼ってる人間の経験談だな。あの子の家では間違いなく室内犬を飼っているに違いない。話している内容が経験則すぎる。あと、犬のしつけが適当だという事も分かる。ちゃんと犬は犬の寝床で寝るようにしつけるのが、正しい飼い方なんだぞ。


「よそに行きましょうか」

「行こう行こう」「ブチもようも見あきたしね」


 女の子達は去っていった。


※※※※※※※※※※※※


「その女の子、たぶん俺も見ましたよ」

「あ、私もです」


 交代で取っている昼休み、職員用の休憩室で若い同僚と話をしていると、例の女の子3人組を見かけたという話が聞けた。金髪の子を含めた女の子の3人組、という事で特徴がハッキリしていたため、特定が簡単だったという事だろう。今日の遠足の予定は1校だけだったし、間違いないと思われた。


「俺はゾウの説明をしてる時に見かけましたね」

「私は『ふれあいコーナー』で」


 やはり、小学生らしい動物巡りをしているみたいだった。たぶんキリンとかも見に行っているはずだ。


「なんか、『今のゾウさんは平和でいいですね』とか『最近のゾウさんは高度な芸を仕込まれていないんでしょうか』とか、なんだか変な事を言ってましたよ。金髪の子が」


 もしかして『かわいそうなゾウさん』の話だろうか。道徳の時間で読み聞かせでもしているんだろうか。もしかしたら国語の教科書に復活したのかもしれない。


「私はヤギのエサやりの時に見かけました。ヤギに封筒を食べさせようとしていたので、やめさせましたけど。ダメだよ、って言うと『ヤギは手紙を食べてこそではないですか??』とか言ってましたね」


 今の小学生も、ヤギが読まずに手紙を食べる歌とか習ってるんだろうか。けっこう古いと思うんだが。


「なんか、面白い子でしたね」

「午後も見かけるかな??」


※※※※※※※※※※※※



 そして午後の仕事中。例の女の子3人組を発見した。キリンの前だった。


「…………」

「くび長いねー」「くび、つかれないのかな??」


 金髪の女の子は、じーっとキリンを見ている。そんなに気に入ったのだろうか。


「……来ませんねぇ」

「何が??」「何か来るの??」

「ハトですよ。キリンの近くの柵にでも止まってくれればいいのに」

「ハトが来るとどうなるの??」「何か起きるの??」


 どうやら金髪の子は、ハトを待っているみたいだった。理由が不明だ。


「キリンはエサにタンパク質が不足していると、ときどき鳥を食べるみたいですよ。たまに注意力散漫なハトが餌食になると聞いています。そういう記事をネットで見ました」

「えぇぇ――――!!」「ハト食べちゃうの?!」

「動物なんて、体に必要な栄養素が足りなければ何でも食べますよ。ふれあいコーナーで見てきたヤギも小動物が口に入れば食べますし、いつもはドングリを食べてるリスだって鳥の卵を盗んで食べたりしますしね。いつもは草とか食べてるカバだって、飢えれば肉を食べると聞きます。あのでっかい口で、動物の子供なんて丸かじりですよきっと。野生のパンダがヤギの死肉を喰らっていたという目撃談もあります。まあパンダはもともと食肉目の雑食動物ですが」

「ギャー!!」「こわい!!」


 あの子、いったい何を友達に教えているんだ。確かにそういう事件は起きたと言うが、ウチの動物園ではちゃんと動物の食事の栄養配分には気を遣っている。キリンやヤギが小動物を襲う事などない。……はずだ。


