67 プチ漂流少女
2日連続の投稿になっていますが、前日分の話と連続していないので、こっちを先に読んでも不具合はありません。夏休みの1ページです。
「…… どう、しよう…… 」
「もう…… ダメだぁ…… 」
猛暑きびしい夏。夏らしい事をしたい、という気持ちで。
何か夏らしいイベントが、出会いがあるかなー。とかいう軽い気持ち。
そんな考えで、友達と二人、女二人で夏の砂浜に遊びに行って。
この時期でもクラゲの少ない、安全な海水浴場で遊んでいたのだが。
今は海岸から遠く離れた海の上。どんどん岸から離れて行っている。
これがウワサに聞いた事のある、離岸流。というモノだろうか。あたし達の乗っているレンタルゴムボートは潮の流れに乗ったのか、刻一刻と岸から離れている。ボートに取り付けられている小さなオールで頑張っているけれど、さっきから漕いでも漕いでも岸に近づけない。砂浜には監視員らしき人も居たはずだけど、あたし達のボートを気にした様子も無い。気づいていないのだろうか。それとも危機的状況にあると思われていないのだろうか。
携帯は水の中に落とす事を避けるために、コインロッカーに置いてきてしまった。友達も同様だ。こんな事ならストラップつき防水カバーに入れて、首から下げておけば良かった。あたし達は、このまま遠くまで流されて漂流して、そして…………
「あのー、お姉さん。そろそろ落ち着いて対応しませんか?? 」
声のした方向には、くすんだ金髪と青い目の、日本語を流暢に話す外国の女の子。もしかしたらハーフの子かも知れない。もっとずっと岸に近い場所で、浮き輪といっしょに浮かんでいたのを拾ったのだ。名前は知らない。
『いやー、間違って波に乗っちゃいましてね。助かりましたよ』
などと、ちょっとかしこまった風というか、変な丁寧語で話す金髪少女。そんな女の子を浮き輪ごとボートに引き上げて、適当にその辺を移動していたら、なんだか知らない間に沖へと流されていた。
「はやく離岸流から離れましょうよ」
「さっきから漕いでるのは、見てるでしょ…… 潮が速くて…… 」
「無理を言わないでよ…… 」
頑張ってるのに『はやく何とかしろ』と言われ、疲労もあって怒りを覚える。それでも子供相手に怒鳴り散らさなかった自分と友達を、褒めてやりたいくらいだ。
「ですから落ち着きましょう。進むべき方向が違います」
「…………え?? 」「どういう事……?? 」
「流された方向に戻ろうとしてもムダです。潮流に対して横方向を目指すんです。川で流された時といっしょで、流れに逆らっても勝てません。離岸流から離れれば、時間がかかっても漕いだだけ何とかなるようになります。うまくすれば岸に向かう潮に乗る事もできますよ。離岸流がある、という事は、その脇に『向岸流がある』という事なのです。岸を見ながら平行に、潮の流れを横切るように漕げばいいんです。落ち着きましょう。ひとまず目指すべきは岸ではなく、『潮流の外側』ですよ」
「「………… 」」
この金髪少女。どうやら離岸流の対応方法を知っているみたいだった。
――そしてしばらくの間、方向を確認しながらオールを操り―― どうにか海岸へと近づく事ができるようになった。もしかすると岸に向かって流れる潮の流れに乗ったのかもしれない。砂浜にどんどん近づいていって、助かった、もう大丈夫だ…… そう実感できるようになり、ようやく心に余裕が生まれてきた。
「何とかなりましたね。いやー、ヒヤッとしましたねぇ」
「ありがとね」「助かったわ」
いえいえお互い様ですよ、などと笑顔で返す金髪少女。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったよね。あたしは高野 恵。こっちは赤阪 信乃」
「山村 雪奈と申します。4月生まれの、9歳です!! 」
4月生まれの9歳…… 小学3年生か。大学生である自分達の、まだ半分しか経験を積んでいない子供に知識面で助けられるとは…… 親御さんがしっかりした人で、海の危険について事前教育をしていた、という事だろうか。現役で国立大に入学して学力的には相応の自信を持っていたけれど、雑学知識で小学生に負けているとか、少々情けなく思う。
「ボート遊びに携帯は必須ですね。ジェットスキーで曳航される辱めを受けたとしても、漂流するよりマシですし、保険として持っておいた方がいいでしょうね」
「今後は気を付けます」「まったくです」
海遊びは安全第一だと、小学3年生に諭されてしまった。もっとも反省するべき点だと感じていたので、特に反論する事もできない。それはそうとして、少し疑問に思っていた事を、目の前の金髪少女に聞いてみる。
「ところで雪奈ちゃんは、どういう状況だったの?? 」
「もちろん!! うかつにも流されそうになっていたのです!! 」
やっぱり仲間だったようだ。私たちは知恵と力を合わせて困難を乗り切ったのだ。
※※※※※※※※※※※※
「あー!! ユキちゃん見つけた!! 」
無事に砂浜にたどり着き、ボートを引き上げていると。雪奈ちゃんを見つけて女の子が駆け寄ってきた。
「恥ずかしながら、帰ってまいりました」
「もう、なに言ってんの。みんな探してるよ。こんな遠くまで来て。はやく戻ろう」
このネタ、今どきの若い子には通じませんねえ。
などと言いつつ、お姉さんさよならー、と手を振って去って行く小学生二人だった。太陽の光をキラキラ反射する浮き輪が、揺れながら遠ざかってゆく。
「…… あー、そういえば、ボート返却するのも、あっちの方だった」
「遠くて引っ張るの大変だけど、頑張ろうか…… 」
離岸流から逃れて岸に戻ってきたら、海水浴場の端っこまで来てしまった。ちょっと海で水遊びするつもりが、なんだか命がけのボート訓練みたいになってしまった。きっと明日は筋肉痛で動けなくなるだろう。疲れた身体にムチ打って、友人と二人でボートを引っ張っていく。
「それにしても、落ち着いた子だったね。今どきの小3ってスゴイね」
「いやー、ちょっと特別でしょ。見かけは子供、中身は大人!! みたいな感じだったよ」
「どこかの組織の薬品で子供になっちゃった少年探偵とか?? 」
「前世の記憶を持った転生者!! とかね!! 」
そんなバカな会話をしながら友達と二人、ボートを返却するために砂浜を進んで行く。
ヒドイ目に遭ったけれど、命が助かってしまえば夏の思い出の1ページだ。たぶん半年後くらいには思い返してゲラゲラ笑っている事だろう。
ちなみに帰り際に、あたし達と同じ地元から遊びに来ていたという男の子二人組と仲良くなって、アドレスを交換した。終わり良ければすべて良し。そんな一日だったと思う。
海で拾った海坊主…… いや、くすんだ金髪と青い目の、ちょっと不思議な雰囲気の女の子。またいつかどこかで、あの子と出会えたらいいな。そんな事を考えながら。サービスエリアの売店の真ん前に停めた車の中、翌日の筋肉痛と、髪と肌のお手入れに苦悩する未来を少しだけ想像しつつも―――― ただ、爆睡してしまう私たちなのだった。
どこかで『離岸流に流されてしまう人の話』を差し込んでやりたいなー、と思っていたので差し込んでおきました。離岸流の速度は水泳選手だって逆らえないパワーなので(場所による)気を付けたいですね。いつも同じ場所で発生するとは限らないので、皆さんご注意を。
まだ夏休みは続きます。現実世界の季節と合致してないけれど、少しでも近づけたいなぁ、などと悪あがきしつつも投稿していきたいと思います。今後とも、のんびりお付き合いくださると幸いです。