「……あっ!! ハトが飛んで来ましたよ!! チャンス!! 」

「うわぁー!! 」「ハトにげてー!! 」


 女の子の声に、周りの大人がスマホを取り出していた。録画するつもりか。



※※※※※※※※※※※※



「ところで、大村先生」

「何かしら。山村さん」


 遠足が終わり、学校に着いて『今日はこれで終わりです』と、先生のお話が終わって解散が決まった後、山村 雪奈ちゃんが担任教師の大村 良子に話しかけていた。


「ちょっと前から疑問に思っていたのですが、どうして低学年とかの『遠足』が『バスに乗って』出かける行事なんでしょうか??」

「えぇ――」

「遠くへ足を運ぶ、もちろん自力で。だから遠足、なのではないでしょうか。実際、昔はそうでした。高学年ともなれば、学校から最低でも10キロくらい離れている芝生の多い大型公園とかへ、ひたすら歩いて出かけてゆく、一種の行軍演習みたいなものだったはずです。行きも帰りも、途中まで進めば帰り道も分からず、目的地に着くしか休む方法は無く、着いた目的地には子供が楽しめるようなモノは何もないので遊具は持参するしかない上に、着いたからには帰りも歩いて帰る他無く、帰りの道は疲労もあいまって行きよりもキツい。行きはよいよい、帰りは怖いを地で教える、緊張感を持った団体行動を教育するための体力訓練と体力確認のようなイベントだと思ったのですが。最近は子供に甘い教育スタイルとはいえ、そこら辺の公園まで歩いて出かけるべきでは?? 」

「ほら、今は車も多いし。引率の先生も大変だし。社会見学と兼用だから」

「バスで出かけたらタダの行楽ですよね?? 」

「それを言っちゃあ、おしまいよ?? 」


 ちょっと甘やかしすぎじゃないですかね。などと言う雪奈ちゃん。やはりこの子、中身が大人なせいかときどき意見が厳しいなと。そんな事を思う大村 良子だった。


「まあ、高学年の遠足に期待しておきます」

「えぇー」「楽なのでいいよ」


 そんな事を言いつつ、先生さようなら、と言って帰っていく子供たち。


 ―― 後日、遠足で出掛けた動物園の記事を、大村 良子はネットで見かけた。

 キリンが近くに止まっていたハトを捕まえようとして逃げられた、という小事件があったらしい。動画が投稿サイトに上がっていた。動画では、ざわつく音声の中、『おしい!! 』『ホントにやった!! 』『うわぁー!! 』という、何か聞き覚えのある子供の声が入っていた気がする、と思った大村 良子だった。


 あの動物園では、エサの栄養配分を見直す事にしたという事だ。タンパク質が足りていない可能性があるらしい。小さな事件はいつもどこかで起きているものだと、少し感心してしまう小学校教師だったのだった。


 なお、このニュースによって動物園は来客数が少しだけ増えたという話である。

キリンさんは人間が絶対に飼いならせない種類の動物(いう事を聞くようにならないタイプの動物)だと、どっかで見た覚えが…… 動物園に居ても、結局は野生動物なんですよね。


あと、ハトはどこに行っても捕食される系の動物ですよね。何かしらに食べられてる覚えしか無い。場合によっては子供に素手で捕獲されていたりするし。なんなんですかね、あの街中のハトの無防備さっていうのは。やっぱ非常食なんですかね……


当作品は御覧の通り、のんびり、ゆっくりとした睡眠導入剤のような日常系です。お気楽に読み流す感じで、お気楽にお付き合いください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔法の妖精ペルシャED「だいすきシンバ」の歌詞に BIG CAT PIG CAT 豚猫でもそばにいて という部分がありますけど ちゃんと意味あったんですねえあれ(無知 [一言] 行軍演習み…
[良い点] ほえ~高タンパクの餌を与えないと草食動物でもそうなるんですね。 [気になる点] 昭和のアニメネタ、私の歳だとリアルタイムでは視聴してないのですよね~ [一言] 担任の先生視点けっこう好き…
[一言] がきデカかなーと思ったけどそれはアフリカ象でした。 引っ越しセンターの方だった・・・ 遠足や社会見学で徒歩のやつ、ハズレだと思ってました。。。 費用の問題ですかね?
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